上 下
15 / 22

幸せへの導き

しおりを挟む
 睦月から、はっきり言われたではないにしろ、はっきり言われるよりわかりやすい「つまらない」評価を受けてしまい、正直落ち込んだ。
 はじめて睦月以外の人から嬉しい評価をされたから、もっと嬉しい評価をされたいって思ったのがいけなかったのかもしれない。もっと、睦月の好みに副った話作りにするべきであったかもしれないのだ。
 だが、そう告げると睦月は「ダメです!」とどうしてか紬の考えを窘めた。
「紬さんの描きたい世界を、私の世界観に狭めないでください」
 そう言って握られたのは手なのに、何故かじんわりとしたのは胸の奥で、睦月に気に入られなかったのは残念だが、アップしたことに後悔もしなかった。
(今回はいいねもコメントももらえないかもしれないなぁ。いや、下手をすると今度こそ苦情が来るかもしれない。前回コメントくれた人から『がっかりしました』とか言われてしまうのでは?)
 一度悪い方向へ考えると、どんどんと膨らんでいってしまうのが紬自身も自覚している悪い癖だ。
 悪い癖だが、これは己の心を護る方法でもある。
 過去、幾度となく否定され続けて育った。その上、自信作であった作品も落選続きで、何度も立ち上がろうとしていた植物の芽のような心は、天気の良い日が続けば「いつまでもこんな天気は続かないさ」と思うことで、後に来る悪天候に備える、そういう気持ちになっていた。
 そういう気持ちになっているだけで、其処に対しての対策や、その後の打開策を講じているわけではないのが問題ではあった。
 それでも紬の心は守られていたのだ。
 そうして、これからも。
 睦月はそんな紬の考えを知ると、握っていた手に念を込めるようにして言った。
「そうですよ。いつも同じ天気なんて続きません。でも、だからこそ、世界は生きていくことが出来ます。紬さんの作品が色々な評価をされるのは、これから長く小説家として生きていくうえで、必要なことなんだと思います」
 睦月の慰め方は上手かった。
 紬が落ち込む材料にしていた考えを力強さに変えてしまうのだ。
(勝てないなぁ)
 紬が降参したように力ない笑みを浮かべた。
 勝てないのなら、とことん睦月の前向きな考えに倣おう、と思ったのだ。
 それが、この先の紬と睦月が幸せな未来へ進む、大事な思考の第一歩であることを今は知る由もなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

YESか農家

ノイア異音
キャラ文芸
中学1年生の東 伊奈子(あずま いなこ)は、お年玉を全て農機具に投資する変わり者だった。 彼女は多くは語らないが、農作業をするときは饒舌にそして熱く自分の思想を語る。そんな彼女に巻き込まれた僕らの物語。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

ヤンデレ男の娘の取り扱い方

下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】 「朝顔 結城」 それが僕の幼馴染の名前。 彼は彼であると同時に彼女でもある。 男でありながら女より女らしい容姿と性格。 幼馴染以上親友以上の関係だった。 しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。 主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。 同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。 しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。 ――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。 現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」 本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。 ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。 ※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。 こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。

処理中です...