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第四章 月の墓標
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スレの内容は概ね眉唾ものだった。スキャンダルな事件なので当然と言えば当然だけれど鍵山さんへの謂われのない誹謗中傷も書き込まれていた。正直見ていてあまり気分が良いものではない。
私はそのスレを上から舐めるのように読み進めた。『鍵山ちゃんやった奴マジ○す』とか『ちょwwwお前』といった碌でもない書き込みはスルーした。やはりこの手の掲示板は信用ならない。そんな感じで私の偏見はより一層強くなる。
そして画面をしばらくスクロールすると現場に居合わせたという女性の書き込みを見つけた。彼女は『そのとき私も甲府駅にいました! なんか犯人“せっかく応援してやってんのによー”とか叫んでましたよ。あれはたぶんこじらせた鍵山ちゃんのファンですよね。駅員さん来てからもずっとわめいてましたから』と書き込んでいた。もしこれが本当なら……。ストーカー的な犯行ということになるのだろうか?
「これって本当かなぁ?」
「どうだろね。こればっかりは確かめようがないからね……」
京介はそう言うと首を横に振った。そして軽いため息を吐くと眉間に皺を寄せる。
「ありがと。えーと他の書き込みは……。あんまないね。はぁーあ、やっぱり真相は分からないか」
私はそう言ってノートPCを京介に返した。どうやら今回の暴行事件の動機は山梨県警の発表を待つしかなさそうだ――。
それから私は惣介の非常識さ加減を京介に訴えた。これは完全に八つ当たりだと思う。でも京介はそんな私の愚痴を真剣に聞いてくれた。実の兄の愚痴なんて本当は聞きたくないだろうに。
「兄貴もねぇ。いくら仕事とはいえよくやるよ。今度会ったらちょっと抗議しなきゃね」
「……いいよ。あいつ言ったって聞かないんだからさぁ。でも! やっぱ会社まで押しかけるのは勘弁して欲しいんだよね。京極さんの親御さんが亡くなったときだってあいつかなり失礼だったんだよ? まったく……。ニンヒアに何の恨みがあるんだか」
「ああ、そんなこともあったね。あのときは……。僕も京極さんの愚痴けっこう聞いたっけね」
「そうそう! 身内が亡くなった子にあの態度はダメだよねー。本当にデリカシーの欠片が微塵もないんだから!」
私はそう吐き捨てると急に肩の力が抜けた。どうやら私は思っていた以上に惣介に憤慨していたらしい。
「にしても……。陽子大丈夫? 遠藤さんの件もだけどニンヒア自体もきな臭いんでしょ?」
「うん……。そうなんだよね。めっちゃきな臭い。あーあ、私はただ普通に会社員したいだけなのにさー。なんでウチの会社ってこんなにトラブルばっか起きんだろ」
「陽子さぁ。もしアレなら転職すれば? しばらく君のこと養うくらいの蓄えあるしさ」
「……そう、ね。それも悪くないかもねぇ」
私はそう返すと仰ぐように天井を見つめた。確かにそろそろ頃合いかも……。そんな風に思うときもあるのだ。
でも……。私はこんな風に愚痴ったところでニンヒアを辞めたりはしないと思う。別にそれはニンヒアに恩義を感じているからではない。おそらくそれは……。もっと人間が仕事をする上で大切なことが理由なのだ。もっともらしい言い方をすれば……。この仕事が好きだから。それに尽きると思う。そう考えるとニンヒアと私の関係は惣介と彼氏彼女だったときの関係性に似ている気がする。嫌なこともあるし、辛いこともある。でも好き。そんな共依存的な関係に。
私はそのスレを上から舐めるのように読み進めた。『鍵山ちゃんやった奴マジ○す』とか『ちょwwwお前』といった碌でもない書き込みはスルーした。やはりこの手の掲示板は信用ならない。そんな感じで私の偏見はより一層強くなる。
そして画面をしばらくスクロールすると現場に居合わせたという女性の書き込みを見つけた。彼女は『そのとき私も甲府駅にいました! なんか犯人“せっかく応援してやってんのによー”とか叫んでましたよ。あれはたぶんこじらせた鍵山ちゃんのファンですよね。駅員さん来てからもずっとわめいてましたから』と書き込んでいた。もしこれが本当なら……。ストーカー的な犯行ということになるのだろうか?
「これって本当かなぁ?」
「どうだろね。こればっかりは確かめようがないからね……」
京介はそう言うと首を横に振った。そして軽いため息を吐くと眉間に皺を寄せる。
「ありがと。えーと他の書き込みは……。あんまないね。はぁーあ、やっぱり真相は分からないか」
私はそう言ってノートPCを京介に返した。どうやら今回の暴行事件の動機は山梨県警の発表を待つしかなさそうだ――。
それから私は惣介の非常識さ加減を京介に訴えた。これは完全に八つ当たりだと思う。でも京介はそんな私の愚痴を真剣に聞いてくれた。実の兄の愚痴なんて本当は聞きたくないだろうに。
「兄貴もねぇ。いくら仕事とはいえよくやるよ。今度会ったらちょっと抗議しなきゃね」
「……いいよ。あいつ言ったって聞かないんだからさぁ。でも! やっぱ会社まで押しかけるのは勘弁して欲しいんだよね。京極さんの親御さんが亡くなったときだってあいつかなり失礼だったんだよ? まったく……。ニンヒアに何の恨みがあるんだか」
「ああ、そんなこともあったね。あのときは……。僕も京極さんの愚痴けっこう聞いたっけね」
「そうそう! 身内が亡くなった子にあの態度はダメだよねー。本当にデリカシーの欠片が微塵もないんだから!」
私はそう吐き捨てると急に肩の力が抜けた。どうやら私は思っていた以上に惣介に憤慨していたらしい。
「にしても……。陽子大丈夫? 遠藤さんの件もだけどニンヒア自体もきな臭いんでしょ?」
「うん……。そうなんだよね。めっちゃきな臭い。あーあ、私はただ普通に会社員したいだけなのにさー。なんでウチの会社ってこんなにトラブルばっか起きんだろ」
「陽子さぁ。もしアレなら転職すれば? しばらく君のこと養うくらいの蓄えあるしさ」
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私はそう返すと仰ぐように天井を見つめた。確かにそろそろ頃合いかも……。そんな風に思うときもあるのだ。
でも……。私はこんな風に愚痴ったところでニンヒアを辞めたりはしないと思う。別にそれはニンヒアに恩義を感じているからではない。おそらくそれは……。もっと人間が仕事をする上で大切なことが理由なのだ。もっともらしい言い方をすれば……。この仕事が好きだから。それに尽きると思う。そう考えるとニンヒアと私の関係は惣介と彼氏彼女だったときの関係性に似ている気がする。嫌なこともあるし、辛いこともある。でも好き。そんな共依存的な関係に。
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