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第六章 ヘリオス幕張

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 百合娃メサの話③ 

 フジやんと私の関係。それはある意味リアルの友達や恋人以上に親密なものだった。ネット上でただ一緒にゲームしたり他愛のない話をする。それだけだったけれど彼は私にとっては真の意味で親友だったと思う。それこそ香澄と同列かそれ以上に。
 だから彼が私の手の届くところにいてくれたことが素直に嬉しかった。太田まりあと同じ学校でもフジやんがいてくれるだけで全てが許せる気がした。香澄とフジやん。この二人は私にとってはそれほど大きな存在なのだ。
 だからだろう。私はあんなことをしたのだと思う。数年前にネットで大流行した都市伝説『自裁の魔女』。その模倣を――。

 六月上旬。私は配信外でフジやんとFPSゲームをしていた。プレイスタイルとはデュオ。要は二人組で敵を殲滅する遊びだ。
「B組どうなん?」
 私は回復アイテムを漁りながら哨戒中のフジやんにそう尋ねた。幸い今日の通話は二人きりだし、おおっぴらに個人的な話をしても問題ないだろう。
「普通だよー。放課後にコンペの準備あるから忙しいけど……。あとは変わったことないかな?」
「ふーん、そっか。あ! フジやんから見て六時方向に一部隊いるね。たぶんサブマシンガン持ち」
「了解。じゃあ高台から狙うね」
 フジやんはそう言うと素早く建物をよじ登っていった。フジやんのFPSのプレイスタイルは基本的に中遠距離からの奇襲戦法なのだ。特に遠距離からのライフル狙撃に関してはプロゲーマー顔負けだと思う。
 それから程なくして二発の銃声が鳴った。そしてフジやんの「二人とも割ったよ」という声が聞こえた。どうやら彼はたった二発で敵部隊を二人ともヘッドショットで仕留めたらしい――。

「お疲れお疲れ! さっすがフジやんだねぇ。哨戒しながら闇討ちしてるだけで勝てちゃったよ」
 ゲームの勝利演出を見ながら私はフジやんにそう声を掛けた。思えば二人で組んだときはほぼほぼ上位二チーム内には入れている気がする。
「アハハ、ほんとだね。メサちゃんのサポあるとこっちもやりやすいよ」
「マジ? そう言ってもらえると嬉しいよぉ。ウチが使ってるキャラさぁ。基本サポートキャラじゃん? だからフジやんみたいに掃討してくれるとすんげー助かるんだよねぇ」
「まぁ……。僕はどっちかって言うと突撃タイプだからね。狩りは得意だけどけっこう穴があるんだよ。だからメサちゃんが隣で哨戒してくれるとすごく楽かな」
 フジやんはそう言うと「ふぅ」と軽いため息を吐いた。そして「メサちゃんとなら最高ランクまで行けるかもね」と笑った――。

 ゲーム終了後。私たちは通話を繋いだまま色々な話をした。ゲームのことから学校のことから家のことまで。本当に数珠つなぎみたいに話は途切れなかった。半リア友故の話しやすさ。それもあったのだと思う。
「――でさぁ。かすみんって意外と血の気多いんだよ。パッと見大人しそうじゃん? でもあれでなかなかキレやすいんだよねぇ」
「そうなの? あ……。確かに入学式のときのアレすごかったもんね」
「そうそう! お嬢をケチョンケチョンのボッコボコにしてたじゃん? アレは笑ったよ。かすみんも十分やべえ女だなぁって腹抱えてた」
 私がそう言うとフジやんは一瞬黙った。そして「うん」と返事して二秒後に「でもね」と続ける。
「メサちゃんが言うほど太田さん悪い子じゃないよ? いつも僕のこと庇ってくれるし……。それに昨日なんか課題手伝ってくれたんだ」
 フジやんはそこまで話すと口を噤んだ。おそらく私の言葉から私が太田まりあに対して抱いている良くない感情を読み取ったのだと思う。
「そっかぁ。でも……。お嬢には気をつけなね? 正直あの子良い噂聞かないから」
 私はそれだけ言うと「あとね!」と急に話題を変えた。これ以上フジやんの口から太田まりあを庇う言葉なんか聞きたくない。そう思った――。
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