52 / 117
cinqante-deux
しおりを挟む
んで女の密談を終えて給湯室を出た私は……そう言えば何か用があったようなで思い出した!
「あっ!社長だ!」
おっと上司命令忘れるところだった。今日は一本早い電車で来たから始業にはまだ時間がある、今から行っても大丈夫でしょ。
「ちょっと席外すね」
私は経理課を出てエレベーターに乗り、最上階にある社長室に向かうと秘書課の女性社員がドアの外に立ってらした。
「すみません、経理課の五条です」
「お待ちしておりました、中へどうぞ」
彼女はドアをノックし、失礼しますと言ってから私を伴い中に入る。
「遅ぇ……」
何でよ?普段なら間違いなく居ない時間だろあんた。
『今日は何故か既に居らしてたんです』
秘書の方がこそっと耳打ちで教えてくださる。
「境、下がっていいぞ」
社長の指示で彼女は一礼して社長室を出て行かれた。んでやたらと上等な椅子に座ってたホストはかったるそうに立ち上がり、人相の悪い顔で私を軽く睨んできた。
「ったくいつまで待たせんだよ……」
「何言ってんです?普段なら間違いなくいらっしゃらないでしょうが」
「おい、社長にケチ付けんのお前くらいだぞ」
「はいどうもすみません」
ホント面倒臭ぇ男だな。
「……まぁ良いや、ところで春香の奴まだ国分寺とかいう男と付き合ってんのか?」
「えぇもうこっちが見てて恥ずかしくなるくらいのラブラブっ振りですよぉ」
もういい加減諦めろって、あんた人相悪いけど見てくれは悪くないんだからそれなりにはモテるでしょ。それに人類総恋愛対象なんだから選びたい放題ヤりたい放題だろあんたの場合。
「はぁ~何で俺じゃねぇんだよ……」
「性根腐ってるからじゃないんですか?」
ってか常に数名のセフレをストックしてるような男絶対嫌でしょ普通。金持ってるだけにサクよりも質が悪い。
「あ”ぁ!?お前に群がる男共ほど腐ってねぇわ!」
ミミズに関してはあんたにだって責任の一端はあるだろうが、満田に関しては……ぶちぶち。
「まぁ如月はこっちでみっちり監視しまくっておくからこれ以上の被害は出さねぇようにする、何かあってもお前なら実力行使で何とかなるだろ。それと満田は山陰地方に異動したし、大分毒も抜けちまったらしいからもう来ねぇだろう……で、こっからが本題だ」
座れ。社長は机の上に置いてあるノートサイズの封筒を手にしてから、中央を陣取ってるソファーを勧めてきたので私たちは向き合って座る。するとおもむろに封筒に手を突っ込んで中身を取り出したが、紙の束であること以外は何かはまだ分からない。
「三井からあらかたは聞いてるな?」
はい。会社の外で私の事尋ね回ってたってアレだよね。
「満田じゃないんですか?」
あ"ぁ?人の話聞いてねぇだろと凄んでくるホスト。
「だったらわざわざお前をここに呼ばねぇよ。それにあいつん家は目と鼻の先、異動が無くてもそこまでアホな事しねぇだろうが」
「じゃ誰なんです?」
「それを今からお前に確認する、三井、椿、八木、東に土曜日集まってもらって男の特徴を聞いた上でモンタージュを作ってみた」
ほれ。社長は紙束の一番上のものを私に見せるようテーブルの上に置いた。私はそれに顔を近付けてよく見てみると……えっ!?嘘でしょ!?私はモンタージュ画像に言葉が詰まってしまった。
「……」
「どうやらコイツを知ってるみてぇだな」
知ってるも何も……私は目の前の光景そのものが信じられない。かと言って弥生ちゃんたちが嘘を吐いてるとも思えないし、東さんの特技を考えると信憑性はかなり高いとも言えるのだ。これは観念して正直に話した方がいいのか?でもやっぱり信じられないなぁ、そっくりさんかも知れないし。
「おい誰なんだそいつ?」
「……と言われましても」
いやぁ憶測のうちに話してしまうのはとためらう私。
「まぁ黙秘するんはお前の自由だが昼には社内通知する、そこは変更無しだ。それと石渡組の警戒態勢が更に強まるんは覚悟しとけ、ミッツが黙っちゃいねぇだろ」
は?何でそこでミッツが出てくんのよ?
「何変な顔してんだ?」
「いえ何故ミッツ?」
私は疑問を口に出しただけなのに社長には盛大なため息を吐かれてしまう。
「……ったくどこまで鈍感なんだこの女」
「それどういう意味です?」
「言葉のままの意味だアホ。チッ、話題逸れちまったじゃねぇかよ」
それはむしろあんたのせいだろうが、私何もしてないぞ。けどこれホント彼に似てる、一度問い質してみた方がいいような……。
「おい、まさか思い当たる奴に事実確認取ろうって考え持ってんじゃねぇだろうな?」
うっ、バレてる。
「それは止めとけ、いずれにしてもお前が得られる答えは『知らない、俺じゃない』の一択に決まってんだろ」
「そんなの分かんないじゃないですか」
「人ってのはいざとなると案外汚ぇ生きもんだ、自分の身を守る為なら嘘も吐くし裏切りもする。それが良いか悪ぃかは別の話だが、変な善意を前に出して庇い立てしたところでお前は一文の得もしねぇ、むしろ損だ。お前にとってそこまでの価値がそいつにあるのか?」
「……」
「ならお前はじっとしとけ、必要以上のアクションを起こさねぇ事だ」
もういいそ。私はゆるゆると立ち上がり、多少のショックを引きずったまま経理課に戻った。
「あっ!社長だ!」
おっと上司命令忘れるところだった。今日は一本早い電車で来たから始業にはまだ時間がある、今から行っても大丈夫でしょ。
「ちょっと席外すね」
私は経理課を出てエレベーターに乗り、最上階にある社長室に向かうと秘書課の女性社員がドアの外に立ってらした。
「すみません、経理課の五条です」
「お待ちしておりました、中へどうぞ」
彼女はドアをノックし、失礼しますと言ってから私を伴い中に入る。
「遅ぇ……」
何でよ?普段なら間違いなく居ない時間だろあんた。
『今日は何故か既に居らしてたんです』
秘書の方がこそっと耳打ちで教えてくださる。
「境、下がっていいぞ」
社長の指示で彼女は一礼して社長室を出て行かれた。んでやたらと上等な椅子に座ってたホストはかったるそうに立ち上がり、人相の悪い顔で私を軽く睨んできた。
「ったくいつまで待たせんだよ……」
「何言ってんです?普段なら間違いなくいらっしゃらないでしょうが」
「おい、社長にケチ付けんのお前くらいだぞ」
「はいどうもすみません」
ホント面倒臭ぇ男だな。
「……まぁ良いや、ところで春香の奴まだ国分寺とかいう男と付き合ってんのか?」
「えぇもうこっちが見てて恥ずかしくなるくらいのラブラブっ振りですよぉ」
もういい加減諦めろって、あんた人相悪いけど見てくれは悪くないんだからそれなりにはモテるでしょ。それに人類総恋愛対象なんだから選びたい放題ヤりたい放題だろあんたの場合。
「はぁ~何で俺じゃねぇんだよ……」
「性根腐ってるからじゃないんですか?」
ってか常に数名のセフレをストックしてるような男絶対嫌でしょ普通。金持ってるだけにサクよりも質が悪い。
「あ”ぁ!?お前に群がる男共ほど腐ってねぇわ!」
ミミズに関してはあんたにだって責任の一端はあるだろうが、満田に関しては……ぶちぶち。
「まぁ如月はこっちでみっちり監視しまくっておくからこれ以上の被害は出さねぇようにする、何かあってもお前なら実力行使で何とかなるだろ。それと満田は山陰地方に異動したし、大分毒も抜けちまったらしいからもう来ねぇだろう……で、こっからが本題だ」
座れ。社長は机の上に置いてあるノートサイズの封筒を手にしてから、中央を陣取ってるソファーを勧めてきたので私たちは向き合って座る。するとおもむろに封筒に手を突っ込んで中身を取り出したが、紙の束であること以外は何かはまだ分からない。
「三井からあらかたは聞いてるな?」
はい。会社の外で私の事尋ね回ってたってアレだよね。
「満田じゃないんですか?」
あ"ぁ?人の話聞いてねぇだろと凄んでくるホスト。
「だったらわざわざお前をここに呼ばねぇよ。それにあいつん家は目と鼻の先、異動が無くてもそこまでアホな事しねぇだろうが」
「じゃ誰なんです?」
「それを今からお前に確認する、三井、椿、八木、東に土曜日集まってもらって男の特徴を聞いた上でモンタージュを作ってみた」
ほれ。社長は紙束の一番上のものを私に見せるようテーブルの上に置いた。私はそれに顔を近付けてよく見てみると……えっ!?嘘でしょ!?私はモンタージュ画像に言葉が詰まってしまった。
「……」
「どうやらコイツを知ってるみてぇだな」
知ってるも何も……私は目の前の光景そのものが信じられない。かと言って弥生ちゃんたちが嘘を吐いてるとも思えないし、東さんの特技を考えると信憑性はかなり高いとも言えるのだ。これは観念して正直に話した方がいいのか?でもやっぱり信じられないなぁ、そっくりさんかも知れないし。
「おい誰なんだそいつ?」
「……と言われましても」
いやぁ憶測のうちに話してしまうのはとためらう私。
「まぁ黙秘するんはお前の自由だが昼には社内通知する、そこは変更無しだ。それと石渡組の警戒態勢が更に強まるんは覚悟しとけ、ミッツが黙っちゃいねぇだろ」
は?何でそこでミッツが出てくんのよ?
「何変な顔してんだ?」
「いえ何故ミッツ?」
私は疑問を口に出しただけなのに社長には盛大なため息を吐かれてしまう。
「……ったくどこまで鈍感なんだこの女」
「それどういう意味です?」
「言葉のままの意味だアホ。チッ、話題逸れちまったじゃねぇかよ」
それはむしろあんたのせいだろうが、私何もしてないぞ。けどこれホント彼に似てる、一度問い質してみた方がいいような……。
「おい、まさか思い当たる奴に事実確認取ろうって考え持ってんじゃねぇだろうな?」
うっ、バレてる。
「それは止めとけ、いずれにしてもお前が得られる答えは『知らない、俺じゃない』の一択に決まってんだろ」
「そんなの分かんないじゃないですか」
「人ってのはいざとなると案外汚ぇ生きもんだ、自分の身を守る為なら嘘も吐くし裏切りもする。それが良いか悪ぃかは別の話だが、変な善意を前に出して庇い立てしたところでお前は一文の得もしねぇ、むしろ損だ。お前にとってそこまでの価値がそいつにあるのか?」
「……」
「ならお前はじっとしとけ、必要以上のアクションを起こさねぇ事だ」
もういいそ。私はゆるゆると立ち上がり、多少のショックを引きずったまま経理課に戻った。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
Vの世界で理想の美少女やってたら、幼なじみに見られた……俺。
花月夜れん
恋愛
ゲームの動画配信をしている、私、ミツキは猫耳の超可愛い美少女です☆
すみません、ミツキはアバターです。中身は俺。高校二年生の男。遠坂樹です。
「可愛いから、ごめんなさい」「女の子みたい、ごめんね」そうやってフラれ続けること50回。俺はついに、美少女に出会った。画面のむこうにいる最高の女の子。
俺の理想の美少女。中身は俺だけどな!
そんなこんなでV活動を始めてしまったある日、自室でゲーム配信中、いつもなら鍵をかけているはずのドアがあいて、年下の幼なじみマキちゃんが見ていたんだ。美少女やっているところを……。
これは、V(ヴァーチャル)の世界で理想の美少女やってたら、幼なじみに見られた俺と見てしまった幼なじみの女の子のお話。
短いほわほわしたラブコメです。
小説家になろうとカクヨムでも投稿しています。
40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
和泉杏咲
恋愛
1度諦めたはずのもの。もしそれを手にしたら、失う時の方が怖いのです。
神様……私は彼を望んでも良いのですか?
もうすぐ40歳。
身長155cm、体重は88キロ。
数字だけで見れば末広がりで縁起が良い数字。
仕事はそれなりレベル。
友人もそれなりにいます。
美味しいものはそれなりに毎日食べます。
つまり私は、それなりに、幸せを感じられる生活を過ごしていました。
これまでは。
だから、これ以上の幸せは望んではダメだと思っていました。
もう、王子様は来ないだろうと諦めていました。
恋愛に結婚、出産。
それは私にとってはテレビや、映画のようなフィクションのお話だと思っていました。
だけど、運命は私に「彼」をくれました。
「俺は、そのままのお前が好きだ」
神様。 私は本当に、彼の手を取っても良いのでしょうか?
もし一度手に取ってしまったら、私はもう二度と戻れなくなってしまうのではないでしょうか?
彼を知らない頃の私に。
それが、とても……とても怖いのです。
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる