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第五章 珈琲と占いの店 地底人
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注文するとすぐに飲み物が運ばれてきた。喫茶店らしい背の高いグラスに入ったクリームソーダと焦げ茶色のカフェラテ。両方ともとても美味しそうだ。
「じゃあ弥生ちゃんの占いしてるから何かあったら呼んでちょうだい」
店主の女性はそれだけ言うとカウンターに戻っていった。どうやら今から占いをするらしく、カウンターの上には敷き布とカードらしきものが並べられている。
「……ふぅ。たぶん三〇分は掛かるかな? いっつも弥生の占いは長いから」
美鈴さんは呆れ気味に言うとカフェオレに口をつけた。そして「あー、美味い」と言って小さなため息を吐く。
何とはなしに店内を見渡す。カウンターが五席にテーブル席が四席。まぁ普通の喫茶店の作りだと思う。壁には西洋風の油絵が何枚か飾られ、その間にランタンが吊されていた。逆にランタン以外には照明らしい照明はほとんどない。
そんな薄暗い店内で私たちはまったりと飲み物を楽しんだ。カウンターからはカードをシャッフルする音が聞こえる。それ以外の音はほどんどない。
「聖那ちゃん本当に大丈夫? いきなり仕事振られて戸惑ってない?」
不意に美鈴さんにそう尋ねられた。彼女の手にはすっかり空になったカフェオレのカップが握られている。
「うん。大丈夫だよ。……てか仕方ないよね。私もお金欲しくてバイト申し込んだんだしさ」
「そっか……。それなら良かったよ。正直言うとね。私も初バイトんとき聖那ちゃんと同じ感じだったんだ。いやぁ、参ったよ。逢川さんには散々呆れられたし、弥生にもかなり迷惑掛けた。ま、それでもみんなのお陰でなんとかなったんだけどね」
美鈴さんは遠い目をしながら話すと残りのカフェオレを飲み干した。そして「ふぅー」と気の抜けるようなため息を吐く。
「美鈴さんは弥生さんに誘われてこの仕事始めたんだよね?」
「そだよー。ほら、ウチって零細修理工じゃん? だから親父もあんま金なくてさ……。ちっとでも家計の足しにしたかったんだよね。……そういえば私の母親の話って弥生から聞いてるよね?」
美鈴さんは思い出したように言うと寂しそうな目をした。そして取り繕うように口元だけ緩める。
「うん……。詳しくは聞いてないけどそれとなくね」
「そっか。まぁいいんだけどさ。……じゃあ一応聖那ちゃんにも話しとこうかな。これから一緒にお仕事するわけだし、お互いの人となりは知っといた方がいいもんね」
美鈴さんはそう言うと自身の生い立ちを語り始めた――。
「じゃあ弥生ちゃんの占いしてるから何かあったら呼んでちょうだい」
店主の女性はそれだけ言うとカウンターに戻っていった。どうやら今から占いをするらしく、カウンターの上には敷き布とカードらしきものが並べられている。
「……ふぅ。たぶん三〇分は掛かるかな? いっつも弥生の占いは長いから」
美鈴さんは呆れ気味に言うとカフェオレに口をつけた。そして「あー、美味い」と言って小さなため息を吐く。
何とはなしに店内を見渡す。カウンターが五席にテーブル席が四席。まぁ普通の喫茶店の作りだと思う。壁には西洋風の油絵が何枚か飾られ、その間にランタンが吊されていた。逆にランタン以外には照明らしい照明はほとんどない。
そんな薄暗い店内で私たちはまったりと飲み物を楽しんだ。カウンターからはカードをシャッフルする音が聞こえる。それ以外の音はほどんどない。
「聖那ちゃん本当に大丈夫? いきなり仕事振られて戸惑ってない?」
不意に美鈴さんにそう尋ねられた。彼女の手にはすっかり空になったカフェオレのカップが握られている。
「うん。大丈夫だよ。……てか仕方ないよね。私もお金欲しくてバイト申し込んだんだしさ」
「そっか……。それなら良かったよ。正直言うとね。私も初バイトんとき聖那ちゃんと同じ感じだったんだ。いやぁ、参ったよ。逢川さんには散々呆れられたし、弥生にもかなり迷惑掛けた。ま、それでもみんなのお陰でなんとかなったんだけどね」
美鈴さんは遠い目をしながら話すと残りのカフェオレを飲み干した。そして「ふぅー」と気の抜けるようなため息を吐く。
「美鈴さんは弥生さんに誘われてこの仕事始めたんだよね?」
「そだよー。ほら、ウチって零細修理工じゃん? だから親父もあんま金なくてさ……。ちっとでも家計の足しにしたかったんだよね。……そういえば私の母親の話って弥生から聞いてるよね?」
美鈴さんは思い出したように言うと寂しそうな目をした。そして取り繕うように口元だけ緩める。
「うん……。詳しくは聞いてないけどそれとなくね」
「そっか。まぁいいんだけどさ。……じゃあ一応聖那ちゃんにも話しとこうかな。これから一緒にお仕事するわけだし、お互いの人となりは知っといた方がいいもんね」
美鈴さんはそう言うと自身の生い立ちを語り始めた――。
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