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第三章 秋川千鶴の場合

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「ほら! 水原さん! 着いたよ」
 吉祥寺駅に着くと水原さんを揺り起こした。他に乗客はいない。車内は不気味なくらい閑散としている。
「はい、すいません」
 水原さんはそう言うとゆっくりと立ち上がった。だいぶ酔いも覚めたらしく、普通に呂律も回っている。
「じゃあ案内してね。ちゃんと連れ帰るから」
「すいません。お手数おかけします」
 私は心の中で『まったく、最後まで面倒な子ね』と呟いた。本当に面倒な子。最悪で一生懸命で礼儀正しいだけの――。

 彼女を家に送る途中。やはり水原さんはやらかした。盛大にリバース。あれだけ飲んだのだから当然かもしれない。
「ずいまぜん。ずいまぜん」
 水原さんはよだれなのか吐瀉物なのか分からない物を口から垂らしていた。本当に最悪。まぁ水原さんらしいとは思うけれど。
「いいよいいよ。仕方ないよ。ほら、大丈夫?」
 私は呆れながらも彼女の背中を擦った。撫でていると彼女の乱れた心音が手に伝わる。
「だいじょうぶ……。じゃないがもです」
「だろうね。はぁ……。水原さんずっとこんなだもんね」
 もう気休めの言葉を言うのはやめよう。水原さんには素直に本心を伝えよう。そう思った。馬鹿馬鹿しいのだ。こんな子のために気を遣うなんて。
「いつもそうよね? 水原さん。あなたって頑張れば頑張るほど失敗するよね。マジで最悪だよ」
「ぞう……。でずね」
「そうだよ! マジでそう! なんでなの!? 信じらんないよ! そんなだから私なんかに馬鹿にされんだよ! 私みたいなクソ女にさ」
「……。アギガワさんはクソ女じゃないでず」
 この後に及んで私に気を遣うのか? なんで? どうして? 私はあんたをクソミソに言ってた女だぞ? 頭沸いてるの? なんで? なんで? なんで? ――そんな言葉が浮かんだ。口からは出ない。口から出たのは「はぁ……」というため息だけ。
「あの……秋川さん、良かったら友達のどころに一緒に行きまぜんが?」
「は?」
「ごの近くに居るんでず。どうしても今会いたくて」
 もういい加減にして欲しい。心底そう思った。なんで私があんたの友達のとこに行かなきゃ行けないんだ?
「その人に会ってどうすんの?」
「どうしても会いだいんでず。お願いじまず」
 再び「はぁ……」とため息がこぼれた。まぁ仕方ない。乗りかかった船だ。
 私は「分かったよ」とぶっきらぼうに言うと彼女の友達に会うことを了承した。
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