上 下
161 / 176
第十二章 航空自衛隊 百里基地

しおりを挟む
 成田空港公演の翌週。私はオートサービス香取のガレージ横で弥生さんからレッスンを受けていた。今後は私が彼女のポジションで魔法少女をする。その為には最低限の引き継ぎをしなければいけないだろう。
「ターンのタイミングがズレてるね。ターン後すぐにバフの呪文だから気持ち早めにクルッと回ってみた方がいいかも」
「分かった! やってみるね」
 そんな感じで弥生さんは私に彼女自身が演じていた『マジカルマーチ』の立ち振る舞いを手取足取り教えてくれた。そして口頭と実演でそれ教わると彼女の役の難しさを痛感した。彼女の演じていた魔法少女は……。私が演じていたものとはまるで違う。それこそ主演とエキストラぐらいの差はあるはずだ。
「……はい。とりあえず呪文詠唱までは形になってきたね。一旦休憩しようか?」
 弥生さんはそう言うとガレージ内で作業している美鈴さんに「事務所借りるねー」と声を掛けた。美鈴さんはそれに対して生返事気味に「はいよー」と返した。どうやら美鈴さんはオイル交換の手伝いで今は手が離せないらしい。
「んじゃ休憩にしよ」
「うん」
 それから私たちはオートサービス香取の事務所で休憩させて貰った。事務所内は空調が効いていて思わず「あー涼しい」という声が出てしまう。
「だよねー。今日も暑いよ……」
 弥生さんはそう言うと私にスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。私はそれは「ありがと」と言って受け取る。
「今日も夜は幕張行く感じ?」
「そうだよー。今週はねぇ。ちょっと忙しいんだ。金曜には東京にも行かなきゃだしね」
 弥生さんはそう答えると額の汗を拭った。そしてソファーにゆっくりと腰を下ろす。
「東京ってアレだよね。春川さんの会社の……。ニンヒアだっけ?」
「そうそう。ニンヒアの本社まで挨拶しにね。あーあ、久しぶりに逢川さんと二人で新宿ドライブだよー」
 弥生さんはそう言うと満更でもないみたいに「ま、ちょっと楽しみではあるんだけどさ」と続ける。
「そっか。なんかあっという間だね。年内にはそのPV見れる感じ?」
「たぶんね。ま、民放のCMってよりはネット配信だろうけど」
 弥生さんはそこまで言うと「本当にあっという間だよね」と付け加えた。
しおりを挟む

処理中です...