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第一章 二つの鍵盤
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――月音さんはそこまで話すと深いため息を吐いた。そして「今思うと……。足りなかったのは私の技術と才能だったんだと思います」と付け加える。
「ボカロは悪くないんです。悪かったのは私……。それは曲作りをしていく内に分かりました。親や海音ちゃんに煽てられて勘違いしてたんですよ。お恥ずかしい話ですが……」
月音さんはそう言うと恥ずかしそうに俯いた。横で遠藤さんがそれを「まぁまぁ」と宥める。
「まぁ、アレです。月音はこう言ってますが口で言うほど酷くはなかったんですよ。ただ、客観的に自分の曲聴いたのが初めてだったからショックだったんだと思います」
遠藤さんは私たちに言い訳するように。また月音さんを慰めるように言うと口元を緩めた。その様子は従兄弟や兄弟というよりはまるで父親のように見える。
「うーん……。まぁ分かるよ。私も初めて自分らのバンド演奏のテープ聴いたときはショックだったもん。アレは嫌だよねぇ。なんつーか……。やってるときよりずっと下手に聞こえちゃうんだよね」
被せるように京極さんが話に割って入る。
「だからアレよ。なんつーか、すんげー恥ずかしかった。『うわっ! 私の歌ってこの程度なん!?』って感じでさ」
「そうなんですよ! 自分が思ってたより自分は大したことなかったのか……。みたいに思っちゃいますよね」
月音さんは前のめりになりながら京極さんの言葉に相づちを打った。そして「フフっ」と可愛らしく笑う。
「だよねー。まぁ、大丈夫だよ。聞き慣れれば悪くないって思えるようになっからさ」
京極さんはそうフォローすると「ニシシ」と嫌らしい声で笑った――。
帰り道。私は京極さんの隣で物思いに耽っていた。二子玉川から甲府まで。そんな長かった一日について思いを巡らせる。
「お疲れ。長旅だったねぇ」
「そうね。京極さんに運転して貰えてすごい助かったわ。ありがとね」
「いや、いいんだよ。たまにはこうして遠出すんのも悪くないしね」
京極さんは照れ笑いを浮かべるとロードースターのハンドルを軽くポンポンと叩いた。
「それより、鍵山さん! あの子いい子だったねぇ。正直、小憎らしいガキが出てくるかと思ってたけどそんなことなくてさ」
「ハハハ、そうね。いい子だったわ……。なんだかんだ年相応の女の子よね」
「うんうん! 音楽の才能はまだ分かんないけど人柄は好きだねぇ。遠藤さんもいい人そうだったしさ」
京極さんはそう言うと「ふふん」と鼻を鳴らした。どうやら直接会ってみて彼らのことを気に入ってくれたようだ。
「んじゃ、安全運転で帰ろうかぁ。直帰でいいよね?」
「うん、お願い」
「りょ!」
京極さんはノリの良い返事をするとアクセルを深く踏み込んだ――。
「ボカロは悪くないんです。悪かったのは私……。それは曲作りをしていく内に分かりました。親や海音ちゃんに煽てられて勘違いしてたんですよ。お恥ずかしい話ですが……」
月音さんはそう言うと恥ずかしそうに俯いた。横で遠藤さんがそれを「まぁまぁ」と宥める。
「まぁ、アレです。月音はこう言ってますが口で言うほど酷くはなかったんですよ。ただ、客観的に自分の曲聴いたのが初めてだったからショックだったんだと思います」
遠藤さんは私たちに言い訳するように。また月音さんを慰めるように言うと口元を緩めた。その様子は従兄弟や兄弟というよりはまるで父親のように見える。
「うーん……。まぁ分かるよ。私も初めて自分らのバンド演奏のテープ聴いたときはショックだったもん。アレは嫌だよねぇ。なんつーか……。やってるときよりずっと下手に聞こえちゃうんだよね」
被せるように京極さんが話に割って入る。
「だからアレよ。なんつーか、すんげー恥ずかしかった。『うわっ! 私の歌ってこの程度なん!?』って感じでさ」
「そうなんですよ! 自分が思ってたより自分は大したことなかったのか……。みたいに思っちゃいますよね」
月音さんは前のめりになりながら京極さんの言葉に相づちを打った。そして「フフっ」と可愛らしく笑う。
「だよねー。まぁ、大丈夫だよ。聞き慣れれば悪くないって思えるようになっからさ」
京極さんはそうフォローすると「ニシシ」と嫌らしい声で笑った――。
帰り道。私は京極さんの隣で物思いに耽っていた。二子玉川から甲府まで。そんな長かった一日について思いを巡らせる。
「お疲れ。長旅だったねぇ」
「そうね。京極さんに運転して貰えてすごい助かったわ。ありがとね」
「いや、いいんだよ。たまにはこうして遠出すんのも悪くないしね」
京極さんは照れ笑いを浮かべるとロードースターのハンドルを軽くポンポンと叩いた。
「それより、鍵山さん! あの子いい子だったねぇ。正直、小憎らしいガキが出てくるかと思ってたけどそんなことなくてさ」
「ハハハ、そうね。いい子だったわ……。なんだかんだ年相応の女の子よね」
「うんうん! 音楽の才能はまだ分かんないけど人柄は好きだねぇ。遠藤さんもいい人そうだったしさ」
京極さんはそう言うと「ふふん」と鼻を鳴らした。どうやら直接会ってみて彼らのことを気に入ってくれたようだ。
「んじゃ、安全運転で帰ろうかぁ。直帰でいいよね?」
「うん、お願い」
「りょ!」
京極さんはノリの良い返事をするとアクセルを深く踏み込んだ――。
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