15 / 63
第三章 神戸1992
2
しおりを挟む
彼は良い意味で不気味な少年だった。
今まで出会ったどの男よりも気味が悪く飄々としていた。
見方によっては《オタク》という人種に見えなくもない。
その時の私は、偶然出会ったその少年と生涯の付き合いになるとは思わなかった。
どうやら運命は私とその男を引き合わせるために無理矢理筋書きを書き換えたようだ――。
「月子ちゃんもしかして疲れてる?」
音楽室でクラリネットの練習をしていると、栞が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ん? そう見える?」
「うん。なんか目の下にクマが出来てるみたいだし……」
「ああ、せやね……。最近夜遅いからやと思う。はぁぁ……」
私は反射的に欠伸した。大きく背伸びもする。
中間テスト勉強のため、夜更かしをしていた。さすがに寝不足だ。
「あんまり無視しないでね。月子ちゃん頑張り屋だから心配……」
「ああ、大丈夫やで。ウチいつもこんなやし、勉強すんの嫌いやないから問題ないで」
私の返答に栞は苦笑いを浮かべた。
定評のある苦笑い。
「月子ちゃん本当に頑張るよねー。私あんまり頭良くないし、すごく羨ましいよ」
「栞は一点特化型やからしゃーないやん? その証拠に古文・現文はウチより成績ええし」
「う、うん。まぁね……」
栞は相変わらずだ。国語系の科目に関しては謙遜しない。
「ウチは栞が羨ましいで? 言葉遊び上手いし、綺麗な言葉選ぶ天才やもんね」
栞はクラリネットを両手で抱えながらデレデレした。
案外、褒めれることが嫌いではないのかもしれない。
あと少ししたら、彼女は吹奏楽部から文芸部に変わるだろう。
そして、あの綺麗で面白い話を綴るに違いない。
「あ、せや! 栞さぁ。一緒にアマチュアバンドのライブ行かへん?」
「へ?」
「実はな……」
そう言うと私は、スクールバッグから一枚のフライヤーを取り出し、栞に差し出した。
「なぁに?」
「この前、楽器屋で面白い男の子に会ってな。それで誘われたんや! もし栞の都合さえよければ一緒に行かへん?」
そのフライヤーは佐藤亨一から貰った物だ。
何でも京都市内でアマチュアバンドのコンクールがあるらしい。
「うん! いいよ! 行きたい!」
「よっしゃ! したら決まりやね!」
こうして私たちはそのライブイベントに行くことになった。
栞の屈託のない笑顔を見ていると不思議と気持ちが落ち着くような気がした。
鴨川沿いの一件が解決した訳ではないのだけれど……。
今まで出会ったどの男よりも気味が悪く飄々としていた。
見方によっては《オタク》という人種に見えなくもない。
その時の私は、偶然出会ったその少年と生涯の付き合いになるとは思わなかった。
どうやら運命は私とその男を引き合わせるために無理矢理筋書きを書き換えたようだ――。
「月子ちゃんもしかして疲れてる?」
音楽室でクラリネットの練習をしていると、栞が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ん? そう見える?」
「うん。なんか目の下にクマが出来てるみたいだし……」
「ああ、せやね……。最近夜遅いからやと思う。はぁぁ……」
私は反射的に欠伸した。大きく背伸びもする。
中間テスト勉強のため、夜更かしをしていた。さすがに寝不足だ。
「あんまり無視しないでね。月子ちゃん頑張り屋だから心配……」
「ああ、大丈夫やで。ウチいつもこんなやし、勉強すんの嫌いやないから問題ないで」
私の返答に栞は苦笑いを浮かべた。
定評のある苦笑い。
「月子ちゃん本当に頑張るよねー。私あんまり頭良くないし、すごく羨ましいよ」
「栞は一点特化型やからしゃーないやん? その証拠に古文・現文はウチより成績ええし」
「う、うん。まぁね……」
栞は相変わらずだ。国語系の科目に関しては謙遜しない。
「ウチは栞が羨ましいで? 言葉遊び上手いし、綺麗な言葉選ぶ天才やもんね」
栞はクラリネットを両手で抱えながらデレデレした。
案外、褒めれることが嫌いではないのかもしれない。
あと少ししたら、彼女は吹奏楽部から文芸部に変わるだろう。
そして、あの綺麗で面白い話を綴るに違いない。
「あ、せや! 栞さぁ。一緒にアマチュアバンドのライブ行かへん?」
「へ?」
「実はな……」
そう言うと私は、スクールバッグから一枚のフライヤーを取り出し、栞に差し出した。
「なぁに?」
「この前、楽器屋で面白い男の子に会ってな。それで誘われたんや! もし栞の都合さえよければ一緒に行かへん?」
そのフライヤーは佐藤亨一から貰った物だ。
何でも京都市内でアマチュアバンドのコンクールがあるらしい。
「うん! いいよ! 行きたい!」
「よっしゃ! したら決まりやね!」
こうして私たちはそのライブイベントに行くことになった。
栞の屈託のない笑顔を見ていると不思議と気持ちが落ち着くような気がした。
鴨川沿いの一件が解決した訳ではないのだけれど……。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる