104 / 136
第四章 月の墓標
27
しおりを挟む
「とりあえず電話してみるよ。兄貴は家も会社もここからそんなに離れてないからね」
京介はそう言うと自身のスマホで惣介に連絡を取ってくれた。そして電話を掛けると数コール後に惣介が出る。
「あ、兄貴。お疲れ。今忙しい? ――うん。いや……。用事があるのは俺じゃなくて陽子なんだけど」
京介はそう電話口で言うと私の方をチラッと見た。そして「うん。じゃあ代わるよ」と言って私にスマホを差し出した。私はそのまま電話を受け取る。
「もしもし?」
『もしもし。そろそろ連絡寄越すと思ってたんだ』
惣介はまるで待っていたかのように言うと「で?」と矢継ぎ早に私に要件を訊いてきた。
「西浦さんのこととこの前持ってきた写真の件で話したいんだ。今からこっち来れる? もし無理ならどっかで待ち合わせでもいいけど……」
『ああ、ちょっと待ってろ……。うん。すぐに動けると思う。じゃあお前んち行くわ』
「……分かった。忙しいのにごめん。待ってるわ」
私は手短にそれだけ伝えると電話を切った――。
それから程なくして惣介は私の部屋に来た。来客対応でもしていたのか、彼はいつもより小綺麗な格好をしていた。普段の汚らしい無精髭も今日はない。おそらく割と重要な取材でも入ったのだと思う。
「いらっしゃい。ごめんね。こんな時間に」
「いや、いいよ別に。俺もそろそろ話したいと思ってたんだ」
惣介は珍しく穏やかな口調でそう言うと几帳面に自身の脱いだ靴を外側に向けて揃えた。不良新聞記者になったとはいえ、その育ちの良さは残っているらしい。
「京介から電話きたときは親父になんかあったのかと思ったよ」
リビングに入ると惣介は京介に冗談交じりでそんなことを言った。京介は「ハハハ、まだまだ父さんは元気だよ」と答える。
「タバコ吸うなら先に吸って来てくんない? その間にコーヒー淹れとくから」
「お、そうか? んじゃお言葉に甘えて」
惣介はそう言うと胸ポケットからタバコを取り出してベランダに向かった。そして私は惣介がタバコを吸っている間にコーヒーとクッキーをテーブルに並べた。一応の応接用セッティングだ。
「ずいぶんと気合い入ってるね……」
準備する私に京介は少し呆れた調子で言った。そこには『兄貴にそこまで甲斐甲斐しくする義理あるの?』というニュアンスが含まれているように聞こえる。
「うん。今日だけはね……。私の進退が掛かってるから」
「そっか」
京介はそれだけ言うとそれ以上は詮索しないでくれた。これだから京介は好きなのだ。惣介のゴシップ好きとは対極のスタンスは見ていて気持ちが良い。
そうこうしていると惣介がベランダから戻ってきた。そしてクリアファイルをバッグから取り出してテーブルの上に置いた。
京介はそう言うと自身のスマホで惣介に連絡を取ってくれた。そして電話を掛けると数コール後に惣介が出る。
「あ、兄貴。お疲れ。今忙しい? ――うん。いや……。用事があるのは俺じゃなくて陽子なんだけど」
京介はそう電話口で言うと私の方をチラッと見た。そして「うん。じゃあ代わるよ」と言って私にスマホを差し出した。私はそのまま電話を受け取る。
「もしもし?」
『もしもし。そろそろ連絡寄越すと思ってたんだ』
惣介はまるで待っていたかのように言うと「で?」と矢継ぎ早に私に要件を訊いてきた。
「西浦さんのこととこの前持ってきた写真の件で話したいんだ。今からこっち来れる? もし無理ならどっかで待ち合わせでもいいけど……」
『ああ、ちょっと待ってろ……。うん。すぐに動けると思う。じゃあお前んち行くわ』
「……分かった。忙しいのにごめん。待ってるわ」
私は手短にそれだけ伝えると電話を切った――。
それから程なくして惣介は私の部屋に来た。来客対応でもしていたのか、彼はいつもより小綺麗な格好をしていた。普段の汚らしい無精髭も今日はない。おそらく割と重要な取材でも入ったのだと思う。
「いらっしゃい。ごめんね。こんな時間に」
「いや、いいよ別に。俺もそろそろ話したいと思ってたんだ」
惣介は珍しく穏やかな口調でそう言うと几帳面に自身の脱いだ靴を外側に向けて揃えた。不良新聞記者になったとはいえ、その育ちの良さは残っているらしい。
「京介から電話きたときは親父になんかあったのかと思ったよ」
リビングに入ると惣介は京介に冗談交じりでそんなことを言った。京介は「ハハハ、まだまだ父さんは元気だよ」と答える。
「タバコ吸うなら先に吸って来てくんない? その間にコーヒー淹れとくから」
「お、そうか? んじゃお言葉に甘えて」
惣介はそう言うと胸ポケットからタバコを取り出してベランダに向かった。そして私は惣介がタバコを吸っている間にコーヒーとクッキーをテーブルに並べた。一応の応接用セッティングだ。
「ずいぶんと気合い入ってるね……」
準備する私に京介は少し呆れた調子で言った。そこには『兄貴にそこまで甲斐甲斐しくする義理あるの?』というニュアンスが含まれているように聞こえる。
「うん。今日だけはね……。私の進退が掛かってるから」
「そっか」
京介はそれだけ言うとそれ以上は詮索しないでくれた。これだから京介は好きなのだ。惣介のゴシップ好きとは対極のスタンスは見ていて気持ちが良い。
そうこうしていると惣介がベランダから戻ってきた。そしてクリアファイルをバッグから取り出してテーブルの上に置いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる