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第三章 月不知のセレネー
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冬木さんはそこまで話して一呼吸置いた。そして続ける。
「そこで私が提案した曲名が『月不知のセレネー』だったんです。なんて言えばいいですかね……。誰よりも月の地形に詳しいのにそれを見たことがない彼女にはそんなタイトルがあってると思ったんですよね」
「そうでしたか……。うん! 素敵なタイトルだと思います」
私はまた性懲りもなく小学生並みの感想を言ってしまった。京極さんみたいにノリと勢いがある子ならもっと自然体で話せるのに。そんなどうしようもないことを思う。
「ありがとうございます。手前味噌ですが私もこのタイトルすごく気に入ってるんです。鍵山さんには……。ちょっとだけ恥ずかしがられましたけどね」
冬木さんはそう言うとほっこりとした笑みを浮かべた。まるで本当に鍵山さんのお姉さんみたいだ――。
それから私たちは時間を掛けて今後の予定について話し合った。冬木さんの話を聞いてみて分かったのだけれど、彼女の作詞スピードは他のアーティストよりだいぶ早いようだ。本人は作詞に関しては素人だと言っていたけれど、私からしてみたら全くそんなことはなかった。きっと彼女の作家としての感覚と私たちの音楽関係者としての感覚にはかなりの差異があるのだろう。考えてみれば毎日一万文字前後書き続ける作家と私たちとでは感覚が違うのは当然だと思う。
「では今月中に二〇曲分の仮歌詞仕上げますね」
「はい! よろしくお願いします」
彼女はにこやかに言うと聞こえないくらい小さなため息を吐いた。さぁ……。私の仕事も今日はここまでだ。
「そこで私が提案した曲名が『月不知のセレネー』だったんです。なんて言えばいいですかね……。誰よりも月の地形に詳しいのにそれを見たことがない彼女にはそんなタイトルがあってると思ったんですよね」
「そうでしたか……。うん! 素敵なタイトルだと思います」
私はまた性懲りもなく小学生並みの感想を言ってしまった。京極さんみたいにノリと勢いがある子ならもっと自然体で話せるのに。そんなどうしようもないことを思う。
「ありがとうございます。手前味噌ですが私もこのタイトルすごく気に入ってるんです。鍵山さんには……。ちょっとだけ恥ずかしがられましたけどね」
冬木さんはそう言うとほっこりとした笑みを浮かべた。まるで本当に鍵山さんのお姉さんみたいだ――。
それから私たちは時間を掛けて今後の予定について話し合った。冬木さんの話を聞いてみて分かったのだけれど、彼女の作詞スピードは他のアーティストよりだいぶ早いようだ。本人は作詞に関しては素人だと言っていたけれど、私からしてみたら全くそんなことはなかった。きっと彼女の作家としての感覚と私たちの音楽関係者としての感覚にはかなりの差異があるのだろう。考えてみれば毎日一万文字前後書き続ける作家と私たちとでは感覚が違うのは当然だと思う。
「では今月中に二〇曲分の仮歌詞仕上げますね」
「はい! よろしくお願いします」
彼女はにこやかに言うと聞こえないくらい小さなため息を吐いた。さぁ……。私の仕事も今日はここまでだ。
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