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第一章 水原雪乃の場合

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 午前一時。推しの配信が終了した。一日の終わりを感じる。雑談と弾き語り。それだけで一日の疲れが吹き飛ぶ。
 スマホの配信視聴アプリを閉じると現実の部屋が目の前に広がった。桃色のラグ、桃色のベッドカバー。そんな女子女子した布地が視界に広がる。私はこの手のカワイイ系の家具が好きなのだ。まぁ思いつきと気の迷いで買ってしまった桃色の天蓋はさすがにやり過ぎだと後悔しているけれど。
 それから私はササッとシャワーを浴びた。実家に居た頃はしっかり浴槽にお湯を張っていたけれど、この部屋に住むようになってからはシャワーメインな気がする。まぁ当然だろう。水道代だってガス代だって決して安くはないのだ。
 シャワーを浴びると幾分気持ちがサッパリした。その日、ため込んだ厄を水に流して明日に備える。そんな感じだ。
 シャワールームから出ると丁寧に身体を拭いた。そしてそのままの勢いでバスタオルを洗濯機に放り込んだ。ストッキング、ブラとショーツ。そしてバスタオル。そんな洗濯物がミルフィーユのように三日分溜まっている。さすがに明日には洗濯せねば。
 基本的に私の生活は一定のリズムで進んでいた。週三回のラッコさんとの世間話、週二回の洗濯、週一回の配信。そんな風に回数がほぼほぼ決まっているのだ。ラッコさんと話す回数が多いのは、まぁご愛敬だ。彼と世間話をしないと仕事以外で誰とも話さなくなってしまう……。
 風呂上がりには髪を乾かしてフェイスパックをした。気持ちだけでも肌の手入れはしておきたい。まだ二〇代前半なのにボロボロじゃあ、さすがにお先真っ暗すぎる。まぁ……。お手入れ後にアルコール度数一〇パーセント近い缶チューハイを飲むからあまり意味はないと思うけれど。
 髪と肌のお手入れをした後にアルコールを飲みながらテレビのバラエティ番組を見る。そんな女子力があるのかないのかサッパリ分からない生活が私のルーティンになっている。深夜のテレビはどれも退屈でこれと言って面白くはないけれど、かかっているだけで安心できた。真夜中の子守歌。深夜放送にはそんな役割があるのかもしれない。
 アルコールがほどよく回る。ふわふわした心地だ。昼間のあの重苦しい仕事モードからすっかり解放されたと思う。
 さて、明日も頑張ろう。そう自分に言い聞かした。この虚勢だけが私を前に進めるのだから――。
 空の缶チューハイを燃えないゴミ用のゴミ箱に突っ込んでから歯を磨いた。ここまでが私のナイトルーティン。あとは桃色の布団で夢の世界に沈むだけだ。
 電気を消して布団に潜り込むと桃色もクソもない。私はそのままゆっくりと意識を闇に溶かしていった。
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