上 下
31 / 176
第五章 珈琲と占いの店 地底人

しおりを挟む
 注文するとすぐに飲み物が運ばれてきた。喫茶店らしい背の高いグラスに入ったクリームソーダと焦げ茶色のカフェラテ。両方ともとても美味しそうだ。
「じゃあ弥生ちゃんの占いしてるから何かあったら呼んでちょうだい」
 店主の女性はそれだけ言うとカウンターに戻っていった。どうやら今から占いをするらしく、カウンターの上には敷き布とカードらしきものが並べられている。
「……ふぅ。たぶん三〇分は掛かるかな? いっつも弥生の占いは長いから」
 美鈴さんは呆れ気味に言うとカフェオレに口をつけた。そして「あー、美味い」と言って小さなため息を吐く。
 何とはなしに店内を見渡す。カウンターが五席にテーブル席が四席。まぁ普通の喫茶店の作りだと思う。壁には西洋風の油絵が何枚か飾られ、その間にランタンが吊されていた。逆にランタン以外には照明らしい照明はほとんどない。
 そんな薄暗い店内で私たちはまったりと飲み物を楽しんだ。カウンターからはカードをシャッフルする音が聞こえる。それ以外の音はほどんどない。
「聖那ちゃん本当に大丈夫? いきなり仕事振られて戸惑ってない?」
 不意に美鈴さんにそう尋ねられた。彼女の手にはすっかり空になったカフェオレのカップが握られている。
「うん。大丈夫だよ。……てか仕方ないよね。私もお金欲しくてバイト申し込んだんだしさ」
「そっか……。それなら良かったよ。正直言うとね。私も初バイトんとき聖那ちゃんと同じ感じだったんだ。いやぁ、参ったよ。逢川さんには散々呆れられたし、弥生にもかなり迷惑掛けた。ま、それでもみんなのお陰でなんとかなったんだけどね」
 美鈴さんは遠い目をしながら話すと残りのカフェオレを飲み干した。そして「ふぅー」と気の抜けるようなため息を吐く。
「美鈴さんは弥生さんに誘われてこの仕事始めたんだよね?」
「そだよー。ほら、ウチって零細修理工じゃん? だから親父もあんま金なくてさ……。ちっとでも家計の足しにしたかったんだよね。……そういえば私の母親の話って弥生から聞いてるよね?」
 美鈴さんは思い出したように言うと寂しそうな目をした。そして取り繕うように口元だけ緩める。
「うん……。詳しくは聞いてないけどそれとなくね」
「そっか。まぁいいんだけどさ。……じゃあ一応聖那ちゃんにも話しとこうかな。これから一緒にお仕事するわけだし、お互いの人となりは知っといた方がいいもんね」
 美鈴さんはそう言うと自身の生い立ちを語り始めた――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殺し文句で今日も死なない!?

はなまる
ライト文芸
せわしくん〇 「これはハーレム王のまいるど君が活躍する話だ」 まいるど君〇「 違うよ!?」 せわしくん〇「 いや、見たやつは絶対そう言って」 まいるど君〇「 なんで!?」 せわしくん〇「 それは見てのお楽しみてやつだな」

シャハルとハルシヤ

テジリ
ライト文芸
①その連邦国家では、未だかつて正式な女性首長は存在しなかった――架空の途上国を舞台に、その不文律に抗う少女ソピリヤと、それを一番近くで支えるハルシヤ。彼等は何も知らぬまま、幸福な幼年時代を過ごす。しかしその裏では身近な悲劇が起ころうとしていた。 【幕間】深く傷つけられた魂を抱え、遠く故郷を離れたシャハル。辿り着いた先は、活動修道会・マルチノ会が運営する寄宿舎兼学校だった。そこでジョアン・マルチノと名を隠したシャハルは、愉快な仲間達と共に、つかの間の平穏を得る。 ②ある先進国の、冬には雪けぶる辺鄙な田舎町――その町で唯一の民族料理店・ザキントス店主の娘イオニア・プラスティラスは、1人の留学生と出会う。彼の名はジョアン、かつてのシャハルが高校生にまで成長した姿だった。その頃スミドにて、ソピリヤとハルシヤは大事件に巻き込まれる。 ③大学で文化人類学を専攻し、ドキュメンタリー作家サワ・マルチノとなったシャハルは、取材のため故郷を訪れる。ハルシヤの娘イレンカも、小学生ながらそれに参加する。 【外伝①】雪けぶる町で成長した、イオニアの娘イズミル。彼女の通う高校に現れた、生意気な留学生の後輩は、何故かよくちょっかいを仕掛けてきて―― 【外伝②】永遠の夕焼けが続く白夜のさなか、シャハルは広場のカフェで過去に触れ、自身を慕うシャリムを突き放す。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

大江戸闇鬼譚~裏長屋に棲む鬼~

渋川宙
ライト文芸
人間に興味津々の鬼の飛鳥は、江戸の裏長屋に住んでいた。 戯作者の松永優介と凸凹コンビを結成し、江戸の町で起こるあれこれを解決! 同族の鬼からは何をやっているんだと思われているが、これが楽しくて止められない!! 鬼であることをひた隠し、人間と一緒に歩む飛鳥だが・・・

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください

私雨
ライト文芸
 ある日、中野美於(なかの みお)というOLが仕事をクビになった。  時間を持て余していて、彼女は高校の頃の友達を探しにいこうと決意した。  彼がメイド喫茶が好きだったということを思い出して、美於(みお)は秋葉原に行く。そこにたどり着くと、一つの店名が彼女の興味を引く。    「ゆめゐ喫茶に来てみませんか? うちのキチャを飲めば、あなたの願いを一つ叶えていただけます! どなたでも大歓迎です!」  そう促されて、美於(みお)はゆめゐ喫茶に行ってみる。しかし、希(のぞみ)というメイドに案内されると、突拍子もないことが起こった。    ーー希は車に轢き殺されたんだ。     その後、ゆめゐ喫茶の店長が希の死体に気づいた。泣きながら、美於(みお)にこう訴える。 「希の跡継ぎになってください」  恩返しに、美於(みお)の願いを叶えてくれるらしい……。  美於は名前を捨てて、希(のぞみ)と名乗る。  失恋した女子高生。    歌い続けたいけどチケットが売れなくなったアイドル。  そして、美於(みお)に会いたいサラリーマン。  その三人の願いが叶う物語。  それに、美於(みお)には大きな願い事があるーー

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...