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チューンの対価

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15年前、まだウェポンチューンが全盛期だった頃
東の都に最強のチューンドソードを作ると言う男がいた

彼は他のチューナー達と比べるとソード系統しかチューニングすることは出来なかったが

事実、彼の作ったチューンドソードは確かに強く
当時若い彼の代表作である魔剣【魔力過給バスターソード】は宮廷魔導師を十数人、もしくは国宝級の武器を引っ張り出さなければ勝てないとまで言われた最強種黒龍を屠ってみせた

当時討伐の為にその魔剣を振るった
後の世界最高位の冒険者はこう語った

【あれはただの武器ではない
もっと得体が知れず、戦うためにだけ生まれてきた特別なもの…
無機物とは思えない確かな質感があったのだ】…と

しかしその数ヵ月後に彼に悲劇が襲いかかる

武器の世界No.1を決める祭典にて
リニューアルした魔力過給バスターソードはたった一振りでポッキリとへし折れてしまい
暴発した魔力が荒れ狂い試験官が瀕死の重症を負ってしまう

へし折れたバスターソードに対したウェポンチューンへの疑問
そして自らのミスで瀕死の重症を負った試験官への責任を取るべく
彼はその日以降パタリと表舞台へ姿を表さなくなった


その若き日のウェポンチューナーの名は【イシカワ】

元はただの鍛治屋上がりで剣しか強くできない男だった







「イシカワさん、お願いします!
俺のロングソードをチューンして組んでください!!」

アンドリューはいつのまにか土下座をしていた
もしかしたら同じ名前の別人かも知れない

だがこの世界に【イシカワ】なんて名前の人間は極僅かであろう
続けて見た目から予測できる年齢も、ウェポンチューンを生業にしていることも

一致点があまりにも多すぎた

「おいおい…待てヨ、面あげろって」

イシカワがそう言う物の、アンドリューは一向に頭を上げない

「おい…とりあえず
お前の武器を見せてみな…話はそれからだろ?」





アンドリューは遂に顔を上げ、自身の愛用してきたロングソードをイシカワに手渡した

「ちょっと借りるぞ」

イシカワは自身の元いた椅子に戻り、アンドリューの愛剣のロングソードを抜いて剣身の確認をする

「…なるほどな、いい状態だ
年式も古いわりに良いアタリがついてる、手入れもしっかりと行き届いてるな…
元も良いナ、まだ若さが開間見えるが…鉄の良さをいかして作られてる
つまり鉄をちゃんとわかった奴が打ってるってわけだ」

ロングソードを抜き身にして、光に当ててそう呟くように言うイシカワにアンドリューを素直に感心する

「…確かに物は良い…が素材がな
今のお前が使うにはもう旬が過ぎてしまってるだろ
…強敵と戦う度に剣があげる悲鳴を聴いてしっかりと力を逃がして振るってる辺り自分でも前々から気づいてたナ…」

「…そこまで、わかっちゃうんですね…」

顔をしかめるようにしてロングソードを眺めるイシカワにアンドリューはそう呟いた

「バカヤロー、本職なめんじゃねぇヨ
今までの仕事で組んできた剣や作った剣を合わせれば軽く一万本は作成してるんだぜ?」

「一万!?」

イシカワのこれまで作成してきたと言う剣の本数に
アンドリューは驚愕に顔を染めた

「いいか?鍛治の世界に鉄もレアメタルもクソもねぇんだ
確かに強度とか見れば物は全然違う、でも大元は何一つ変わりはしねェ
生きてんだヨ、鉄もレアメタルも
人間と同じで呼吸もするし無理すれば悲鳴をあげる、熱した鉄は呼吸をしながら何をしてほしいと訴え掛けてるか?
激戦の最中悲鳴をあげながらどうしてほしいと訴えてるか?
それがわからなきゃ一流なんて呼べはしねぇんだヨ」

「…なるほど……」

アンドリューは感銘を受けたかのようになるほどと呟くとイシカワはめんどくさそうに頭をぽりぽりと掻く

「…そうだナ、お前のこの剣を見て俺も少し気が変わったヨ
弄ってやる、お前のこのロングソードを…ナ…」

「本当ですか!?」

想像より容易く承認が降り、アンドリューは目に見えて浮き足だった

「その変わりに一つ条件がある」

「条件、ですか…」

条件があると言われると、アンドリューは軽くたじろいだ

「まぁ、お前からしたら欠伸が出るほど簡単かもしれないし
ひょっとしたら死ぬほど大変かもしれないゾ……?」








「グルルゥッ!!」

「ぐはっ!?」

Bランク、ブラッディベアに弾き飛ばされ
アンドリューの身体が宙を舞った

「下がれアンドリューッ!」

「クソッ!」

アンドリューは仲間の冒険者にそう言われるとそのまま引き下がっていく

その脳裏に昨日イシカワに言われた言葉と、その時の自身の返答が反芻する

【どんなことでも良い
お前の得意なフィールドで、現実にこの鉄のロングソードをセレクト選択し続ける理由を見せてくれ】

_______つまり、こののロングソードが製の物よりと言う事を証明しろと言うことですか?


(…クソッ…良く考えればキャパ数が全く違うレアメタル製の物より
ただの鉄のロングソードが勝ってる点なんてあるわけないんだ…)

一時退避したアンドリューはチャンスを見計らってまたもブラッディベアに肉薄する

「うぉおおおッ」

「グルルォオッ」

アンドリューの振るった剣筋をブラッディベアは軽く腕をクロスさせて防ぐ
その直後にガキンッと言う鋼鉄同士をぶつけたような轟音が響く

(ダメだ…攻めきれない…
これ以上やれば剣身に皹や皺が入る…
もっと最悪は折れてしまう)

ミシッと剣から軋むような音を聞けば慌ててアンドリューは退避
続けて仲間の一閃が繰り出されるがこれもまた不発だ

(老体を酷使してるからな…
…剣も軋んで……)

ん?とアンドリューは一つ疑問を覚えた

(剣が軋む…あッ)


【生きてんだ、鉄もレアメタルも
人間と同じで呼吸してんだヨ、熱した鉄は呼吸をしながら何をしてほしいと訴え掛けてるか?
激戦の最中悲鳴をあげながらどうしてほしいと訴えてるか?】

またも脳裏にイシカワの言葉が過った

(鉄は生きてる…呼吸もするし悲鳴もあげる…)

ならばさっき聞いたあの軋み音
アレこそ鉄の悲鳴ではないのか?とアンドリューの頭にそう言う思考が生れた

(確かに鉄製はレアメタル製とは比べ物にならない
強度も違う、切れ味も違う…つまりはもう次元が違うんだ…
……だけど…)

アンドリューはまたもブラッディベアに肉薄する
ブラッディベアももう見切ったのか攻撃をすると腕で塞ぐ

ガッ_____

攻撃が腕に受け止められるとすぐにアンドリューは一度離れる

(剣は折れる寸前が一番強度が出てると言う…
そしてそれは人間も同じで、例えば骨なんか折れる寸前が一番強度が出ててそっくりだ…
人間は声に出すが武器は声に出さない…でも聞こえる
今ハッキリと……)

武器が耐えきれなければ軋んで悲鳴を上げ
そして使い手との波長が合えば強力な攻撃を産み出す

それは即ち【呼吸】だ


(思えば、こいつとは冒険者を初めてからずっと一緒にいる…もはや俺の半身だ……
例えそれが悪かったにしても、正しく無くても…
セレクト選択するのだってアリだろ…ッ!)

三度、アンドリューはブラッディベアへ肉薄する
ブラッディベアはタイミングを見計らって腕で防ぎに掛かる…が

「遅ェッ!」

「グルッ!?」

今ハッキリと、実感出来るくらいにアンドリューと鉄のロングソードの波長が合う

長年の苦楽と弱点や長所をアンドリューが一番わかってるからこそ…

ザシュッ____!!

先程の攻撃よりも数センチ、その攻撃位置はずれていた
しかし当たったのは先程の角度から振り下ろせば一番の切れ味を誇る所だ

使い手のみ先に走っていき、崩れていた呼吸はもう取り戻せた
バラバラと音をかけて崩れていたモチベーションが持ち直して行くのを感じながら、アンドリューは袈裟掛けに切り裂かれて絶命したブラッディベアを見下ろし

続いて自身のロングソードに目をやった

(…今ので、かなり消耗しちまったみたいだな…)

ロングソードの剣身には大きく皺が入ってしまっていたのだ


「…アンドリュー、お前スゲェヨ…
まさかただの鉄のロングソードでブラッディベアを倒しちまうなんてな……」

「…いや、結構危なかったサ」

駆け寄ってきた仲間の冒険者にそう言って、アンドリューはロングソードを鞘に納めた

(…やっぱり、どうしてもこの剣以外じゃ…冒険する気にならねぇナ…)

こうしてイシカワから出された課題をクリアしたアンドリューは、ブラッディベアの討伐証を片手に街へ帰っていった






「…へぇ、上手く掛かった力を逃がせてるな」

「…わかりますか?」

イシカワの店へ行き、事情もそこそこにロングソードをイシカワに渡したアンドリューは
イシカワから言われた言葉にそう返す

「わかるヨ、本来のこのロングソードじゃ勝てない相手に勝ったってのもナ」

「…じゃあ条件の課題は…」

少し心配そうに言うアンドリューへ、イシカワはニッと笑い掛ける

「あぁ、合格だ
手を入れてやるヨ、こいつを最高の一振りにするためにナ」









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