月不知のセレネー

海獺屋ぼの

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第四章 月の墓標

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「陽子さん……。ちょっと訊いて欲しいことがあるんだ」
 窓を流れる水滴を眺めながら京極さんはそう言った。そして俯いて両目を擦る。
「いいよ。まだなんか悩みある感じ?」
「いや、悩みっていうか……。吐き出したいことなんだ」
 京極さんはそこまで話すと軽くため息を吐いた。そしてゆっくりと語り始めた――。

 京極裏月の話

 数ヶ月前の話だ。私はとある事情で茨城の実家に帰省していた。
「おかえり」
「ただいま。弟ちゃんは?」
「叔父さんに公園に連れてって貰ってるよ。今日ばっかりはね……」
 妹はそう言うとうんざりしたみたいにため息を吐いた。ため息。最近はお互いずっとこんな調子な気がする。
「庭見てもいい?」
「あ、うん。いいよ。ってかお姉の家なんだから好きにしていいって」
「ハハハ、だよね」
 そんなやりとりをしてから私はリビングに向かった。そしてサッシ越しに見える庭の変貌に思わず「うわぁ」と声がこぼれる。
「あんまり見栄え良いもんじゃないよね」
 妹はそう言いながらコーヒーをお盆に乗せて運んできた。コーヒーの横にはコーヒーフレッシュが二つに角砂糖が二つ。流石妹。私の好みを完全に把握してくれている。
「そうだね。まぁ予想はしてたけど直で見るとやっぱ……。ショックかな」
 私はそう答えるとローテーブル前の座布団に腰を下ろした。
「しばらくはこのままだと思う。少しずつ綺麗にはするつもりだけど今は余裕なくてさ」
「だろうね。まぁ庭いじりするときは連絡しなよ。私もやるから」
「ありがと。……まぁ年内にはどうにかしなきゃだね」
 妹はそう言いながら庭に目を遣った。その目には諦めとも悲しみともとれるような色が浮かんでいる。
「で? 育児はどうよ? キツくない?」
「うーん。まぁまぁかな……。叔父さんとか茉菜美が手伝ってくれるからなんとかって感じだね。もう少し手が掛からなくなったら保育所に相談してみるよ」
「そっか」
 私はそれだけ返すとコーヒーに角砂糖とコーヒーフレッシュを全て入れた。コーヒーの褐色色があっという間にカフェオレのようになった――。
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