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第七章 トライメライ・アーツ
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一二月上旬。私の日常はすっかり落ち着きを取り戻していた。あれほどあったトライメライからの特注品もほぼ完成したし、新たにニンヒアからの受注も入った。だからUGはとても良い状態だったと思う。叔父曰く「今年の冬はボーナス出すぞぉー」とのことだ。まぁ……。ボーナスに関してはそこまで期待していない。おそらく寸志程度のものだろう。
だから私は特に変わることのない日常を淡々と熟していた。極力弥生ちゃんのスタイリスト業もしたし、酒々井町でトライメライから頼まれた別件のアルバイトもした。たぶん私は無駄に考える時間を持ちたくなかったのだ。だって……。時間が有り余ればあの子のことを思い出してしまいそうだから――。
一二月中旬。私がUGで仕事をしていると予期せぬ来客があった。今となっては普通に話す隣のクラスの友人。太田まりあだ。
「ごきげんよう鹿島さん」
彼女はそう言ってUGに入ってきた。そして彼女は叔父に視線を向けると「父がいつもお世話になっております」と頭を下げた。叔父はそれに「ハハハ、まぁ……。そうだね。お世話になってます」と返した。どうやら叔父は太田さんに対してどう接していいかよく分からないらしい。
「珍しいね。UGに来るなんて」
「ええ。普段はあんまり新都心寄らないんだけど……。今日は鹿島さんとお話してくてね」
太田さんはそう言うと不器用に微笑んだ。やはりまだぎこちない。まだ太田さんの中には私への苦手意識が残っているようだ。
「……いいよ。ちょっと待っててね。あと一五分くらいであがりだから」
「ええ、ありがとう」
その後。私は店のクローズ業務をサッと終わらせた。そして叔父に「あがるね」と伝えてパパッと着替えた。UG内での仕事に関して言えば私はとかく早いのだ。会計にしたって試着にしたって叔父の三倍のスピードで熟せると思う。
「香澄!」
私が帰り支度を終えると叔父に呼び止められた。
「なぁに?」
「ほら、飯代持ってけ。これで何かあの子に奢ってやれな?」
「……ありがとう。でも、こっちから太田さんに奢るのって何か……。アレだよね」
私は叔父からお金を受け取りながらそう答えた。相手はロイヤルヴァージンの社長令嬢。正直私なんかに奢られて嬉しいのか? ……と内心思う。
「いいから! つーかアレだよ。少なくとも奢られんなよ? RVに施し貰うなんて俺は嫌だからな」
「はいはい……。分かったよ」
私は叔父のつまらないプライドに適当な返事をした。やはり叔父は太田家に対してあまり良いイメージを持てていないらしい――。
それから私は太田さんを地底人まで迎えに行った。そしてその足で幕張メッセ内のカフェテリアに向かった。一二月の。あのカフェテリア……。妙な既視感を覚える。
「ふぅ……。お仕事お疲れ様」
席に着くと太田さんはそう言ってコートを脱いだ。彼女の普段着は……。思っていたよりラフで少し拍子抜けする。
「まぁ……。そうだね。ちょっと疲れたかな? 注文受けてた分の縫製がまだあるからねぇ」
「ほんと……。鹿島さんって仕事の虫よね。尊敬するわ」
太田さんは嫌味っぽいわけでもなくそう言うとニッコリ笑った。そして「私も頑張らなきゃね」を付け加えた――。
だから私は特に変わることのない日常を淡々と熟していた。極力弥生ちゃんのスタイリスト業もしたし、酒々井町でトライメライから頼まれた別件のアルバイトもした。たぶん私は無駄に考える時間を持ちたくなかったのだ。だって……。時間が有り余ればあの子のことを思い出してしまいそうだから――。
一二月中旬。私がUGで仕事をしていると予期せぬ来客があった。今となっては普通に話す隣のクラスの友人。太田まりあだ。
「ごきげんよう鹿島さん」
彼女はそう言ってUGに入ってきた。そして彼女は叔父に視線を向けると「父がいつもお世話になっております」と頭を下げた。叔父はそれに「ハハハ、まぁ……。そうだね。お世話になってます」と返した。どうやら叔父は太田さんに対してどう接していいかよく分からないらしい。
「珍しいね。UGに来るなんて」
「ええ。普段はあんまり新都心寄らないんだけど……。今日は鹿島さんとお話してくてね」
太田さんはそう言うと不器用に微笑んだ。やはりまだぎこちない。まだ太田さんの中には私への苦手意識が残っているようだ。
「……いいよ。ちょっと待っててね。あと一五分くらいであがりだから」
「ええ、ありがとう」
その後。私は店のクローズ業務をサッと終わらせた。そして叔父に「あがるね」と伝えてパパッと着替えた。UG内での仕事に関して言えば私はとかく早いのだ。会計にしたって試着にしたって叔父の三倍のスピードで熟せると思う。
「香澄!」
私が帰り支度を終えると叔父に呼び止められた。
「なぁに?」
「ほら、飯代持ってけ。これで何かあの子に奢ってやれな?」
「……ありがとう。でも、こっちから太田さんに奢るのって何か……。アレだよね」
私は叔父からお金を受け取りながらそう答えた。相手はロイヤルヴァージンの社長令嬢。正直私なんかに奢られて嬉しいのか? ……と内心思う。
「いいから! つーかアレだよ。少なくとも奢られんなよ? RVに施し貰うなんて俺は嫌だからな」
「はいはい……。分かったよ」
私は叔父のつまらないプライドに適当な返事をした。やはり叔父は太田家に対してあまり良いイメージを持てていないらしい――。
それから私は太田さんを地底人まで迎えに行った。そしてその足で幕張メッセ内のカフェテリアに向かった。一二月の。あのカフェテリア……。妙な既視感を覚える。
「ふぅ……。お仕事お疲れ様」
席に着くと太田さんはそう言ってコートを脱いだ。彼女の普段着は……。思っていたよりラフで少し拍子抜けする。
「まぁ……。そうだね。ちょっと疲れたかな? 注文受けてた分の縫製がまだあるからねぇ」
「ほんと……。鹿島さんって仕事の虫よね。尊敬するわ」
太田さんは嫌味っぽいわけでもなくそう言うとニッコリ笑った。そして「私も頑張らなきゃね」を付け加えた――。
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