上 下
155 / 176
第十一章 成田国際空港 北ウイング

41

しおりを挟む
 それから私たちはタクシーを降りて水道橋駅近くのシーフードレストランに入った。どうやらそのレストランは商業施設内にテナントとして入っているお店らしく、隣り合って別の飲食店も併設されていた。要はショッピングモール内の飲食店街みたいなものだと思う。
「前に友達とここ来たんだよね。ハワイアンな感じで雰囲気も良いとこだよ」
 天音ちゃんはそう言うと店のドアに力を込めて押し開けた。そしてカウンターにいる店員さんに「お忙しいところ恐れいます。本日一九時に予約させていただいた天沢なんですが」と声を掛けた。どうやら天音ちゃんは大人相手だとやたら丁寧な口調になってしまうらしい。
「天沢様ですね。お待ちしておりました」
 店員さんはそう答えると朗らかな笑顔を浮かべた。そして「こちらへどうぞ」と私たちを予約席に案内してくれた――。

「さーて。とりあえずコースは頼んであるから他に頼みたいのあったら好きに頼んでいいよ。今回は伊勢プロの奢りだから」
 天音ちゃんはそう言うと「役得ってこういうときに使うもんだしねー」と続けた。この場合役得って言って良いのかな? と内心思う。
「大丈夫なん? あんたこの前もご馳走してくれたけどさ」
「大丈夫大丈夫! 社長にも『天音はもっと食え食え』とか言われるからさ。それにねぇ。交際費ってこういうときに使うもんでしょ?」
「……天沢がそう言うならいいけどさ。でもここ割と高そうな店じゃない?」
「んー。そうね。たぶん高いんじゃないかな? ま、ウチらのお小遣いで来るにはちょっとキツい値段だとは思うよ」
 そんな話をしていると料理が運ばれてきた。ガーリックシュリンプとフライドポテト。あとは網焼きステーキ。そんなカロリー爆弾なメニューがテーブルいっぱいに広げられる。
「すごいボリュームだね」
 不意に椎名さんがそう呟いた。
「だよねー。みのりんはシーフードとか大丈夫な民?」
「うん、好きだよ。肉よりは魚とかエビとかのほうが食べるかな」
「そっかそっか。じゃあ今日はここ選んで良かったよぉ。予約したあとにみのりんがお魚ダメだったらどうしようってちょっと心配してたんだ」
 天音ちゃんはそう言うと大げさに「良かったぁ」と胸をなで下ろした。たぶん普通の女子がこんなリアクションをしたら相当イタいと思う。でも……。不思議と天音ちゃんがする分にはそこまで違和感がなかった。おそらくそれは彼女の間の取り方が絶妙だからだと思う。
「んじゃ。料理も来たことだし乾杯しようか」
 天音ちゃんはそう言うとウーロン茶の入ったグラスを持って立ち上がった。そして「えーと。今日も撮影お疲れ様でした。今回はこうしてみんなで集まれてすごく嬉しいです。来月からは海外撮影が始まるので気合い入れて頑張りましょう!」と定型文みたいな挨拶をした。これ以上ないくらい普通に。ノーマルに。奇を衒うことなく。
 ただ……。そんなありふれた挨拶さえも彼女が口にするだけで妙にドラマチックに聞こえた。まるでここが撮影現場みたい。そう感じるほどに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...