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夏本番
その一
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七月に入り、箱館市内では毎年夏祭りイベントが各地で行われる。『オクトゴーヌ』のご近所である坂道商店街も例外ではなく、今年も一年で最も盛大な祭りに向け至る所で準備が始まっていた。今回も鵜飼を始めとした商店街自治会青年部で結成されているパトロール部隊も稼働し、レストラン等の飲食店が十八番レシピを特設会場で振る舞うイベントもある。
「こんちわ~」
約半年振りに再集結したパトロール部隊が『オクトゴーヌ』にやって来る。この時も例にもれず剣道元国体選手の鵜飼がリーダーを努め、同級生の八木、信原、道岡も同行していた。
「いよいよ稼働さすんやな」
「ん、去年はひと悶着あってあんましだったけどささ、無いよりかはマシしたからって」
「一応は上からの依頼だべさ」
四人はトラブルに巻き込まれながらもこれまでの実績を買われたようだ。
「今年は去年ほど物騒でねえべ」
「去年は俺もご迷惑をお掛けしましたんで」
山下貞行の一件では堀江も元知人として事件に関わってしまっているので、当時怪我をした鵜飼以外の三人に頭を下げる。
「ん? なして堀江さんが頭下げらさってんだべ?」
「さぁ、なしてだべな」
鵜飼は三人に詳細を話していないため、知らぬ存ぜぬといった感じですっとぼけている。
「確か『離れ』に乗り込まれて人質取られたって聞かさってるけどさ」
「えぇ、まぁそうなんですが」
堀江は自身のひと言で話がズレ始めているのを感じ、受け答えがしどろもどろになっていく。
「したらむしろ被害被らさってないかい?」
「んだんだ、気に病み過ぎだべ」
鵜飼が話を締めたことでその話題は終了した。
「したからさ、今年もパトロール手伝わさってほしいのさ」
「うん、一人ずつでよければ」
「助かんべ。吾君あたり戦力にならさりそうだべな」
「分かった、言うとくわ」
その話を聞いていた義藤が鵜飼のそばに歩み寄る。
「オレも参加したいっす」
「ダメ、遊びでねえんだ」
「え~っ」
「入隊条件は二十歳以上で身長百七十以上、それ満たさってないとさ」
「むぅ」
年齢は十七、身長は百六十四センチの義藤では条件を満たしておらず、四人を見上げて膨れっ面を見せる。
「基準は信だべ、ギリ百七十センチしたからさ」
「よしっ! 今日から牛乳飲むっ!」
「牛乳飲まさったら身長が伸びるとも限らんべ」
パトロール部隊一長身の八木は困った表情を見せて頭を掻く。
「こん男牛乳嫌いしたって百八十くらいあるしたからさ」
「そうなのか?」
「どのみちあと二年は無理やな。身長の方は可能性あるんちゃうか?」
「おうっ!」
何事にも興味を示す義藤は、商店街自治会から要請される盆踊り大会の準備も積極的に手伝っていた。そのお陰か周辺住民ともすぐに打ち解け、そこいらで可愛がられている。
「若い人材が増えらさるんは商店街にとっても良いことだべ」
「去年は『オクトゴーヌ』さんと『アウローラ』さんの自治体加入で活性化が図れとるこいて会長さんも喜んでたべ」
商店街自治会加盟店の中でも古参の部類に入る学生服店の八木と、老舗靴屋の道岡は互いに顔を見合わせて頷き合っている。
『クリーニングうかい』も店自体は古いのものの、かつて在籍していた商店街はシャッター状態が続いて寂れてしまい、今は自宅兼工場に店舗も増築している。それがきっかけで自宅から最も近い坂道商店街との交流ができ、父の代で自治会に加入した。
「そう言えば最近調理の方見ないべな」
信原はパンと雪路目当てで時々ここを訪れるため、『オクトゴーヌ』の人員の変化に気付いているようだ。
「えぇ。最近調理スタッフを一人増員しまして、試験的にカフェと宿泊業務を分担しているんです」
「そうですかい」
堀江の当たり障りない返答に信原は納得したように頷き、深入りはしなかった。
「わち“ヅケカツ定食”好きだべさ」
魚好きの道岡は、下心込みで最近ここに出入りするようになっていた。
「ありがとうございます、元は先代が得意としていた宿泊用の定食メニューだったんです」
「そうなんかい、俺もまくろうてみようかいな?」
同じく魚好きの八木も興味を示す。
「是非、手前味噌ですがオススメ致します」
ペンションのオーナーを務めて一年以上経過し、堀江も商売人らしく売り込みに余念が無い。道岡はそんな会話をよそに、この日もきれいな笑顔を振りまいて接客をしている雪路に視線を奪われ鼻の下を伸ばしている。
「やっぱし彼女めんこいべ」
「またかい? アンタ」
鵜飼はそんな調子の同級生を冷たくあしらっていると、厨房から焼き立てのパンを陳列しに出てきた嶺山がパトロール部隊に気付く。
「久々に活動すんねやな」
「はいっ! 今年も美女たちの安全を守らさりますっ!」
ヘタに張り切る道岡に嶺山は失笑した。
「まぁ怪我とかには気ぃ付けや」
「この身を呈して雪路さんはわちがお守り……」
「弱そうやから却下」
道岡の気合いは軽く一蹴され、半ベソ状態で項垂れている。
「アンタよか嶺山さんの方が強そうだべ。厚かましいお願いしたってさ、『アウローラ』さんもパトロールに参戦していただけると嬉しべ」
「条件考えたら俺だけになるけど」
従業員の日高は身長が足りず、浜島は日が浅い上に期間限定要員なので地元行事に関わらせる予定は無い。
「助かんべ、嶺山さんがいてくれらさったら心強いべさ」
それでもパトロール部隊にとってガタイの良い嶺山の参戦は心強かった。
「こんちわ~」
約半年振りに再集結したパトロール部隊が『オクトゴーヌ』にやって来る。この時も例にもれず剣道元国体選手の鵜飼がリーダーを努め、同級生の八木、信原、道岡も同行していた。
「いよいよ稼働さすんやな」
「ん、去年はひと悶着あってあんましだったけどささ、無いよりかはマシしたからって」
「一応は上からの依頼だべさ」
四人はトラブルに巻き込まれながらもこれまでの実績を買われたようだ。
「今年は去年ほど物騒でねえべ」
「去年は俺もご迷惑をお掛けしましたんで」
山下貞行の一件では堀江も元知人として事件に関わってしまっているので、当時怪我をした鵜飼以外の三人に頭を下げる。
「ん? なして堀江さんが頭下げらさってんだべ?」
「さぁ、なしてだべな」
鵜飼は三人に詳細を話していないため、知らぬ存ぜぬといった感じですっとぼけている。
「確か『離れ』に乗り込まれて人質取られたって聞かさってるけどさ」
「えぇ、まぁそうなんですが」
堀江は自身のひと言で話がズレ始めているのを感じ、受け答えがしどろもどろになっていく。
「したらむしろ被害被らさってないかい?」
「んだんだ、気に病み過ぎだべ」
鵜飼が話を締めたことでその話題は終了した。
「したからさ、今年もパトロール手伝わさってほしいのさ」
「うん、一人ずつでよければ」
「助かんべ。吾君あたり戦力にならさりそうだべな」
「分かった、言うとくわ」
その話を聞いていた義藤が鵜飼のそばに歩み寄る。
「オレも参加したいっす」
「ダメ、遊びでねえんだ」
「え~っ」
「入隊条件は二十歳以上で身長百七十以上、それ満たさってないとさ」
「むぅ」
年齢は十七、身長は百六十四センチの義藤では条件を満たしておらず、四人を見上げて膨れっ面を見せる。
「基準は信だべ、ギリ百七十センチしたからさ」
「よしっ! 今日から牛乳飲むっ!」
「牛乳飲まさったら身長が伸びるとも限らんべ」
パトロール部隊一長身の八木は困った表情を見せて頭を掻く。
「こん男牛乳嫌いしたって百八十くらいあるしたからさ」
「そうなのか?」
「どのみちあと二年は無理やな。身長の方は可能性あるんちゃうか?」
「おうっ!」
何事にも興味を示す義藤は、商店街自治会から要請される盆踊り大会の準備も積極的に手伝っていた。そのお陰か周辺住民ともすぐに打ち解け、そこいらで可愛がられている。
「若い人材が増えらさるんは商店街にとっても良いことだべ」
「去年は『オクトゴーヌ』さんと『アウローラ』さんの自治体加入で活性化が図れとるこいて会長さんも喜んでたべ」
商店街自治会加盟店の中でも古参の部類に入る学生服店の八木と、老舗靴屋の道岡は互いに顔を見合わせて頷き合っている。
『クリーニングうかい』も店自体は古いのものの、かつて在籍していた商店街はシャッター状態が続いて寂れてしまい、今は自宅兼工場に店舗も増築している。それがきっかけで自宅から最も近い坂道商店街との交流ができ、父の代で自治会に加入した。
「そう言えば最近調理の方見ないべな」
信原はパンと雪路目当てで時々ここを訪れるため、『オクトゴーヌ』の人員の変化に気付いているようだ。
「えぇ。最近調理スタッフを一人増員しまして、試験的にカフェと宿泊業務を分担しているんです」
「そうですかい」
堀江の当たり障りない返答に信原は納得したように頷き、深入りはしなかった。
「わち“ヅケカツ定食”好きだべさ」
魚好きの道岡は、下心込みで最近ここに出入りするようになっていた。
「ありがとうございます、元は先代が得意としていた宿泊用の定食メニューだったんです」
「そうなんかい、俺もまくろうてみようかいな?」
同じく魚好きの八木も興味を示す。
「是非、手前味噌ですがオススメ致します」
ペンションのオーナーを務めて一年以上経過し、堀江も商売人らしく売り込みに余念が無い。道岡はそんな会話をよそに、この日もきれいな笑顔を振りまいて接客をしている雪路に視線を奪われ鼻の下を伸ばしている。
「やっぱし彼女めんこいべ」
「またかい? アンタ」
鵜飼はそんな調子の同級生を冷たくあしらっていると、厨房から焼き立てのパンを陳列しに出てきた嶺山がパトロール部隊に気付く。
「久々に活動すんねやな」
「はいっ! 今年も美女たちの安全を守らさりますっ!」
ヘタに張り切る道岡に嶺山は失笑した。
「まぁ怪我とかには気ぃ付けや」
「この身を呈して雪路さんはわちがお守り……」
「弱そうやから却下」
道岡の気合いは軽く一蹴され、半ベソ状態で項垂れている。
「アンタよか嶺山さんの方が強そうだべ。厚かましいお願いしたってさ、『アウローラ』さんもパトロールに参戦していただけると嬉しべ」
「条件考えたら俺だけになるけど」
従業員の日高は身長が足りず、浜島は日が浅い上に期間限定要員なので地元行事に関わらせる予定は無い。
「助かんべ、嶺山さんがいてくれらさったら心強いべさ」
それでもパトロール部隊にとってガタイの良い嶺山の参戦は心強かった。
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