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第四章 月の墓標
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その二人はまるで私を障害物でも避けるみたいに通り過ぎていった。一人は背の高い四〇歳くらいの男性、もう一人は三〇代後半くらいの小柄な女性だ。
通りがけに見た女性の顔には見覚えがあった。勘違いでなければ数日前に惣介に見せられた写真の女性だと思う。名前は鍵山海月。言わずもがな鍵山月音の母親だ。
「雅ちゃん!」
海月さんはそう言って京極さんと話している女性に声を掛けた。そして息を整えてから「海音は?」と続ける。
「海月ちゃん……。京極さんごめんなさい。海音くんのお姉さん来られたので少しお待ちいただいてもよろしいですか?」
彼女はそう言うと京極さんに会釈して海月さんの元に駆け寄っていった――。
「出直した方が良いかもねぇ」
病院のベンチに座りながら京極さんがボソッと呟いた。そして立ち上がると「ちょっと一服してきて良い?」と言った。
「いいよ。なんかあったらスマホに連絡するから。京極さんずっと気を張ったままだったでしょ? 少しは休憩して」
「う、うん。ありがと。じゃあちょっと吸ってくるわ」
京極さんはうなじを掻き上げながら言うと大きく背伸びをした。忙中閑あり。彼女の様子を見ているとそんな慣用句が思い浮かぶ。
そして京極さんがタバコ休憩に行ってから程なくして海月さんが一人で私のところにやってきた。
「あの……。失礼ですがニンヒアの春川さんですか?」
彼女はそう言うと潤んだ瞳で首を傾げた。
「はい、ご挨拶遅くなって申し訳ありません。株式会社ニンヒア、クリエーター発掘部の春川です」
「ああ……。やっぱり。いつも月音と海音がお世話になっております。月音の母です」
海月さんはそう言うと無理に笑顔を作った。必死に顔を作るのに取り繕いきれないような。そんなどうしようもなく悲しい笑顔だ――。
通りがけに見た女性の顔には見覚えがあった。勘違いでなければ数日前に惣介に見せられた写真の女性だと思う。名前は鍵山海月。言わずもがな鍵山月音の母親だ。
「雅ちゃん!」
海月さんはそう言って京極さんと話している女性に声を掛けた。そして息を整えてから「海音は?」と続ける。
「海月ちゃん……。京極さんごめんなさい。海音くんのお姉さん来られたので少しお待ちいただいてもよろしいですか?」
彼女はそう言うと京極さんに会釈して海月さんの元に駆け寄っていった――。
「出直した方が良いかもねぇ」
病院のベンチに座りながら京極さんがボソッと呟いた。そして立ち上がると「ちょっと一服してきて良い?」と言った。
「いいよ。なんかあったらスマホに連絡するから。京極さんずっと気を張ったままだったでしょ? 少しは休憩して」
「う、うん。ありがと。じゃあちょっと吸ってくるわ」
京極さんはうなじを掻き上げながら言うと大きく背伸びをした。忙中閑あり。彼女の様子を見ているとそんな慣用句が思い浮かぶ。
そして京極さんがタバコ休憩に行ってから程なくして海月さんが一人で私のところにやってきた。
「あの……。失礼ですがニンヒアの春川さんですか?」
彼女はそう言うと潤んだ瞳で首を傾げた。
「はい、ご挨拶遅くなって申し訳ありません。株式会社ニンヒア、クリエーター発掘部の春川です」
「ああ……。やっぱり。いつも月音と海音がお世話になっております。月音の母です」
海月さんはそう言うと無理に笑顔を作った。必死に顔を作るのに取り繕いきれないような。そんなどうしようもなく悲しい笑顔だ――。
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