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第三章 月不知のセレネー
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惣介の見送りを終えて会社に戻るとロビーで西浦さんが待っていた。
「悪いわね。追い出させるようなマネさせて」
彼女はそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえ。大丈夫ですよ。気にしないでください」
「……本当にごめんなさいね。彼、あなたといい仲だった人なんでしょ?」
西浦さんはそう言うと穏やかに口元を緩めた。
「え? 何で分かったんですか?」
「フフフ、それくらい分かるわ。まぁ年の功よ。単なる知人ならあなたがあんなに取り乱して追ってきたりしないだろうしね。……それはそうと」
西浦さんはそこまで話すと携帯を取り出した。そしてどこかに電話を掛け始める。
「ああ、京極さん。西浦ですー。……ごめんね。ちょっと戻るの遅れそうなのよ。……うん。うん。そうして貰えると助かるわ。……ええ。そうね。そうして差し上げて。……うん。後日、お詫びするわ。……じゃあ、あとはお願いね」
彼女はそこまで話すと電話を切った。どうやら京極さんに遅れると伝えたらしい。
「さて……。春川さん」
「はい」
「今まで黙っててごめんなさい。ちょっと込み入った事情があってなかなか話せなかったのよ」
「はい」
「もしあなたさえ良ければ弁明する時間貰えないかしら? ちょっと時間掛かるけどちゃんと説明するから」
「……はい」
私はひたすら同意するように「はい」と言い続けた。ペッパー君だってもう少し語彙力があると思うくらいイエスマンだ――。
それから私は西浦さんに連れられて会社の一〇階に向かった。一〇階にあるのは会議室と……。あとは社長室だ。
「社長と会うの久しぶりかしら?」
エレベーターの中で西浦さんにそう訊かれた。
「そうですね。今回の辞令交付のときにお会いして以来ですね」
「そう。まぁそうよね。あなたクラスの役職だと役員会議出ないし経営陣とあまり顔合わさないものねぇ。……ちょっと羨ましいわ。営業部長やら今の企画部長に挟まれると本当に嫌になるもの」
西浦さんはそう言って戯けたように笑った。普段の穏やかな笑みではない。少女のような。そんな無邪気で奔放な笑みに見える。
「だから独立されるんですか?」
気がつくと私はそんな失礼でストレートなことを彼女に尋ねていた。我ながらどうかと思う。でも彼女は私のそんな失礼な物言いにも怒ったりはしなかった。むしろ私の言葉が気に入ったのか「ハハハハ」と楽しそうに笑った。
「そうね。それもあるかもね。嫌なのよ。広瀬くん……。あ! 営業部長ね! あの男と私は社長の子飼いなんだけどねぇ。ずっとウマが合わないのよね」
西浦さんは不平不満を吐き出すように言うと「絶対にあんな男と結婚しない方がいいわよ」と付け加えた。
そうこうしているとエレベーターは一〇階のフロアに到着した。開いたドアの正面に会議室の大きな扉が見えた。
「悪いわね。追い出させるようなマネさせて」
彼女はそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえいえ。大丈夫ですよ。気にしないでください」
「……本当にごめんなさいね。彼、あなたといい仲だった人なんでしょ?」
西浦さんはそう言うと穏やかに口元を緩めた。
「え? 何で分かったんですか?」
「フフフ、それくらい分かるわ。まぁ年の功よ。単なる知人ならあなたがあんなに取り乱して追ってきたりしないだろうしね。……それはそうと」
西浦さんはそこまで話すと携帯を取り出した。そしてどこかに電話を掛け始める。
「ああ、京極さん。西浦ですー。……ごめんね。ちょっと戻るの遅れそうなのよ。……うん。うん。そうして貰えると助かるわ。……ええ。そうね。そうして差し上げて。……うん。後日、お詫びするわ。……じゃあ、あとはお願いね」
彼女はそこまで話すと電話を切った。どうやら京極さんに遅れると伝えたらしい。
「さて……。春川さん」
「はい」
「今まで黙っててごめんなさい。ちょっと込み入った事情があってなかなか話せなかったのよ」
「はい」
「もしあなたさえ良ければ弁明する時間貰えないかしら? ちょっと時間掛かるけどちゃんと説明するから」
「……はい」
私はひたすら同意するように「はい」と言い続けた。ペッパー君だってもう少し語彙力があると思うくらいイエスマンだ――。
それから私は西浦さんに連れられて会社の一〇階に向かった。一〇階にあるのは会議室と……。あとは社長室だ。
「社長と会うの久しぶりかしら?」
エレベーターの中で西浦さんにそう訊かれた。
「そうですね。今回の辞令交付のときにお会いして以来ですね」
「そう。まぁそうよね。あなたクラスの役職だと役員会議出ないし経営陣とあまり顔合わさないものねぇ。……ちょっと羨ましいわ。営業部長やら今の企画部長に挟まれると本当に嫌になるもの」
西浦さんはそう言って戯けたように笑った。普段の穏やかな笑みではない。少女のような。そんな無邪気で奔放な笑みに見える。
「だから独立されるんですか?」
気がつくと私はそんな失礼でストレートなことを彼女に尋ねていた。我ながらどうかと思う。でも彼女は私のそんな失礼な物言いにも怒ったりはしなかった。むしろ私の言葉が気に入ったのか「ハハハハ」と楽しそうに笑った。
「そうね。それもあるかもね。嫌なのよ。広瀬くん……。あ! 営業部長ね! あの男と私は社長の子飼いなんだけどねぇ。ずっとウマが合わないのよね」
西浦さんは不平不満を吐き出すように言うと「絶対にあんな男と結婚しない方がいいわよ」と付け加えた。
そうこうしているとエレベーターは一〇階のフロアに到着した。開いたドアの正面に会議室の大きな扉が見えた。
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