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第二章 愚か者のブックマーク
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私に気が付いたのか、栞の表情は目に見えて曇った。
男の方……。健次も『しまった!』という表情を浮かべている。
「あ、珍しいなぁ。こんなところで会うとは思わへんかった」
「そ! そうだね!」
栞は苦笑いを浮かべ、上目遣いに健次の方を見た。
健次は「せやな……」とだけ言ってそれ以上何も言おうとはしない。
「じゃあ! ウチは用事あるから!」
私は彼らを振り切るように踵を返すとそのまま逃げるようにその場を立ち去った……。
最悪のタイミングで最悪の相手に会ってしまった。
おそらくそれは健次たちも同じだろう。
私はただ、前だけ見て早足に歩いた。それ以外に出来ることなど何もない。
歩を進めながら、自分の拳が強く握りしめられているのに気が付いた。
動揺と怒りが込み上げてきたけれど、私にはその感情をどうすることも出来ない。
なぜこのタイミングで?
せめて、栞から健次との関係を知らされてからでも良かったのではないだろうか?
あるいは、栞に健次と付き合っていることを問いただしておけば良かったのではないだろうか?
そんなどこにも行き着けない後悔だけが胸に留まっていた。
どうにか楽器屋に辿り着いたけれど私の感情は決して落ち着かなかった。
一刻も早くこの商店街から立ち去りたい。
長谷川さんにメンテナンスの話をされたけれど全く頭に入ってこなかった。
適当に相づちを打ちながら話を聞くと私はすぐに店を出た――。
家に帰ると私はずっと自分の部屋に閉じ籠もった。
誰にも会いたくないし、誰の声も聞きたくなかった。
両親と祖父母は心配して声を掛けてきたけれど、「ほっといて!」と怒鳴って追い出すことしか出来なかった。
独りぼっちの部屋で私は声も無く泣いた。
世界なんて滅んでしまえば良い。そう思った。
なぜ栞は私の欲しいモノみんな手に入れてしまうのだろう?
彼女は夢に向かって着実に歩んでいたし、私の最愛の人さえ手に入れてしまった。
その時、私は初めて栞に対して『憎しみ』を抱いていると気付いた。
栞さえ居なければ……。
そんな邪な思いだけが私の胸を激しく駆け巡った――。
翌日。
ゴールデンウィークは終わったけれど私は学校を休んだ。
体調は良かったけれど、絶対にあの二人に会いたくはない。
相変わらず私の胸には気持ちの悪い感情が渦巻いていた。
健次も栞も死んでしまえばいいのに。
そのことを考えれば考えるほど気分が悪くなった。
その日は何回もトイレに駆け込んでは戻した。
胃の中には何もなかったけれど、吐かずにはいられなかった。
涙も枯れるほど流した。
あれほど泣いたり、戻したりしたのに私の気持ちは全く元には戻らなかった。
いっそ、このまま死んでしまいたかった。
このままこの世から消えて無くなってしまえたらどんなに楽だろう?
でも私は、楽じゃ無い道を選ぶしかない……。と思った。
さらに翌日。
私は布団からどうにか抜け出すと、学校の制服の前に立った。
連休中、ずっと袖を通されなかったその制服はまるで群れからはぐれた羊のように落ち着かない様子でハンガーに掛かっている。
「行くしかないか……」
私は独り言のように呟くとハンガーから制服を外した。
下着姿になり、自室の姿見の前に立つ。鏡の中には綺麗な顔立ちの少女が虚ろな目をして佇んでいた。
綺麗な顔立ち……。本当に嫌になる。
母から受け継いだその遺伝子はしっかり私の中に行き渡っているらしい。
中学に入ってからつけるようになったブラのサイズが日に日に大きくなるのも母の遺伝子が原因だろう。
制服を着て、学生鞄とクラリネットのケースを持つと少しだけ元の自分に戻れたような気がした。
……いや、そんな気がしただけだ。
出がけ、家族には相当心配されたけれど私は無理な笑顔を作った。
「大丈夫やでー。すっかり良うなったからー」
そんな心の中に欠片も存在しない言葉が口から出る。
心配を掛けたくなかったわけでは無い。
ただ、心配されてアレコレ言われるのが面倒だった……。
家を出ると太陽が残酷なほど眩しかった。
五月らしい新緑の色は綺麗で、街路樹の桜は生命を謳歌するような新芽をつけている。
私はそんな爽やかな日差しの中、私は歯を食いしばって学校へと向かった――。
男の方……。健次も『しまった!』という表情を浮かべている。
「あ、珍しいなぁ。こんなところで会うとは思わへんかった」
「そ! そうだね!」
栞は苦笑いを浮かべ、上目遣いに健次の方を見た。
健次は「せやな……」とだけ言ってそれ以上何も言おうとはしない。
「じゃあ! ウチは用事あるから!」
私は彼らを振り切るように踵を返すとそのまま逃げるようにその場を立ち去った……。
最悪のタイミングで最悪の相手に会ってしまった。
おそらくそれは健次たちも同じだろう。
私はただ、前だけ見て早足に歩いた。それ以外に出来ることなど何もない。
歩を進めながら、自分の拳が強く握りしめられているのに気が付いた。
動揺と怒りが込み上げてきたけれど、私にはその感情をどうすることも出来ない。
なぜこのタイミングで?
せめて、栞から健次との関係を知らされてからでも良かったのではないだろうか?
あるいは、栞に健次と付き合っていることを問いただしておけば良かったのではないだろうか?
そんなどこにも行き着けない後悔だけが胸に留まっていた。
どうにか楽器屋に辿り着いたけれど私の感情は決して落ち着かなかった。
一刻も早くこの商店街から立ち去りたい。
長谷川さんにメンテナンスの話をされたけれど全く頭に入ってこなかった。
適当に相づちを打ちながら話を聞くと私はすぐに店を出た――。
家に帰ると私はずっと自分の部屋に閉じ籠もった。
誰にも会いたくないし、誰の声も聞きたくなかった。
両親と祖父母は心配して声を掛けてきたけれど、「ほっといて!」と怒鳴って追い出すことしか出来なかった。
独りぼっちの部屋で私は声も無く泣いた。
世界なんて滅んでしまえば良い。そう思った。
なぜ栞は私の欲しいモノみんな手に入れてしまうのだろう?
彼女は夢に向かって着実に歩んでいたし、私の最愛の人さえ手に入れてしまった。
その時、私は初めて栞に対して『憎しみ』を抱いていると気付いた。
栞さえ居なければ……。
そんな邪な思いだけが私の胸を激しく駆け巡った――。
翌日。
ゴールデンウィークは終わったけれど私は学校を休んだ。
体調は良かったけれど、絶対にあの二人に会いたくはない。
相変わらず私の胸には気持ちの悪い感情が渦巻いていた。
健次も栞も死んでしまえばいいのに。
そのことを考えれば考えるほど気分が悪くなった。
その日は何回もトイレに駆け込んでは戻した。
胃の中には何もなかったけれど、吐かずにはいられなかった。
涙も枯れるほど流した。
あれほど泣いたり、戻したりしたのに私の気持ちは全く元には戻らなかった。
いっそ、このまま死んでしまいたかった。
このままこの世から消えて無くなってしまえたらどんなに楽だろう?
でも私は、楽じゃ無い道を選ぶしかない……。と思った。
さらに翌日。
私は布団からどうにか抜け出すと、学校の制服の前に立った。
連休中、ずっと袖を通されなかったその制服はまるで群れからはぐれた羊のように落ち着かない様子でハンガーに掛かっている。
「行くしかないか……」
私は独り言のように呟くとハンガーから制服を外した。
下着姿になり、自室の姿見の前に立つ。鏡の中には綺麗な顔立ちの少女が虚ろな目をして佇んでいた。
綺麗な顔立ち……。本当に嫌になる。
母から受け継いだその遺伝子はしっかり私の中に行き渡っているらしい。
中学に入ってからつけるようになったブラのサイズが日に日に大きくなるのも母の遺伝子が原因だろう。
制服を着て、学生鞄とクラリネットのケースを持つと少しだけ元の自分に戻れたような気がした。
……いや、そんな気がしただけだ。
出がけ、家族には相当心配されたけれど私は無理な笑顔を作った。
「大丈夫やでー。すっかり良うなったからー」
そんな心の中に欠片も存在しない言葉が口から出る。
心配を掛けたくなかったわけでは無い。
ただ、心配されてアレコレ言われるのが面倒だった……。
家を出ると太陽が残酷なほど眩しかった。
五月らしい新緑の色は綺麗で、街路樹の桜は生命を謳歌するような新芽をつけている。
私はそんな爽やかな日差しの中、私は歯を食いしばって学校へと向かった――。
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