電車

みゆたろ

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異変

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ある日、10時すぎーー。
その電車の中に異変が起きていた。

ホームレスのようなみすぼらしい男の老人がイスをベッドにして眠っている。

老人は白髪と黒い毛が半々で少々だらしない感じがした。
髪は乱れ、小顔で、皮膚は黒く日焼けしている――だが、着ている服などは乱れまくっている。
眠っているのだから当然かも知れないが、見たところ、ふろう者のようだ。

ーーこの人なんだろ?

通り過ぎる人々が、電車で眠っているその男に違和感を感じ、チラチラと見ている。
それもそうだろう。
こんなところで眠る人なんて、なかなかいない。
それもベッド代わりにして横になるなんてあり得ない。

誰かから通報が行ったのだろう。

二人くらいの駅員が声をかける。しかし、一向に起きる気配はなかった。
バタバタと駅員が集まってくる。
二人だった駅員が、五、六人にまで増えてきた。



少し前に駅員が集まってきた。 
しかし、眠っている男は酔っ払っているのか?いくら声をかけても起きそうもない。

「お客さん!!ちょっとお客さん、起きて!!」

ガッシリした体格のメガネの駅員がいう。

「お前には、関係ない」

眠りこけていた老人が偉そうに言う。

「ここ電車だから、お客さんの邪魔になるから、とりあえず降りよう!」

上半身を起こされた時、その老人のポケットから、小銭がバラバラと散らばる。

「中村、お金拾っといて!」

ガッシリした駅員が、細めの駅員に指示を出す。 
細めの駅員は、どうやら中村というらしい。
中村という駅員が小銭を広い集める。

「お金は預かってますからね!」

中村という駅員が、眠っている男に声をかけると、ガッシリした駅員が力づくで彼を座らせようとするが、なかなか重そうだ。
他の駅員も協力して、声をかけている。

「とりあえず起きましょうか?」

女性の駅員とガッシリした駅員が体を支え、眠っている老人を無理矢理起こす。
だが、彼はまた横になってしまう。
これじゃラチがあかない。

「中村、車椅子持ってきてーー」

ガッシリした駅員が、指示を出す。
ものの数秒後に、車椅子が到着した。

駅員が数人がかりで、老人の体を支えながら老人を立たせる。
足がよろける。
老人の体をガッシリと抱えながら、ガッシリとした駅員が聞く。

「歩けるの?車椅子に乗るの?どっち??」

ガッシリした駅員が強い口調で聞く。

「ぜんぜん、人いないじゃねーか?」

「いっぱいいるわ」

そこまで混んではいない。
ただ乗客の邪魔になる事だけは間違いないだろう。

「――おじさん、酔っ払ってるのかな?」

乗客の一人が、笑いながらみている。
ようやくの思いで、老人を電車の外に引きずり出した駅員たちは、外で話している。

「俺は帰るだけだ!」

老人が言う。



長い戦いだった。
駅員たちからすれば、ようやくの思いだっただろう。
彼を車椅子に乗せ、なんとか電車から引きずり出すと外で話し始める。

「俺は家に帰りたいだけだ!」

眠っていた男がいう。

「おじさん、電車に乗ってたのは分かってるね?どこに帰るの?どこに行きたいの?」

駅員が問いかける。

答えられない老人の声が小さくなる。
まるで叱られている子供のように、声が小さくなっている。
老人から見て、駅員はどんな風に見えているのだろう。

「寝たい」

「寝ちゃダメでしょ?電車の中だからね!?ーーどこに帰るの?」

駅員が老人に目を合わせるようにかがんで聞く。
しかし、老人はそれに対する返事をしない。

「具合が悪い」

老人は次から次へと違う理由を重ねる。
その会話は全く噛み合っていない。
酔っているのか?病気なのか?それは分からないが、駅員がいらついている事だけは明白な事実だった。

「具合悪いなら救急車呼ぶけどいいね!?」

駅員が声を荒げる。

「この列車は、まもなく発車します」
 
アナウンスが、響き渡ってすぐ電車は動き出す。
乗客たちがコソコソと話している。

「何、あの人?」

「バカじゃないの?」

笑っている人もいる。
あの後、老人はどこにいったのだろう…??

謎を残したまま、私はただ駅から30分程度の家路を急いだ。

    
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