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quarante et un
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車はそのままバイパスに乗り、最終的に停車したのは県庁所在地の夜景が綺麗に見えることで有名なランドマークホテルだった。ここの二十六階にあるレストランは味も良く、土日祝日のみだが深夜営業をするくらいの人気スポットである。
「降りよか」
郡司君に手を引かれ、ずり落ちるように車から降りる。もう諦めてますよ、けどいきなり県庁所在地って……帰宅だけで一時間半かかるじゃない。多分今日中に発車する電車に乗れば帰れますよ、乗り換えはあるけど幸い深夜一時くらいまで電車ありますからね。私明日から二泊三日で家族旅行に出掛けるんです、五時に仕事が終わって六時過ぎに達吉さんのお店にいて、ものの十分で拉致られてただ今午後八時。
「女性客様、お忘れ物じゃないですか?」
先程の運転手さんが私を呼び止めて何かを差し出してきた。
「あっ! ありがとうございます」
それはチープながらもお気に入りのプラパンキーホルダー、姉と冬樹の共作で十五年ほど前に作ってくれた力作である。冬樹は絵が得意で色んな所に絵を描いていた。その中で特に出来の良かったマーガレットの花の絵を姉がプラパン加工したもので、何度落としても無くしても必ず手元に戻ってくるのだ。
「金具までは見付けられなくて……」
そう言われてバッグを見るとホルダー部分はバッグにそのまま残っていた。接続していたリングだけが何処かに行ってしまったのだろう、部品だけなら何とかなりそうだ。
「大丈夫ですよ、これさえ無くならなければ」
「間に合って良かったです、ハンドメイドっぽくて可愛いプラパンですね」
ありがとうございます、私はそれを受け取ってバッグにしまう。郡司君はその様子を見てはいたが特に反応すること無く、私の手を引いてエレベーターの前に立った。
「今二十六階のレストランから見える観覧車でプロジェクションマッピングしてるんやて」
それは職場内でも話題になっていたから知っているが、イベントそのものは年明けまでしているはず。何も今慌てて観る必要性はないと思うし、観れなかったところで多分何とも思わない。
「俺五条と一緒に観たかったんや」
「……」
だからってここまですることか?
「ちょっと強引過ぎたのは重々承知してる、けどリミットがあるから悠長にもしてられんと言うか……」
そうか、あくまでも出張だもんね……ってそれとこれとは違うだろ? 私にはどうひいき目に見ても彼の行動はおかしいと思うんだけど……。
「……なつ?」
「!」
こっここで名前呼びですか? 心臓に悪すぎるっ!
「時間の許される限り会えるだけ会いたい、惚れた女に対してそう思うんはおかしなことなんか?」
「……」
そんなこと言われても状況にもよるから分からない。気持ちだけの問題であればともかく他の人を巻き込んで騒ぎを起こしたいる以上やはり疑問符は付きまとう。それでも今私はこうして彼と一緒にいる、多分逃げる事だって出来たはずなのに心の何処かで自分に気持ちを向けてくれている事を嬉しく思っているのかも知れない。
「もうこんなんせえへんから、今日は楽しもう」
エレベーターのドアが開き、結果的に逃げられるチャンスをフイにした私は郡司君に手を引かれて中に乗り込む。その後誰とも乗り合わせず二十六階のレストランに到着するまでずっと二人きりだった。それをいい事に彼は私の体に密着するよう腰に腕を回してきて、先程までの不機嫌など吹っ飛んでドキドキが止まらなくなっていた。
でレストランでコース料理を頂いている最中の午後九時頃、観覧車をバックにプロジェクションマッピングが始まった。確かに綺麗だった、ゲンキンなものだが見られてよかったと思う。
「綺麗……」
思わず声に出して言ってしまう、観なかったところで何とも思わなかったという発言は(直接してないけど)こっそり撤回させて頂こう。
「せやな、なつと観られて良かった」
まだちょっとくすぶってる感はあるけど今更悔やんでも仕方が無い、こうなったら現状を思いっきり楽しむまでだ。と言いたいところだが、ここは星付きレストランで味の評判はかなり良いはずのにこの日に限って味がよく分からなかった。
夜もすっかり更けた十時過ぎに郡司君と別れ、一時間ちょっとかけてようやく帰宅した私を姉が飛び出すように出迎えてくれた。郡司君は送ると言ってくれたが、姉と顔を合わせると一悶着ありそうなのでお断りさせて頂いた。
「なつっ!」
「ただいまお姉ちゃん、ゴメンね心配掛けちゃって」
私は無傷、ちゃんと帰ってきたよ。
「はぁ……良かったぁ」
姉は私の肩に手を置いて一気に力が抜けたかの様に項垂れた。
「大袈裟だなぁ、電話だってしたじゃない」
「そうだけど顔を見るまで気が気じゃなかったんだから。客でもない男がずかずか入り込んできてなつを掻っ攫ったなんて聞かされて……こうたたちも追い掛けたけど用意周到にタクシーを付け停めしてて止めらなかったって」
「うん、タクシーの運転手さんが教えてくれて連絡だけはした方がいいって。さすがに車道のど真ん中で停車出来ないくらいに混んでたから」
「そう。小百合さん警察に通報しようとなさってたのよ、ウチで起こったトラブルを止められなくて申し訳無いって」
そっかぁ、まぁお店で起こったトラブルだから色んな方に心配掛けちゃってるなぁ。
「お風呂準備しておいたよ、小百合さんには連絡しておくから疲れ落としといで」
私たちは家に入り、思わぬ形で慌ただしくなった私の一日は終わりを告げ……なかった。
風呂から上がって髪を乾かしているとピンポンとチャイム音が鳴る。時刻はもう深夜零時、誰だろ?
「ひょっとしててつこたちかしら?」
姉がそう言いながら玄関を開けると、本当なら一緒に飲むはずだった仲間たちが勢揃いでやって来た。
「迷惑なのは承知してますが、なつ帰宅してます?」
「えぇ、一時間程前に帰ってきて今お風呂なの。ごめんね心配掛けちゃって」
「こっちこそ事態を防げなくて申し訳ありません」
てつこの声は何だか冴えない。
「顔見ないと安心出来ないかぁ……そりゃそうよね、折角来てくれたんだから上がってったら?」
「いえ、これだけ渡したくて……杏璃からの言伝です」
「直接渡してやってよ、もう出てくるはずだから」
杏璃から? 何だろ? 髪を乾かし終えた私はパジャマ姿で玄関に向かう。コイツら相手に今更気取る必要なんて無いが、ごみ捨て一つでわざわざ着替えてメイクもする姉には少々呆れられてしまう。
「いくら何でもパジャマは無いでしょ?」
「もう着替えるの面倒い、相手も今更だし。ゴメンね皆、迷惑掛けちゃって」
「それはもういいよ、なつのせいじゃないって」
「そうだよ、怪我も無いみたいで良かった……けど彼氏としてはどうかと思うぞ」
郡司君を知らないと思われるこうたとぐっちーは彼氏だと思っているようだ。
「彼氏ってほどじゃないわよ」
「彼氏じゃないなら尚のこと駄目だろ、あんなの一歩間違えたら犯罪だぞ」
訂正すると二人して更に渋い表情をする。この感じだと話は尽きなさそう、やっぱり上がってもらおう。
「やっぱり上がってってよ」
「いやいや、五条家明日から旅行でしょぉ?」
こうたの後ろになっている有砂がひょこっと顔を出してくる。心なしかちょっとヨレてないか?
「大丈夫よ、日の出と共に出掛ける訳じゃないんだから」
「いいじゃんいいじゃ~ん、あき兄ちゃん夜勤だからてつこちゃん安心して~」
といつの間にか私の後ろに立っている冬樹も六人を招き入れようとしてる。姉はキッチンに入ってもてなしの準備を始めてるしむしろ上がってって。
「それじゃお事無に甘えて……」
「「「「「お邪魔しまぁす」」」」」
てつこを筆頭に六人は家に上がり、皆をリビングに案内した。有砂は何故かこうたに首根っこを掴まれ、まるで捕獲されたネズミみたくなっている。
「何でああなってんの?」
私は最後に上がってきたげんとく君に聞いてみる。
「あぁ、郡司と引き合わせたからだな。『何であんなクズ紹介したんだぁ~っ!』ってこうたがキレた」
俺も軽く責められたよ、と苦笑いしている。いやいやあんな性格があったとは数回会った程度では分からないと思う、私だって驚いているんだから有砂とげんとく君だって寝耳に水状態だったんじゃないかな?
「有砂を責めるのはお門違いな気もするが俺も一枚噛んでるだけに強くは言えん」
まぁそうだね。私はげんとく君とリビングに入り、取り敢えずこうたから有砂を救出しておいた。
「降りよか」
郡司君に手を引かれ、ずり落ちるように車から降りる。もう諦めてますよ、けどいきなり県庁所在地って……帰宅だけで一時間半かかるじゃない。多分今日中に発車する電車に乗れば帰れますよ、乗り換えはあるけど幸い深夜一時くらいまで電車ありますからね。私明日から二泊三日で家族旅行に出掛けるんです、五時に仕事が終わって六時過ぎに達吉さんのお店にいて、ものの十分で拉致られてただ今午後八時。
「女性客様、お忘れ物じゃないですか?」
先程の運転手さんが私を呼び止めて何かを差し出してきた。
「あっ! ありがとうございます」
それはチープながらもお気に入りのプラパンキーホルダー、姉と冬樹の共作で十五年ほど前に作ってくれた力作である。冬樹は絵が得意で色んな所に絵を描いていた。その中で特に出来の良かったマーガレットの花の絵を姉がプラパン加工したもので、何度落としても無くしても必ず手元に戻ってくるのだ。
「金具までは見付けられなくて……」
そう言われてバッグを見るとホルダー部分はバッグにそのまま残っていた。接続していたリングだけが何処かに行ってしまったのだろう、部品だけなら何とかなりそうだ。
「大丈夫ですよ、これさえ無くならなければ」
「間に合って良かったです、ハンドメイドっぽくて可愛いプラパンですね」
ありがとうございます、私はそれを受け取ってバッグにしまう。郡司君はその様子を見てはいたが特に反応すること無く、私の手を引いてエレベーターの前に立った。
「今二十六階のレストランから見える観覧車でプロジェクションマッピングしてるんやて」
それは職場内でも話題になっていたから知っているが、イベントそのものは年明けまでしているはず。何も今慌てて観る必要性はないと思うし、観れなかったところで多分何とも思わない。
「俺五条と一緒に観たかったんや」
「……」
だからってここまですることか?
「ちょっと強引過ぎたのは重々承知してる、けどリミットがあるから悠長にもしてられんと言うか……」
そうか、あくまでも出張だもんね……ってそれとこれとは違うだろ? 私にはどうひいき目に見ても彼の行動はおかしいと思うんだけど……。
「……なつ?」
「!」
こっここで名前呼びですか? 心臓に悪すぎるっ!
「時間の許される限り会えるだけ会いたい、惚れた女に対してそう思うんはおかしなことなんか?」
「……」
そんなこと言われても状況にもよるから分からない。気持ちだけの問題であればともかく他の人を巻き込んで騒ぎを起こしたいる以上やはり疑問符は付きまとう。それでも今私はこうして彼と一緒にいる、多分逃げる事だって出来たはずなのに心の何処かで自分に気持ちを向けてくれている事を嬉しく思っているのかも知れない。
「もうこんなんせえへんから、今日は楽しもう」
エレベーターのドアが開き、結果的に逃げられるチャンスをフイにした私は郡司君に手を引かれて中に乗り込む。その後誰とも乗り合わせず二十六階のレストランに到着するまでずっと二人きりだった。それをいい事に彼は私の体に密着するよう腰に腕を回してきて、先程までの不機嫌など吹っ飛んでドキドキが止まらなくなっていた。
でレストランでコース料理を頂いている最中の午後九時頃、観覧車をバックにプロジェクションマッピングが始まった。確かに綺麗だった、ゲンキンなものだが見られてよかったと思う。
「綺麗……」
思わず声に出して言ってしまう、観なかったところで何とも思わなかったという発言は(直接してないけど)こっそり撤回させて頂こう。
「せやな、なつと観られて良かった」
まだちょっとくすぶってる感はあるけど今更悔やんでも仕方が無い、こうなったら現状を思いっきり楽しむまでだ。と言いたいところだが、ここは星付きレストランで味の評判はかなり良いはずのにこの日に限って味がよく分からなかった。
夜もすっかり更けた十時過ぎに郡司君と別れ、一時間ちょっとかけてようやく帰宅した私を姉が飛び出すように出迎えてくれた。郡司君は送ると言ってくれたが、姉と顔を合わせると一悶着ありそうなのでお断りさせて頂いた。
「なつっ!」
「ただいまお姉ちゃん、ゴメンね心配掛けちゃって」
私は無傷、ちゃんと帰ってきたよ。
「はぁ……良かったぁ」
姉は私の肩に手を置いて一気に力が抜けたかの様に項垂れた。
「大袈裟だなぁ、電話だってしたじゃない」
「そうだけど顔を見るまで気が気じゃなかったんだから。客でもない男がずかずか入り込んできてなつを掻っ攫ったなんて聞かされて……こうたたちも追い掛けたけど用意周到にタクシーを付け停めしてて止めらなかったって」
「うん、タクシーの運転手さんが教えてくれて連絡だけはした方がいいって。さすがに車道のど真ん中で停車出来ないくらいに混んでたから」
「そう。小百合さん警察に通報しようとなさってたのよ、ウチで起こったトラブルを止められなくて申し訳無いって」
そっかぁ、まぁお店で起こったトラブルだから色んな方に心配掛けちゃってるなぁ。
「お風呂準備しておいたよ、小百合さんには連絡しておくから疲れ落としといで」
私たちは家に入り、思わぬ形で慌ただしくなった私の一日は終わりを告げ……なかった。
風呂から上がって髪を乾かしているとピンポンとチャイム音が鳴る。時刻はもう深夜零時、誰だろ?
「ひょっとしててつこたちかしら?」
姉がそう言いながら玄関を開けると、本当なら一緒に飲むはずだった仲間たちが勢揃いでやって来た。
「迷惑なのは承知してますが、なつ帰宅してます?」
「えぇ、一時間程前に帰ってきて今お風呂なの。ごめんね心配掛けちゃって」
「こっちこそ事態を防げなくて申し訳ありません」
てつこの声は何だか冴えない。
「顔見ないと安心出来ないかぁ……そりゃそうよね、折角来てくれたんだから上がってったら?」
「いえ、これだけ渡したくて……杏璃からの言伝です」
「直接渡してやってよ、もう出てくるはずだから」
杏璃から? 何だろ? 髪を乾かし終えた私はパジャマ姿で玄関に向かう。コイツら相手に今更気取る必要なんて無いが、ごみ捨て一つでわざわざ着替えてメイクもする姉には少々呆れられてしまう。
「いくら何でもパジャマは無いでしょ?」
「もう着替えるの面倒い、相手も今更だし。ゴメンね皆、迷惑掛けちゃって」
「それはもういいよ、なつのせいじゃないって」
「そうだよ、怪我も無いみたいで良かった……けど彼氏としてはどうかと思うぞ」
郡司君を知らないと思われるこうたとぐっちーは彼氏だと思っているようだ。
「彼氏ってほどじゃないわよ」
「彼氏じゃないなら尚のこと駄目だろ、あんなの一歩間違えたら犯罪だぞ」
訂正すると二人して更に渋い表情をする。この感じだと話は尽きなさそう、やっぱり上がってもらおう。
「やっぱり上がってってよ」
「いやいや、五条家明日から旅行でしょぉ?」
こうたの後ろになっている有砂がひょこっと顔を出してくる。心なしかちょっとヨレてないか?
「大丈夫よ、日の出と共に出掛ける訳じゃないんだから」
「いいじゃんいいじゃ~ん、あき兄ちゃん夜勤だからてつこちゃん安心して~」
といつの間にか私の後ろに立っている冬樹も六人を招き入れようとしてる。姉はキッチンに入ってもてなしの準備を始めてるしむしろ上がってって。
「それじゃお事無に甘えて……」
「「「「「お邪魔しまぁす」」」」」
てつこを筆頭に六人は家に上がり、皆をリビングに案内した。有砂は何故かこうたに首根っこを掴まれ、まるで捕獲されたネズミみたくなっている。
「何でああなってんの?」
私は最後に上がってきたげんとく君に聞いてみる。
「あぁ、郡司と引き合わせたからだな。『何であんなクズ紹介したんだぁ~っ!』ってこうたがキレた」
俺も軽く責められたよ、と苦笑いしている。いやいやあんな性格があったとは数回会った程度では分からないと思う、私だって驚いているんだから有砂とげんとく君だって寝耳に水状態だったんじゃないかな?
「有砂を責めるのはお門違いな気もするが俺も一枚噛んでるだけに強くは言えん」
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