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第二章 菱沼浩之の場合
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自宅のアパートに帰るとすぐに冷蔵庫に食料品を突っ込んだ。突っ込み終わるとキッチンの換気扇を回してタバコに火を付けた。帰ってきたら一服。これがないと夜が始まらない。
メビウスの味が口そして肺いっぱいに広がる。今日も一日お疲れ様。タバコにそう言われているような気分だ。
タバコを吸い終えるとシャワーを浴びた。最高に気持ちが良い。一日の疲れが流れていくようだ。髪の毛はお湯を吸ってしんなりしている。台所での喫煙からのシャワータイム。この一連の流れが僕を「俺」に変えてくれる。
一人称の変化。特に意識しているわけではないけれど、夜の僕は「俺」に変わるらしい。(本当に無意識なので自覚は一切ないけれど)
シャワールームから出ると簡単に夕食の準備をした。おつまみと酒。それだけ。基本的に僕は夜あまり食べないのだ。特に炭水化物は摂らない。別に健康を意識しているわけではないけれど、自然とそんな習慣になった。
そのお陰か知らないけれど僕の体型は世間一般から見ればだいぶスマートだと思う。同世代の連中が腹が出始めているのに僕の体型は高校時代から変わらなかった。まぁ元々そこまで太っていたわけではないのだけれど――。
サラミとチーズをつまみに安ウイスキーをロックで飲んだ。いつもの晩酌だ。酔うためのものではない。これはオラクルリーディングのための前戯的なものだ。
もちろん素面だってカードは読める。でもアルコールを摂取したほうが数段良いリーディングができるのだ。酒は何というか……。俺にとっての気付け薬みたいなものだ。飲むと元気が出る。数多のメンヘラどもの相手をする勇気が湧いてくる。そんな感じだ。(飲み過ぎてもいけないので必ず飲む量は制限している)
「さてと」
俺はそう独り言を呟くと配信機材をセッティングした。マイクとパソコンと手元を移す配信用のカメラ。あとはオラクルカードと酒とつまみとメビウスライト。いつもの配信セットだ。机の上に並ぶそれらは毎回同じ位置でまるで儀式でも始まるかのようだ。いや、実際に儀式が始まるのだ。オラクルリーディングは十二分に儀式じみていると思う。
配信開始前。俺は他の占いカテゴリーの配信者を見て回った。最近は無料リーディングの配信者が増えたようで配信サイト内は以前より賑わっていた。心なしか各配信者のサムネイルも気合いが入って見える。オラクルカードを象徴するかのような極彩色。そんなサムネイルだ。
それから俺は様々な枠をチラ見していった。そのたび。
「あなたの祈りは必ず届きます」
だとか
「努力してきた成果が実る時期が来ている」
だとかの小気味良いフレーズが聞こえてきた。
正直、俺はその手の相談者を無条件に褒めるリーディングが大嫌いだ。解説書の内容と絵柄の解釈の歪曲。そんな無意味で麻薬的なリーディングはあってはならないと思う。
これを言うとリーダーとして問題かも知れない。でも俺はスピュリチュアルはもっと現実的であるべきだと思うのだ。オラクルカードは単なるツール。決して天使からのメッセージでも神様からの啓示でもない。
もし神様や天使が存在するとするならばそれは自身の心の中だ。心、精神。だからこそのスピュリチュアル。俺はそう自負している――。
そんな風に時間を潰していると配信予定時間の一〇分前になった。さて、今日もあいつらとの戦いが始まる。
メビウスの味が口そして肺いっぱいに広がる。今日も一日お疲れ様。タバコにそう言われているような気分だ。
タバコを吸い終えるとシャワーを浴びた。最高に気持ちが良い。一日の疲れが流れていくようだ。髪の毛はお湯を吸ってしんなりしている。台所での喫煙からのシャワータイム。この一連の流れが僕を「俺」に変えてくれる。
一人称の変化。特に意識しているわけではないけれど、夜の僕は「俺」に変わるらしい。(本当に無意識なので自覚は一切ないけれど)
シャワールームから出ると簡単に夕食の準備をした。おつまみと酒。それだけ。基本的に僕は夜あまり食べないのだ。特に炭水化物は摂らない。別に健康を意識しているわけではないけれど、自然とそんな習慣になった。
そのお陰か知らないけれど僕の体型は世間一般から見ればだいぶスマートだと思う。同世代の連中が腹が出始めているのに僕の体型は高校時代から変わらなかった。まぁ元々そこまで太っていたわけではないのだけれど――。
サラミとチーズをつまみに安ウイスキーをロックで飲んだ。いつもの晩酌だ。酔うためのものではない。これはオラクルリーディングのための前戯的なものだ。
もちろん素面だってカードは読める。でもアルコールを摂取したほうが数段良いリーディングができるのだ。酒は何というか……。俺にとっての気付け薬みたいなものだ。飲むと元気が出る。数多のメンヘラどもの相手をする勇気が湧いてくる。そんな感じだ。(飲み過ぎてもいけないので必ず飲む量は制限している)
「さてと」
俺はそう独り言を呟くと配信機材をセッティングした。マイクとパソコンと手元を移す配信用のカメラ。あとはオラクルカードと酒とつまみとメビウスライト。いつもの配信セットだ。机の上に並ぶそれらは毎回同じ位置でまるで儀式でも始まるかのようだ。いや、実際に儀式が始まるのだ。オラクルリーディングは十二分に儀式じみていると思う。
配信開始前。俺は他の占いカテゴリーの配信者を見て回った。最近は無料リーディングの配信者が増えたようで配信サイト内は以前より賑わっていた。心なしか各配信者のサムネイルも気合いが入って見える。オラクルカードを象徴するかのような極彩色。そんなサムネイルだ。
それから俺は様々な枠をチラ見していった。そのたび。
「あなたの祈りは必ず届きます」
だとか
「努力してきた成果が実る時期が来ている」
だとかの小気味良いフレーズが聞こえてきた。
正直、俺はその手の相談者を無条件に褒めるリーディングが大嫌いだ。解説書の内容と絵柄の解釈の歪曲。そんな無意味で麻薬的なリーディングはあってはならないと思う。
これを言うとリーダーとして問題かも知れない。でも俺はスピュリチュアルはもっと現実的であるべきだと思うのだ。オラクルカードは単なるツール。決して天使からのメッセージでも神様からの啓示でもない。
もし神様や天使が存在するとするならばそれは自身の心の中だ。心、精神。だからこそのスピュリチュアル。俺はそう自負している――。
そんな風に時間を潰していると配信予定時間の一〇分前になった。さて、今日もあいつらとの戦いが始まる。
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