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ただいま異世界、さよなら地球編

第2話 魔人の森

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それから1週間程経った頃である。
以前とほぼ変わらない景色を眺めながらモンスターを狩り、野宿をして不味い飯を食う日々は続く。

おっと、そういえば説明がまだだったな。
実の所俺は以前この世界で生きていたことがある、そいつの名はヴェルゼリュート・エクスデス。 破壊の王と恐れられあらゆるものを壊し、最終的には神すらも滅ぼしたとされる存在。
それが”前世”の俺である。

女神達の願いを聞き入れ、神をも凌駕する力を手にしたのはいいものの俺という存在はこの世界にとって脅威でしかない。
故に俺は別次元で”転生”するという約束の元、”地球”で生を受けた。

「が、何の因果か…またしてもこの世界にやってくることになるとは…」

更には女神がおまけで付けた以前の能力が早速活躍する始末。
10段階に別けられ封印された俺の能力は”封魔”として身体に眠る事なった、しかしその代償として発動後は恐ろしく腹が減る…これが、これがあまりにデメリットなのだ。

「何が嬉しくてドラゴンの肉等食わなくてはならんのだ…」

地球ではドラゴンの肉が美味しい! 等と描写されることがあったが、これだけは言わせてもらおう。
食い物は濃くて甘ければうまいのだよ!!

調味料やタレが少ないこの世界において、ドラゴンの肉というのはクソ以下だと言っても過言ではない。
米もなければパンも堅い。
食の文化もそれなりであれば、文明も進んではいない…以前住んでいた世界を馬鹿にするわけではないが…

「食べ物が天と地すぎる!!」

決して不味いというわけではないが、ここにタレや調味料が加わればどれだけ美味か。
安い焼き肉のタレひとつでも革命が起きる事だろう。
しかし、この世界にそんなものは存在しないのだ…いや、まてよ?

現在、地球へ帰る術が見つからない状態ではあるが…異世界人が召喚されたという事はだ!
もしかすると地球の食べ物や調味料等を召喚するといった類の能力を持つ者もいるかもしれない。

あの国王の口ぶりからして、異世界人の数はかなり多い可能性が高い。

「まだだ、まだ希望はある!!」

俺は空に向かって拳を突き上げた…まだ見ぬ、異世界人達よ! 待っていろぉ~!!
しかし、先ほどの俺を見て『いや、おまえがやれよ!』 と思っている者も少なくはないだろう…
残念ながらそれは無理な相談だ。

前世…いわゆる魔王時代の俺は戦闘能力は誰よりも高かった…あらゆる力をねじ伏せ、それはもう鬼神の様な活躍で世界に名を馳せた位だ。
が、力を求めるあまり生活に適した魔法や、汎用性の高いスキル等! 何一つとして有していないのである。

「しいて言えば…無条件で7km先に移動でき、訪れた事のある場所へ即座に移動できるテレポート能力位か…」




―――――――――――――それからしばらくして。
テレポートを繰り返す俺は、過去の薄れた記憶を頼りにある場所を目指し始めた。
”魔人の森”この記憶が確かであれば、あそこには俺の隠れ家があったはずだ…

「それにしても…あれから数千年以上経過しているのか」

あの時代から数千年経過しているともなると、隠れ家の方も無事かどうか怪しい所である。
ん? そういえばお前は魔王時代の記憶がちゃんとあるのか?
いや、地球に居た時はほんの少し覚えていたくらいだったが、ここで力を解放してからというもの断片的にだが色々思い出してきた。


「ふぅ…この辺だったな」

とてつもない大きさの木々が生い茂る森の中で一筋の光が降り注ぐ場所があった。
そこには5m程の巨大な墓石が立っている。

――ハルバート。 ここに眠る――
ここはあの”勇者”の墓だ。 まさか、勇者の墓の真下に隠れ家を有しているとは誰も想像していない事だろう。
なんせここは隠蔽魔法で地下の建物自体全てを隠しているからな!

「ごほん! え~…我が名は! ヴェルゼリュート・エクスデス! 開くがよい!」

すると俺の声に反応するかのように墓のすぐ真下へ続く道が現れた。
ほぅ、やはり身体が変わってもしっかり反応してくれる様だ。
ど、ドキドキしたぁ~!!

成功しない可能性も考えたが、無駄骨じゃなかったことに感謝。
そんなことを考えながら出現した階段を下ってゆく俺。
確か、この隠れ家には”隠居”したあと畑でも耕して余生を過ごそうと考えて色んな物を隠していたっけかな…

「それしてもクソ長いな…この階段」

探知魔法対策とはいえ、かれこれ100メートル以上は進んでいる気がする。
以前の俺はよく腰をやらなかったものだ…普通の人間ならこんな階段、降りるだけでも一苦労だ。


「ふぅ…どうやら。 あの時のままみたいだな…よかったよかった。 それじゃあ、お邪魔して―――うぷっ!!」

5つ扉があるうちの一つ、最奥に位置する扉を開いた瞬間の事であった。
俺は柔らかい何かに目の前を遮られる。

「ん? えらく生暖かいスライムだな…」

目の前が真っ暗で何かを視認できないが…これはスライムのような気が――――
いや、なんというか妙に肌触りがよいというか…感触が素晴らしいというべきか…

「!?」

それが生物だと気づいた俺はすぐさま距離をとる。 まさか!? 人!? なぜここに入れた!?

「…………この時を待っていた」

そう言ったのは透き通る様な淡いみど色の瞳をした綺麗な女性だった、よくみれば耳が尖っている…ということはエルフか…しかしこんなスタイルがいいエルフの知り合いが俺に居たかと言われれば怪しい所である。
もしかすると魔法の技術が上がってこの場所が探知された可能性も低いわけではない。

しかし、なんだろうか…妙に懐かしい気がするというか。
彼女も少し涙目でこちらを見つめている。

「まさか…エルナレア?」
「…コクッ…言いたい事はいっぱいある…けど、これだけは言わせて。 おかえり、ヴェル…」

間違いない、身体はデカくなっているがこの話し方とこの独特の雰囲気。
しかしなぜだ? ここは”あれから”数千年後の世界の筈だ…いくら”ハイエルフ”の末裔とはいえせいぜい千年ちょっと生きればいい方。
なぜ…まだ生きている?
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