月不知のセレネー

海獺屋ぼの

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第四章 月の墓標

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 私と目が合うと透子がスタスタとこちらに歩いてきた。そして私の視線に気づいた海月さんも同じように振り返る。
「陽子ちゃん奇遇ねぇ。こんなとこで」
 透子さんはそう言うとパンプスで地面を蹴った。
「こんにちは。本当に奇遇ですね……」
「本当にねぇ。知ってる? 新宿駅って毎日三〇〇万人も乗り降りするらしいのよ。そう考えると奇跡よねぇ」
 透子さんはそんなどこかで聞きかじったみたいな知識を披露すると海月さんの方をチラッと見た。そして「あら?」と驚いたように目を丸くする。
「海月……ちゃんよね? 久しぶりぃ」
「もしかして透子……ちゃん?」
「そうだよー! いやぁ、何年ぶりだろ? カリフォルニアで遊んで以来じゃない?」
 透子さんは急にハイテンションなるとそう言って海月さんに抱きついた。
「あの……。お二人って……?」
「ん? ああ、実はねぇ~。私と海月ちゃんは昔から友達なんだよぉ! 昔ウチのおじいさまが遠藤のおじさまと仲良くてねぇ」
 透子さんは海月さんに同意を求めるように言うと嬉しそうに笑った。
「あの、春川さんは透子ちゃんとはどういった関係で……?」
 海月さんは首を傾げながら私と透子さんの顔を交互に見た。そしてすぐに透子さんが答える。
「ああ、この子は私の息子の婚約者なんだ」
「へー! すごい……。やっぱり世の中って狭いんだねぇ」
「本当にねぇ。ねえ! もし急ぎじゃなかったらせっかくだしお茶でもしない? こんなとこで会えるなんて運命だと思うの!」
 透子さんはそう言うと「陽子ちゃんも!」と続ける。
「いえ、私は……。今仕事中なので」
「……うーん。そっかぁ。……ちょっとだけでいいんだ。ほら、結婚式の話だけしときたくてさ」
 透子さんはそう言って食い下がると「ね! すぐ終わるから」と私の肩を軽くポンと叩いた。内心『このおばさんちょっと図々しいんじゃないか』と思った。当然、口には出さない。言ったらたぶん透子さんは静かに『あ、そう』とだけ言ってしばらく口を利いてくれなくなるだけだとは思うけれど。
「わかりました……。ちょっと上司に連絡だけ入れます」
 私は透子さんにそう断ってから西浦さんに連絡を入れた――。

 それから私たちは新宿駅前のカフェに入った。
「陽子ちゃんの上役の方って理解あるわねぇ。遅くなるなら直帰で良いって言ってくれたんでしょ?」
 席に着くなり透子さんは感心したみたいに言ってウエイターが運んできた水を一口飲んだ。
「まぁ……。そうですね」
 私は少しふて腐れたみたいに答える。
「にしても……。海月ちゃん本当に久しぶりだねぇ。会えて嬉しいよ! そういえばみーくんは元気してる?」
 透子さんはそう言って地雷を見事に踏み抜いた。流石にトラブルメーカー過ぎると思う。
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