どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

文字の大きさ
上 下
80 / 145
やっとこさ本編

語り部ジャック 波那編 皆で息子を甘やかす

しおりを挟む
 翌朝、今日は泰地が朝食を作ってくれました。僕たちにはご飯と味噌汁に焼きナスのお浸し、伽月にはお粥。それを持って伽月の部屋に運びに行って戻ってきたところでちょっと神妙な顔付きになっています。
 「何かぶり返してるみたいなんだ。さっき熱測らせたら七度八分あってさ」
 「疲れさせちゃったかな?」
 昨日は声が出ない以外は至って元気だったんだけど……。
 「う~ん、そう思って波那ちゃんと同じくらいの時間に休ませたんだ。眠れなかった可能性はあるかも知れない」
 ずっとモソモソしてたから。泰地は昨夜伽月の部屋で寝たみたいです。
 「昨夜ちょっとケータイいじってて……ほどほどにしとけ、って言ったらすぐに止めてたんだけど」
 「確かにアレ案外疲れるから、かと言って取り上げちゃうのも違うよね?」
 「そうだね、そこまでする必要は無いか……それと二人の弁当、作ったんだ」
 ホントに?実は今朝起きられなかったんだよね……自作弁当じゃないから品評会には参加出来ないけど、泰地の気配りには感謝感謝です。
 「ありがとう、助かっちゃった」
 「俺今日牟礼ムレさんと取引先に行くんだ、出先の公園ででも食うよ」
 星哉も嬉しそうにお弁当を見つめています。彼女も基本お弁当持参だからね。
 「たまちゃんとパートナー組んで何年になる?」
 あっ、補足説明をすると『たまちゃん』は牟礼さんの事ね。名前が珠希タマキだから、今や恒例のバーベキューメンバーの間ではそう呼ばれてるんです。今年は久し振りに参加予定、楽しみ♪
 「三年半くらいかな。そこらの男社員より仕事出来るし、さすが“ワンフォーオール”の派遣社員だよ、教育がしっかり行き届いてる」
 たまちゃんは今や営業部唯一の派遣社員さんで、一時期流行った“派遣狩り”もどこ吹く風状態で正社員以上の働き者なんです。だから信頼度も高いし、言われなければ分からないくらいに江戸食品の中に溶け込んでます。“ワンフォーオール”の話は今必要じゃないからここでは割愛するね。僕たちは今日も泰地に留守を任せて仕事に向かいましたが、やっぱり気になる“息子”の様子……。

 それは星哉も同じみたいで、お中元商戦真っ只中のこの時期には珍しく定時で帰宅してきます。
 「それが出来るなら普段も早く帰ってきてよ」
 なんてプチ嫉妬したりしつつも、弟可愛さに甲斐甲斐しく看病しています。
 「何か欲しいもんあるか?」
 「どっか不自由してる事ねぇか?」
 ……と“溺愛”と言うか“甘やかし”状態なので伽月は苦笑いしてるけど、それでもお兄ちゃんに構ってもらえて嬉しそうです。僕が知り合った頃にはすっかり健康体だったから風邪もほとんど引かなかったし、どこか泰地に対しては『これ以上甘えちゃいけない』って思い込んでるみたいで。泰地本音ではもっと甘えて欲しいんだよ、いくつになっても可愛い弟だからね。
 「今の兄さん孫を溺愛するお爺ちゃんみたいだな」
 確かにその表現が一番しっくりきます、十五歳を構いまくる三十一歳のお爺ちゃん……って事は僕もお爺ちゃん?
 「俺これまで伽月に優しくしてやれなかったから……」
 「そんな事無いよ、何だかんだで泰地を一番信頼してる。ただ自分のせいで泰地の将来を狭めた、とは思い込んでるみたいだけど」
 「それは違うんだけどね、この機会にちゃんと話そうと思ってるんだ。これまでずっと後回しにしちゃってたから」
 泰地はお母さんが亡くなられた時点で、自分自身の青春は高校迄に悔いなく謳歌する事は決めてたみたいなんです。だから勉強も部活動も真剣に取り組んで、部活動でしてたラグビーは地区予選敗退のチームを全国大会出場に貢献する活躍をしたから、本人は「やりつくした」って満足してるんです。彼の母校は今やラグビーの強豪校、一昨年遂に全国優勝したからね。
 当然の様に実業団とか大学からの推薦はわんさかとあったらしいし、お父さんにはラグビーを続けるよう進言されてたそうなんだけど、部活動を引退した時にそれで上を目指す気はもう無かったんだって。で、お祖母さんのご友人が社長を務めてる今の会社で、アルバイトを経てそのまま正社員になって今に至る、と。
 「仮にラグビーを続けてたとして、自分がプロの選手として活躍出来るなんて思わないよ。あの学校で、あのメンバーだったからあそこまでの成績を残せたんだと思う。それに俺の稼いだお金がアイツの成長に役立ってると思うと、仕事なんていくらでも頑張れるし良いモチベーションにもなるんだよ」
 ホント泰地立派だよ、僕仕事にウエイト置いてないから凄く尊敬する。まぁ出世がどうとか元々興味無いし、今は星哉や伽月がいかに快適に暮らせる家庭を作れるかの方が重要事項だからね。そう言えば今日の夕飯は伽月のリクエストで冷やし中華作るんだった、錦糸玉子焼かなきゃ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...