どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

文字の大きさ
上 下
51 / 145
やっとこさ本編

やっぱりおかしいぞ遵斗……

しおりを挟む
 バイトを終えてライブハウスの最寄り駅に着いたのは大体七時二十分くらいだった。遵斗は駅で待っててくれて、ちょっと痩せた様にも見えたけど案外元気そうでひと安心する。
 「悪ぃ、開演に間に合わなくて」
 「構わないよ、それは分かってた事だし。メンバーの到着が遅れてかなり押してるらしいんだ」
 開場すらしてないよ。俺たちは取り敢えずライブハウスの方向に向かい、途中ファーストフード店に立ち寄って腹ごなし。俺はここでも期待に応えて(?)二人分をあっさり完食、大概誰かにガン見されるけどそんなのもう慣れちまった。
 「お前ホントすげぇ食欲……」
 そおか?なんて事を言いつつも病み上がりの奴にはちょっとキツかったか……。
 「……食欲湧かない時にはキツいか」
 「あぁ、ちょっとな……」
 遵斗は弱々しく笑うとトイレに立った。で、そのタイミングを見計らったかの様にケータイが動きを見せる。あっ、兄貴だ。
 「仕事は?」
 『休みだよ。今日ライブハウスじゃなかったか?』
 「押してるんだ、それらしいのもウヨウヨしてるし」
 『確かХХХだったよな?』
 うん。俺はさっき渡されたチケットを確認する。
 『出来る事なら引き返して欲しいところだけど……せめてライブ本編が終わったら帰れ』
 「多分そうなるよ、波那ちゃんと兄さんにも『終電までに帰ってこい』って言われてっから」
 それなら良いけど。普段なら羨ましがってくるのに何か反応が変だな。
 「ХХХ好きだったじゃん」
 『昔の話だ。最近は曲も良くないし黒い噂が後を絶たないからさ。実際行った知り合いも変だった、って言ってるし』
 そうなのか?俺は兄貴の言葉に悩んでしまう。まぁこの事は遵斗には黙っておこう。
 「父さんの七回忌、波那ちゃんの実家でやるのはどうか?って早苗さんが」
 『何だか申し訳無い気もするけど……その方が近いからお寺さんも通いやすいかぁ』
 「前乗り出来るんなら午前中にお願いする?」
 『三日休みは貰えたけど前乗りは無理だな』
 「じゃあ午後からで話しておくよ」
 『悪いな、本来なら俺がする事なんだけど……』
 「良いよ、そんなの。出来る奴がやれば済む話だろ?」
 そろそろ遵斗戻ってくるかな?何気にトイレを見ると……あっ、出てきた。
 「そろそろ切るよ、開場してるかも知れないから」
 分かった。俺たちはそこで話を終えて遵斗を待つと、戻ってくるなり打ち上げ参加しね?と言ってきた。おいおい、明日も学校あるんだぞ……。
 「ゴメン、終電までに帰ってこいって言われてる」
 「はぁ?何だそれ?」
 遵斗は急に不機嫌な表情を見せてくる。いやいや、俺たち高校生だぞ。
 「保護者の体調が優れないんだ、変に心配かけて入院とかになるのも……」
 ゴメン波那ちゃん、俺の嘘を許してくれ。
 「……そうか、分かった」
 そろそろ行こう。俺たちはファーストフード店を出て会場に向かう。その間俺たちはほとんど言葉を交わさず、何だか居心地の悪い雰囲気になってしまったけど、取り敢えずライブは目一杯楽しんで二時間押しでも十一時過ぎに無事終演した。オールスタンディングで揉みくちゃになって遵斗がどこにいるのかも分からない。終電は零時二十二分、多少探しても良かったんだろうけどとにかく外に出たかったんだ。開演前から変な匂いが充満してて頭がちょっとクラクラする、俺は帰る事だけメールすると一目散に外に出た。
 あ~苦しかったぁ……。この辺りは飲み屋街だから普段はむしろ空気の悪い場所なのに今はここでも充分快適に感じられる位にライブハウス内の空気は最悪だった。子供の頃の話だけど俺喘息持ちで気管支が弱いんだ。俺の喉は久し振りにイガイガしてて咳をしたくなってきた。で、子供の頃から御守りの様にマスクを携帯してて、久し振りにそれを着用する。暑いけど無いよりずっと良いや。
 さっ帰ろう、としてるのにいきなり腕を掴まれる。何なんだよ、今週入ってこの展開何度目だ?
 「すんません、離してもらっていいすか?」
 俺は一応声を掛けて腕を振りほどく。相手は見た事も無い知らない男、俺に何の用だ?
 「何帰ろうとしてんだよ?これから打ち上げだよぉ」
 「いえ、明日学校あるんで」
 あのさぁ、成人だらけの打ち上げに高校生を誘うなよ。
 「学校ぉ?んなのサボれば良いだろ?」
 「いえ、単位足りなくてヤバイんすわ」
 俺は大学生の振りをしたけど、高校だって単位はあるんだぞ。ってか明日は楽しみな人体学の授業なんだ、何が何でも授業に出たいんだよ!
 「君いくつ?未成年な訳?」
 「えぇ、十五です」
 なんだガキじゃん……そいつが頭を掻いてる隙にそいじゃ、と駅に向かおうとすると今度は前に回り込んでくる。
 「折角だから行こうよ、お酒は飲ませないからさ」
 「勘弁してください、ウチ門限あるんで」
 「門限ってどこの坊っちゃんなんだよ?」
 ……いや、普通だと思うけど。それにしてもくどいなぁ、俺がノリ悪いもんだから段々目がつり上がってるわ。
 「アンタ高校生誘い込んで何かあったら責任取れるのか?」
 ん?ここで思わぬ救世主(?)、聞いた事あるこの声は……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

処理中です...