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第二章 ニコタマ文芸部
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翌日。やはり校門の前にはマスコミが集まっていた。服装から察するに昨日から帰っていないらしい。そう考えるとすごい執念だ。プロ意識。それを感じさせられる。
多くの生徒がマスコミに呼び止められていた。どういうわけか今日は先生の姿が見えない。
「おはよう」
呼ばれて振り返るとそこには水貴がいた。
「おはよう……」
「昨日はごめんね。部活休んで」
彼はそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。
「大丈夫だよ。それよりどうしようか……」
私は正直うんざりしていた。昨日みたいに校門でマスコミに囲まれると思うとため息が出る。
「突っ切ろう!」
「へ?」
呆気にとられていると水貴は私の左手を握った。冷たい手。彼の指先のペンだこが手のひらに当たる。
「うわぁぁ」
思わず声が出る。それと同時に彼は走り出した。
それから私たちはマスコミの横をすり抜けた。他の生徒と一瞬目が合ったけれど仕方ない。
「はぁ……。はぁ」
玄関までたどり着く頃には水貴の息が完全に上がっていた。もともと体力がないのだ。
「ちょっと! 急に走らないでよ!」
「はぁ……。ごめんごめん。でも、ああでもしないと入れないからさ」
水貴はそう言うと「ふぅ」と笑い声ともため息ともとれるような声をだした。
「もう……」
まぁいい。課程はどうあれ無事玄関までたどり着けたのだから良しとしよう。そう自分に言い聞かす。
「それより昨日はごめんね。最近部活行けなくて……」
「それはいいよ。お母さん大丈夫なの?」
「うーん……。あんまり良くはないかな」
水貴はそれだけ言うと苦笑いを浮かべた。おそらくあんまり良くないどころではないくらいには悪いのだろう。
「そっか……。早く元気になるといいね」
「うん。ありがとう」
『早く元気になるといいね』と『ありがとう』。もうこの会話はルーティンかもしれない――。
多くの生徒がマスコミに呼び止められていた。どういうわけか今日は先生の姿が見えない。
「おはよう」
呼ばれて振り返るとそこには水貴がいた。
「おはよう……」
「昨日はごめんね。部活休んで」
彼はそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。
「大丈夫だよ。それよりどうしようか……」
私は正直うんざりしていた。昨日みたいに校門でマスコミに囲まれると思うとため息が出る。
「突っ切ろう!」
「へ?」
呆気にとられていると水貴は私の左手を握った。冷たい手。彼の指先のペンだこが手のひらに当たる。
「うわぁぁ」
思わず声が出る。それと同時に彼は走り出した。
それから私たちはマスコミの横をすり抜けた。他の生徒と一瞬目が合ったけれど仕方ない。
「はぁ……。はぁ」
玄関までたどり着く頃には水貴の息が完全に上がっていた。もともと体力がないのだ。
「ちょっと! 急に走らないでよ!」
「はぁ……。ごめんごめん。でも、ああでもしないと入れないからさ」
水貴はそう言うと「ふぅ」と笑い声ともため息ともとれるような声をだした。
「もう……」
まぁいい。課程はどうあれ無事玄関までたどり着けたのだから良しとしよう。そう自分に言い聞かす。
「それより昨日はごめんね。最近部活行けなくて……」
「それはいいよ。お母さん大丈夫なの?」
「うーん……。あんまり良くはないかな」
水貴はそれだけ言うと苦笑いを浮かべた。おそらくあんまり良くないどころではないくらいには悪いのだろう。
「そっか……。早く元気になるといいね」
「うん。ありがとう」
『早く元気になるといいね』と『ありがとう』。もうこの会話はルーティンかもしれない――。
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