どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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やっとこさ本編

もう頭パンパンだぁ~!……

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 四時限目を終え、俺は喜多川に連れられて学校の裏手方向にある大きな河川敷に到着する。そこは半端なくデカイドッグランがあって真っ昼間から散歩客で大盛況だ。
 「こんな所あったのか?」
 「あぁ、ずっと学校に閉じ籠ってるよか良いだろ?」
 そうだな。俺たちは散歩道脇のベンチに座ってひとまず弁当を食う事にする。
 「それ全部食うのか?」
 早速二人分仕様の弁当に反応される。普段一緒に飯食う連中はもう慣れちまってるからこの反応は久し振りだ。
 「あぁ、相撲やってた名残なんだ」
 「その細さで相撲をか?」
 「いや、痩せちまったから辞めたんだ。当時は颯天以上のおデブだった」
 「丹波以上のか……アイツだって力士にしては細いと思うけど」
 俺たちはそんな会話をしながらひとまず弁当を平らげる。今日も快晴、こんな日は授業をトンズラしたい……この後の二時限は選択科目で美術だからしないけど。
 「こんな日は授業サボりたいな」
 えっ?まさかこの男からそんな台詞を聞くと思ってなかった……それが思いっきり顔に出てたみたいで、変か?と笑われる。
 「いや、俺もほぼ同じ事考えてた。ただ喜多川からその台詞が出てくると思わなかったよ」
 「あぁ……俺ガリ勉だと思われがちで。そうでもないつもりなんだけど」
 「ガリ勉だとまでは思ってないけどお堅いタイプだと思ってた」
 多分喜多川の場合は顔のせいかもな、何かインテリサラリーマンみたいな風貌してるからさ。キリっとしてるし声も低音で言葉のチョイスも賢そうなんだよ、まぁ平たく言っちまうとこの前まで中学生だったとは思えない……俺もあんま人の事言えないか。
 「畠中はちょっとした不良なのかと思ってた。ホラ、保体の“コンドーム事件”が強烈だったからさ」
 アレか……それがさっきのブチギレ話に繋がるんだけど。一番最初の保体の授業が軽く性教育の話題で一人一つコンドームを渡されたんだ。その時に”ヤシクッス“の連中がそれで遊びだして。そんなの休み時間にしろよ……それだけでも授業が中断されてイラッときてるのに、それを結嶋の頭に被せようとしやがって。先生に注意されてもヘラヘラしてるから、騒ぎの中心人物柳川に使い方知らねぇみたいだから教えてやるってまぁケンカ吹っ掛けた訳よ。
 で、緩慢な動きで殴りかかってきたのをあっさり押し倒してズボンずらしてやったんだ。まぁあの程度に負ける訳無ぇしパンツもまとめて下ろしてやったから言わば“陰部”を俺に晒され、しかもそれが可哀想な位にショボくて正直笑えるレベル。さすがに先生に止められてはめてやれなかったけど多分余るな、ありゃ。
 「不良だったら一緒に遊ぶだろうが?」
 「いやさ、不良にも善し悪しがあるのかと思って。畠中の場合は善い不良、少なくとも神崎と角は怖がってたぞ、数学の補習で一緒になるまではな」
 ……ハハハ、それ言われたよ、補習の時に。特に角なんて補習の時には隣の席になるから最初は目も合わせてくれなくて。今となっては補習仲間皆仲良いよ、そのお蔭で他のグループの奴らとも仲良くなるきっかけも出来たしさ。ただ喜多川とこうして話すのは初めてだな、確か遵斗と同じ中学のはずだけど……。
 「話って……遵斗の事、だよな?」
 「あぁ……今朝のあの顔見て何て思った?」
 「……死体みたいだなって。あと足取りがヤバそうだった」
 それだけか?喜多川は期待してる答えを引き出せてないとでも思ってるのか更に突っ込んで聞いてくる。あとは……ラリってた、とかか……あっ、そう言えば。
 「何かさ、不自然な甘ったるい匂いがした」
 「それだ!あの男中学の時からドラッグに手ぇ出してんじゃないか?って……噂レベルの話だったんだけど、ああいった態度の時がたまにあったんだよ」
 マジかよ……?ただ昨日も田丸からおかしな話聞いてるんだよな。普段の行動からは考えられない“奇行”で未だに信じられないんだ。今となってはアイツが嘘を付いてるとも思えなくて正直遵斗とどう接すれば良いのか悩んじまってる。
 「平泉とは距離を置いた方が良い、席が隣だから急には無理だろうけど」
 そうした方が良いかも知れない……俺は金曜日の約束だけはそのままにしてから考える事にした。
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