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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 それから私たちは弥生さんの案内で第二ターミナルへ移動した。空港内は歩いてみると想像より広く感じる。まぁ成田空港は国内有数の大きな空港なのでそれは当然なのだけれど。
「ごめんね。本当なら公演会場で説明会できたら良かったんだけど……。あの人が嫌がってさ」
 不意に弥生さんがそう言って申し訳なさそうに謝った。そして彼女は遠くに見える管制塔を恨めしそうに眺めると深いため息を吐いた。どうやら弥生さんとしてはさっきの説明会が不満だったらしい。
「ま、しゃーないじゃん? 弥生のお母さんだって忙しいんだし。こっちが無理に話通したようなもんだからワガママは言わないよ」
「メイリン……」
「それにさぁ。私は滅多に空港来ないから逆に散歩できて嬉しいよ? 観光的な感じだよ? マジで」
 美鈴さんはそう言うと弥生さんを軽く小突いた。おそらく美鈴さんとしては弥生さんをフォローしているつもりなのだと思う。
 そしてしばらくの沈黙が流れた。聞こえるのは空港内の機械音と飛行機が飛ぶ音。それだけだ。最高に空気が悪い。正直そう感じる。
 そんな最悪な空気の中。香澄さんが「そう言えば会場ってどんな場所なの? この前の下北沢と似た感じ?」と急に話題を変えた。彼女は人に対して美鈴さんみたいにパワーで押し切るタイプではないのだ。あくまで器用に立ち回る。それが香澄さんのやり方なのだと思う。
「んーとね。この前の会場よりはずっと大きいよ。たぶん今までやった中では一番観客も来ると思う……。しかも今回はイベントチラシ大々的に撒いたらしいからね」
 弥生さんはそう言うとスマホを操作して香澄さんに手渡した。横目で見たその画面には前年行われたイベントの様子が映し出されている。
「へー。けっこう大っきなお祭りなんだねぇ」
「そうだね。だいぶ大きいと思う。ま、だから香澄ちゃん加入お願いしたってもあるんだけどさ。流石に三人公演じゃ迫力に欠けるしね」
 弥生さんはそこまで話すと再び管制塔の方に視線を向けた。そして「正直ここでやることもないと思うけど」とボソッと呟いた――。
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