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第六章 ヘリオス幕張
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鹿島香澄の話②
仕事終わり。私はUGの二軒隣にあるラジコンショップに向かった。そしてそこでモデルガンを物色している千歳ちゃんに声を掛けた。彼女の手にはオートマチックのハンドガン。たぶんFPSゲームで彼女がよく使うモデルだと思う。
「お疲れ。早かったね」
彼女はそう言うとハンドガンを売り場に戻した。そして「じゃあファミレスでも行く?」と続ける。
「いいよ。じゃあ……。メッセのカフェテリア行こ」
「お、いいね。でも……。あそこちょい高めじゃなかったっけ?」
「ああ、それは大丈夫。さっき叔父さんからご飯代貰ったんだ」
私はそう言うとポケットからさっき貰ったポチ袋を取り出した。そして「千歳ちゃんのご飯代も出せってさ」と続ける。
「えー。マジで……。何か悪いよ」
「気にしないでいいよ。叔父さんもたまには千歳ちゃんにいい顔したいんだから」
私はそう言うと遠慮している千歳ちゃんの手を引いてラジコンショップを出た。そしてそのまま地上に戻ると幕張メッセに向かった――。
その後。私たちは幕張メッセ内のカフェテリアに直行した。こうしてこの店に入るのは半年前のアパレル業者向けの展示会以来だ。
「ふぅ。やっと暖かいとこ入れた」
私はそう言うと首に巻いていたマフラーを外してコートを脱いだ。かなりの重装備。まるで雪国みたいだ。それくらい今年の幕張は寒い気がする。
「だねぇ。最近寒いよねぇ」
千歳ちゃんはそう言うとピンクのピーコートを脱いだ。インナーは安定の地雷系の服。この子はいつでもこうなのだ。もしかしたら結婚式にまでこの服を着ていくかも知れない。
「んじゃ。好きなの頼んでいいよ。今日は私が奢るからさ」
「マジでいいの? じゃあ……」
千歳ちゃんは遠慮がちに言うとメニューを開いた。そして「サンドイッチセット」と即決した。相変わらずの小食。ダイエット中だからって栄養が心配になるほどだ。
それから私たちは店員を呼んで料理を頼んだ。サンドイッチセットとハンバーグディナーセット。私ばかり栄養たっぷりのメニューだ。
「今日は誰と初詣行ってきたの?」
私はお冷やに口を付けながら彼女にそう尋ねた。UGには千歳ちゃん一人で来たし、学校の友達と一緒ではなかったのだと思う。
「今日はねぇ。配信仲間と一緒だったよ。みんな地方住みなのにわざわざこっちまで来てくれてさ。いやぁありがたいよねっ」
千歳ちゃんはそう言うとスマホを差し出した。差し出されたスマホの画面には千歳ちゃんを中心に五人の男女が写っている。
「そっか。オフ会?」
「そうそう。年末にねぇ。正月は幕張でオフ会しよーって話してたんだ。マジで楽しかったよぉ。普段は画面越しでしか会えないからさ」
千歳ちゃんは嬉しそうに言うと「ふぅ」と軽いため息を吐いた。そして「年末はごめんね。心配掛けて」と続ける。
「ああ、あれね……。別にいいよ」
私はそれだけ返すとそれ以上は詮索しなかった。面倒ごとには不用意に足を突っ込まない。これは私の処世術なのだ。
でもそんな私の思いとは裏腹に千歳ちゃんは「ま、あの件はもう片付いたから」とあっけらかんと言った。片付いた……。その言い回しから察するに円満解決ではなかったらしい。
「かすみんさぁ。新学期になったらちょい学校変わってると思うよ。でも……。かすみんには迷惑掛けないから安心して!」
千歳ちゃんはそこまで話すと「フッ」と鼻を鳴らした。そして「あの女はもう片付いたからさ」と怖いことを言った――。
仕事終わり。私はUGの二軒隣にあるラジコンショップに向かった。そしてそこでモデルガンを物色している千歳ちゃんに声を掛けた。彼女の手にはオートマチックのハンドガン。たぶんFPSゲームで彼女がよく使うモデルだと思う。
「お疲れ。早かったね」
彼女はそう言うとハンドガンを売り場に戻した。そして「じゃあファミレスでも行く?」と続ける。
「いいよ。じゃあ……。メッセのカフェテリア行こ」
「お、いいね。でも……。あそこちょい高めじゃなかったっけ?」
「ああ、それは大丈夫。さっき叔父さんからご飯代貰ったんだ」
私はそう言うとポケットからさっき貰ったポチ袋を取り出した。そして「千歳ちゃんのご飯代も出せってさ」と続ける。
「えー。マジで……。何か悪いよ」
「気にしないでいいよ。叔父さんもたまには千歳ちゃんにいい顔したいんだから」
私はそう言うと遠慮している千歳ちゃんの手を引いてラジコンショップを出た。そしてそのまま地上に戻ると幕張メッセに向かった――。
その後。私たちは幕張メッセ内のカフェテリアに直行した。こうしてこの店に入るのは半年前のアパレル業者向けの展示会以来だ。
「ふぅ。やっと暖かいとこ入れた」
私はそう言うと首に巻いていたマフラーを外してコートを脱いだ。かなりの重装備。まるで雪国みたいだ。それくらい今年の幕張は寒い気がする。
「だねぇ。最近寒いよねぇ」
千歳ちゃんはそう言うとピンクのピーコートを脱いだ。インナーは安定の地雷系の服。この子はいつでもこうなのだ。もしかしたら結婚式にまでこの服を着ていくかも知れない。
「んじゃ。好きなの頼んでいいよ。今日は私が奢るからさ」
「マジでいいの? じゃあ……」
千歳ちゃんは遠慮がちに言うとメニューを開いた。そして「サンドイッチセット」と即決した。相変わらずの小食。ダイエット中だからって栄養が心配になるほどだ。
それから私たちは店員を呼んで料理を頼んだ。サンドイッチセットとハンバーグディナーセット。私ばかり栄養たっぷりのメニューだ。
「今日は誰と初詣行ってきたの?」
私はお冷やに口を付けながら彼女にそう尋ねた。UGには千歳ちゃん一人で来たし、学校の友達と一緒ではなかったのだと思う。
「今日はねぇ。配信仲間と一緒だったよ。みんな地方住みなのにわざわざこっちまで来てくれてさ。いやぁありがたいよねっ」
千歳ちゃんはそう言うとスマホを差し出した。差し出されたスマホの画面には千歳ちゃんを中心に五人の男女が写っている。
「そっか。オフ会?」
「そうそう。年末にねぇ。正月は幕張でオフ会しよーって話してたんだ。マジで楽しかったよぉ。普段は画面越しでしか会えないからさ」
千歳ちゃんは嬉しそうに言うと「ふぅ」と軽いため息を吐いた。そして「年末はごめんね。心配掛けて」と続ける。
「ああ、あれね……。別にいいよ」
私はそれだけ返すとそれ以上は詮索しなかった。面倒ごとには不用意に足を突っ込まない。これは私の処世術なのだ。
でもそんな私の思いとは裏腹に千歳ちゃんは「ま、あの件はもう片付いたから」とあっけらかんと言った。片付いた……。その言い回しから察するに円満解決ではなかったらしい。
「かすみんさぁ。新学期になったらちょい学校変わってると思うよ。でも……。かすみんには迷惑掛けないから安心して!」
千歳ちゃんはそこまで話すと「フッ」と鼻を鳴らした。そして「あの女はもう片付いたからさ」と怖いことを言った――。
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