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第二章 冒険カンと義弟リオン in 迷宮都市
21 夢見の迷宮 上層
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夢見の迷宮
一階層目_______
「…中は本当に洞穴みたいだな」
迷宮に入ってすぐ
カンが呟いたのはそんな言葉だった
ちなみに明かりなどは壁に松明がつけられており薄暗い程度
足元くらいまでは確認できる明るさだった
「兄様、ちなみにこの迷宮は何階層に分れているんだ?」
ふと横を歩くリオンにそう話しかけられる
少しの間カンは虚空を見上げて考え、案内板にあった通りに返答をした
「えぇっと、この夢見の迷宮は確か…
上層10階、中層20階、下層20階の全50階層に分れてるらしい」
カンは街の案内板の記憶を思い浮かべながら顎に親指を当ててそうリオンへ告げた
ちなみに中堅者用迷宮【嘆きの迷宮】は上層30階、中層40階、下層30階の全100階
上級者用迷宮【裏切りの迷宮】は上層50階、中層50階、下層70階(それより上は未走破)となってる
「50層…ずいぶんと少ないのだな」
「リオンが昔攻略したのは何階層あったんだ?」
「我の時は100だったな…」
リオンは小首をかしげながら
この迷宮の小ささに驚愕をしていた
その時…
「グルル…」
前方から獣の唸り声のようなものが聞こえてくる
「さっそくお出ましかな」
「の、ようだな」
ほの暗い迷宮内であれ、敵の姿は十数m手前から確認できる
カンの視界に映ったのは一体のコボルトだった
「あれは…コボルトか?」
「あぁ、コボルトだな
元来群れを成す事が強みであるが、単独行動を取る時点で種の中でも低脳な方か」
言ってリオンは前へ出る
不敵な笑みを浮かべた顔は三日月のように不自然に釣り上がった口元
大きな瞳は猛禽類を思わせる獰猛なモノになっていた
「雑魚の相手は兄様の出るまでもない
我に任せてくれ」
ダンッと力強く踏みしめるリオンの足元には亀裂が走り地面が窪む
「お、おう…わかった」
カンは何故か好戦的なリオンに若干苦笑いをしながらこの戦いを見守る事にした
「我は争い事は嫌いだが戦うこと事態は嫌いでは無いのだ…
ここ最近体もロクに動かせなかったからな
何かあった時に兄様の足手まといじゃ笑えん」
美しい造形人形のようなリオンがそう言いながら首をゴキゴキと鳴らしてみせる
「グルルッ!」
そしてリオンの様子を見ていたコボルトは油断していて好機か、と判断したようで
無防備にも真っ直ぐに突っ込んできた
(…あらあら、お粗末だな)
カンがそう思った瞬間、コボルトの体がビクリと硬直した
「グルゥッ!?」
「ほう、勘と言うものは素晴らしいものだな」
そして硬直したコボルトへリオンは一歩一歩近づいていく
コボルトは硬直したまま動けないようだった
「弱い魔物ともなれば、真っ先に研ぎ澄ますべき武器は己が勘である…
その点で言えば、貴様を誉めてやるのもやぶさかでは無いな
あと一歩、近づいてたのなら肉片に早変わりしていただろうしな」
クツクツと笑いながら近づいていくリオンへ
カンは視線を向けた
(…なるほど、弱かったからこそわかるわけだ)
この場において絶対的弱者であるコボルト、それも群れではなく一体で動き回り
ただでさえ気と言うものに常に過敏に反応するようにしていたからか
振り上げただけの手が、絶対的強者の繰り出そうとする攻撃が
察知することが出来たのだろう
リオンが相手なら振り払うようにその手を薙がれるだけで自身は死んでしまうと
(迷宮産の魔物もスゲェな…いや、コイツが勘に鋭いだけだったかも知れねぇが
…だがそれでも、固まって次のアクションが起こせないようじゃ…)
カンはリオンの繰り出そうとする攻撃に気づき、止まれた事についてはコボルトを評価した
だがそれまでだ
結局すくんで動けなくなったのでは意味がない
(あれこそ、蛇に睨まれた蛙って所か?)
一歩一歩、動けなくなってしまったコボルトにリオンがゆっくりと近づいていく度
コボルトは目に見えて体を震えさせる
「残念だが、ここまでだ
我は甘くはあっても優しくは無いのでな
だが、素直に感心させて貰った礼としてすぐに済ませてやる」
「ギャ_____ンッ」
リオンは指先に力を込めて腕を引くと
思いっきり振りかぶって引っ掻きの要領でコボルトの体を引き裂いた
◆
「すまん、兄様
コボルト一匹に随分と時間を掛けてしまったな」
「…いや、10秒も経ってないだろ」
コボルトの討伐が終わると、カンへ振り返り謝罪をするリオンへカン自身は苦笑いをしながら
コボルトの死骸へと近づいていく
「にしても、このコボルト…
あれだけの警戒心の高さで通常種ではなく上位種だったら
駆け出しの冒険者にはキツかったろうな」
「危機感能力には偉く長けていたしな
手負いの獣は恐ろしいと言うが、通常主のままであろうとあそこまで勘の鋭いコボルトなら
駆け出しなら難しいだろうな、勘に加えて自棄になられたら初心者で対応は出来ないだろう」
そう会話をしながら、カンはコボルトの討伐証である尻尾を小さな剥ぎ取り用ナイフで切り落とす
「よし、んじゃあ次も行ってみようか」
そしてカンとリオンは迷宮の更に奥へと進んで行った
夢見の迷宮
二階層目_______
グシャッ_______
肉の引き裂き、潰れるその音で
目の前の魔物はすぐに絶命してしまう
「うーん、呆気ない…」
その様子を見ながらカンはぽつりと呟く
(うん、確かに…SSSランクの魔物であるリオンにFランクのコボルト、スライム、ゴブリン程度楽に倒せると思ってたんだが)
あまりにも呆気なすぎる
と言うかスライムはその特性上、斬撃等には強いはずである
そんなスライムですら当然のごとく一撃で魔核を傷つけずに狩って見せる
今は知らないが幼かった頃カンは一番最初に苦労した魔物がスライムだった
兎に角核を切らない限り斬撃では死ななくて業を煮やした覚えがあった
(その辺は魔術に救われたよな
スライムって言わば水分だから…燃やせばなんとかなったし)
そんな記憶の片隅にあった懐かしい思い出を思いだしながら
カンはリオンが倒した魔物の討伐証をかき集めていた
「…だいぶ狩ったよな」
あれから遭遇した魔物は全部リオンが狩ってしまう
カン自身迷宮産の魔物と戦ってみたい気持ちはあったのだが
スッキリしきって無さそうなリオンを見て兄弟間のアフターケアと割り切った
「兄様、次の階への階段を見つけたぞ」
「お、わかった」
カンは集めた討伐証を自身のマジックポーチへとしまいこんでリオンへ駆け寄った
◆
~しばらくして
「…兄様これで何階目だ?」
「…んー…確か10階層目かな
これで上層も終わりってとこだ」
約30分後、カンとリオンの姿は10階層目にあった
「そうか、ようやく上層も終わりか」
「ん?疲れたか?」
「いや、そう言う訳ではないのだが…」
結局その後も変わらず大活躍をしていたリオンだったのだが
本人の顔は浮かない物だった
「…いくら勝手をしらず、また辺りに気を配らなきゃいけないからとは言え
時間のかかりすぎかと思ってな…
なんか、兄様ならとっくに攻略して帰還してそうだし…」
「それはさすがに買いかぶり過ぎじゃないか?
それに、リオン結構容赦ないから瞬殺にしてたじゃん」
何故かネガティブになってしまうリオンに
カンは気にするなと言わんばかりにそう言っておどけて見せるものの
やはりリオンの顔はあまり浮かれないままだ
「すまない、こんなことを思ってる内じゃダメだとも分かっているんだがな
やめようやめようと思っても、治そうと思えば思うだけネガティブになってしまう」
リオンはそっと瞳を閉じて軽くカンへと頭を下げた
「…リオンって変なところで気が小さいと言うか」
「うっ…」
そしてそんな様子を見て、何かを思ったのか
カンはリオンへため息を吐きながら
本人にとって痛いところを突くような言葉を投げ掛ける
「どこか抜けてるし、行動は獣の癖が抜けないところもあるし
たまには一緒に遊ぼうと思ってもいつも寝てばかりだし…」
「に、兄様…」
どんどんと出てくる愚痴じみた言葉にリオンはオロオロとしてしまう
(…あぁ、やっぱり我は…一人で充分強い兄様にとって荷物でしか無いのかな…)
ふと、リオンの頭にそんな事が過る
「…だけども、そんなところを含めてリオンだろ?
俺からすりゃ、それだけ素を見せてくれてるお前を信用してるし
義理であれ弟として大好きなんだぜ?」
「えっ…?」
うつ向いたままのリオンの頭に、カンの手が乗せられ
ゆっくりと撫でられる
「良いかぁ?俺の事を本当に慕ってくれてるならビシッとしてくれ
今すぐにとは言わねぇが、お前はもっと堂々としてな」
「むうぅ…」
撫でられてるリオンはほんの少しだけ恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに頷く
「それでよし!
それでこそお______「 ギャキャキャッ!!」」
俺の自慢の弟だ、と言おうとしたとき
汚い叫び声に邪魔をされる
独特な叫び声から大方ゴブリン辺りだと推測が出来る
「…」
「…」
「ギャッ?」
深い沈黙が辺りを支配する中
ギロッとカンは声の主に視線を向ける
そこにいたのはわらわらと20匹ほど連なるゴブリンの群れだった
「____おい、テメェよぉ」
ピシリ、と空間に亀裂が入り
群れへ一歩踏み出す足がバキリと嫌な音を立てる
どうやら足元が窪んだよう
だがカンは気にせず、まるで般若のような顔で群れへと足を進めて行く
「今は兄として感動できる良いシーンだったってのによ…
よっくもまぁ邪魔してくれたなぁ」
「ギャ…ギャ…」
近づいてくるカンのあまりの圧に、ゴブリン達は立ちすくんで逃げられないようだった
「【まぁとりあえず・俺の前から・消え失せろ】」
カンは右手を引き絞ると、拳の前に即興のルーンで強力な風魔術を圧縮したモノを作り出すとそのまま一瞬で先頭のゴブリンへ肉薄し
殴ると同時に術式を起動させる
ドゴオオオオオッ_______!!
拳の先から暴風が吹き荒れ、殴られた先頭のゴブリンは勿論の事
他の仲間も巻き込み、飛ばされながらゴブリンは血を吹き出してバラバラになっていく
結構な威力が込められていたようだ
そしてそのまま奥の通路へ消えていった
「チッ、少しはタイミングって物を考えろってんだクソが…ッ」
「に、兄様…流石にオーバーだったんじゃ?」
Aランク程度ならそのまま倒せてしまいそうな魔術にリオンは少し呆れてしまっていた様子
「まぁ、兎に角
あまり深く考えんなってことだ」
(に、兄様…話を戻したいからってスルーした…
…まぁ、良いか…)
そしてリオンは考えるのをやめた
「まぁ確かに…もう少し堂々と、と言うのは我も思っていたさ」
「そー、もっと自信持ちな」
リオンの言葉にうんうん、と頷くカン
そしてそんな様子を見てリオンは軽く息を吐きそして胸を張った
「今までは流石に気が弱すぎたが!
本来なれば我に勝てるもの等皆無に等しいしな!!」
「まぁ火龍には負けたけどな」
「なんで!?そ、そこは普通今触れない所じゃないのか!!?」
何故か揚げ足を取るカンへリオンは若干涙目になりながら抗議の声をあげた
「まぁまぁ、ほら口調が迷子だぞ…」
「く…誰のせいだと…
だが、…ふふ…兄様らしいちゃらしいかな」
いきなりクスクスと笑いだすリオンに
カンははぁ…とため息をつきながらも頬笑む
「たっくようやく笑いやがったか」
「あぁ、ようやく…だ」
_____________________◆
あとがき
なんか寝れなかったので書いていたら出来上がってしまったので変に待たせるよりかは投稿しておこうと思ったので投下します
深夜テンションだからか不思議と書けました…謎です
二部が始まってようやく冒険しましたね
半年くらいお待たせしてしまった気がガガガ…
あと書いてたのが深夜な為誤字脱字あると思いますので、見つけた場合はコメント欄で教えてください
そして最近になって思うのですが…
…作者自身にも癒しが欲しいです
この物語ではリオン君ちゃんが最大の癒しです…えぇ、自分で書いてなんですが
はぁ…武人なケモっ子ショタカワユスホワホワ…
誰か絵書いてくれないですかねぇ…(/ω・\)チラッ(/ω・\)チラッ(/ω・\)チラッ
それとついでに、よければTwitterの垢フォローしてくだせぇ…
よく更新状況とか載っけてるので…
是非ともよろしくお願いします
ほんとなんでもしますから!リオン君ちゃんが!!
リオン「なんで我!?」
_____________________◆
一階層目_______
「…中は本当に洞穴みたいだな」
迷宮に入ってすぐ
カンが呟いたのはそんな言葉だった
ちなみに明かりなどは壁に松明がつけられており薄暗い程度
足元くらいまでは確認できる明るさだった
「兄様、ちなみにこの迷宮は何階層に分れているんだ?」
ふと横を歩くリオンにそう話しかけられる
少しの間カンは虚空を見上げて考え、案内板にあった通りに返答をした
「えぇっと、この夢見の迷宮は確か…
上層10階、中層20階、下層20階の全50階層に分れてるらしい」
カンは街の案内板の記憶を思い浮かべながら顎に親指を当ててそうリオンへ告げた
ちなみに中堅者用迷宮【嘆きの迷宮】は上層30階、中層40階、下層30階の全100階
上級者用迷宮【裏切りの迷宮】は上層50階、中層50階、下層70階(それより上は未走破)となってる
「50層…ずいぶんと少ないのだな」
「リオンが昔攻略したのは何階層あったんだ?」
「我の時は100だったな…」
リオンは小首をかしげながら
この迷宮の小ささに驚愕をしていた
その時…
「グルル…」
前方から獣の唸り声のようなものが聞こえてくる
「さっそくお出ましかな」
「の、ようだな」
ほの暗い迷宮内であれ、敵の姿は十数m手前から確認できる
カンの視界に映ったのは一体のコボルトだった
「あれは…コボルトか?」
「あぁ、コボルトだな
元来群れを成す事が強みであるが、単独行動を取る時点で種の中でも低脳な方か」
言ってリオンは前へ出る
不敵な笑みを浮かべた顔は三日月のように不自然に釣り上がった口元
大きな瞳は猛禽類を思わせる獰猛なモノになっていた
「雑魚の相手は兄様の出るまでもない
我に任せてくれ」
ダンッと力強く踏みしめるリオンの足元には亀裂が走り地面が窪む
「お、おう…わかった」
カンは何故か好戦的なリオンに若干苦笑いをしながらこの戦いを見守る事にした
「我は争い事は嫌いだが戦うこと事態は嫌いでは無いのだ…
ここ最近体もロクに動かせなかったからな
何かあった時に兄様の足手まといじゃ笑えん」
美しい造形人形のようなリオンがそう言いながら首をゴキゴキと鳴らしてみせる
「グルルッ!」
そしてリオンの様子を見ていたコボルトは油断していて好機か、と判断したようで
無防備にも真っ直ぐに突っ込んできた
(…あらあら、お粗末だな)
カンがそう思った瞬間、コボルトの体がビクリと硬直した
「グルゥッ!?」
「ほう、勘と言うものは素晴らしいものだな」
そして硬直したコボルトへリオンは一歩一歩近づいていく
コボルトは硬直したまま動けないようだった
「弱い魔物ともなれば、真っ先に研ぎ澄ますべき武器は己が勘である…
その点で言えば、貴様を誉めてやるのもやぶさかでは無いな
あと一歩、近づいてたのなら肉片に早変わりしていただろうしな」
クツクツと笑いながら近づいていくリオンへ
カンは視線を向けた
(…なるほど、弱かったからこそわかるわけだ)
この場において絶対的弱者であるコボルト、それも群れではなく一体で動き回り
ただでさえ気と言うものに常に過敏に反応するようにしていたからか
振り上げただけの手が、絶対的強者の繰り出そうとする攻撃が
察知することが出来たのだろう
リオンが相手なら振り払うようにその手を薙がれるだけで自身は死んでしまうと
(迷宮産の魔物もスゲェな…いや、コイツが勘に鋭いだけだったかも知れねぇが
…だがそれでも、固まって次のアクションが起こせないようじゃ…)
カンはリオンの繰り出そうとする攻撃に気づき、止まれた事についてはコボルトを評価した
だがそれまでだ
結局すくんで動けなくなったのでは意味がない
(あれこそ、蛇に睨まれた蛙って所か?)
一歩一歩、動けなくなってしまったコボルトにリオンがゆっくりと近づいていく度
コボルトは目に見えて体を震えさせる
「残念だが、ここまでだ
我は甘くはあっても優しくは無いのでな
だが、素直に感心させて貰った礼としてすぐに済ませてやる」
「ギャ_____ンッ」
リオンは指先に力を込めて腕を引くと
思いっきり振りかぶって引っ掻きの要領でコボルトの体を引き裂いた
◆
「すまん、兄様
コボルト一匹に随分と時間を掛けてしまったな」
「…いや、10秒も経ってないだろ」
コボルトの討伐が終わると、カンへ振り返り謝罪をするリオンへカン自身は苦笑いをしながら
コボルトの死骸へと近づいていく
「にしても、このコボルト…
あれだけの警戒心の高さで通常種ではなく上位種だったら
駆け出しの冒険者にはキツかったろうな」
「危機感能力には偉く長けていたしな
手負いの獣は恐ろしいと言うが、通常主のままであろうとあそこまで勘の鋭いコボルトなら
駆け出しなら難しいだろうな、勘に加えて自棄になられたら初心者で対応は出来ないだろう」
そう会話をしながら、カンはコボルトの討伐証である尻尾を小さな剥ぎ取り用ナイフで切り落とす
「よし、んじゃあ次も行ってみようか」
そしてカンとリオンは迷宮の更に奥へと進んで行った
夢見の迷宮
二階層目_______
グシャッ_______
肉の引き裂き、潰れるその音で
目の前の魔物はすぐに絶命してしまう
「うーん、呆気ない…」
その様子を見ながらカンはぽつりと呟く
(うん、確かに…SSSランクの魔物であるリオンにFランクのコボルト、スライム、ゴブリン程度楽に倒せると思ってたんだが)
あまりにも呆気なすぎる
と言うかスライムはその特性上、斬撃等には強いはずである
そんなスライムですら当然のごとく一撃で魔核を傷つけずに狩って見せる
今は知らないが幼かった頃カンは一番最初に苦労した魔物がスライムだった
兎に角核を切らない限り斬撃では死ななくて業を煮やした覚えがあった
(その辺は魔術に救われたよな
スライムって言わば水分だから…燃やせばなんとかなったし)
そんな記憶の片隅にあった懐かしい思い出を思いだしながら
カンはリオンが倒した魔物の討伐証をかき集めていた
「…だいぶ狩ったよな」
あれから遭遇した魔物は全部リオンが狩ってしまう
カン自身迷宮産の魔物と戦ってみたい気持ちはあったのだが
スッキリしきって無さそうなリオンを見て兄弟間のアフターケアと割り切った
「兄様、次の階への階段を見つけたぞ」
「お、わかった」
カンは集めた討伐証を自身のマジックポーチへとしまいこんでリオンへ駆け寄った
◆
~しばらくして
「…兄様これで何階目だ?」
「…んー…確か10階層目かな
これで上層も終わりってとこだ」
約30分後、カンとリオンの姿は10階層目にあった
「そうか、ようやく上層も終わりか」
「ん?疲れたか?」
「いや、そう言う訳ではないのだが…」
結局その後も変わらず大活躍をしていたリオンだったのだが
本人の顔は浮かない物だった
「…いくら勝手をしらず、また辺りに気を配らなきゃいけないからとは言え
時間のかかりすぎかと思ってな…
なんか、兄様ならとっくに攻略して帰還してそうだし…」
「それはさすがに買いかぶり過ぎじゃないか?
それに、リオン結構容赦ないから瞬殺にしてたじゃん」
何故かネガティブになってしまうリオンに
カンは気にするなと言わんばかりにそう言っておどけて見せるものの
やはりリオンの顔はあまり浮かれないままだ
「すまない、こんなことを思ってる内じゃダメだとも分かっているんだがな
やめようやめようと思っても、治そうと思えば思うだけネガティブになってしまう」
リオンはそっと瞳を閉じて軽くカンへと頭を下げた
「…リオンって変なところで気が小さいと言うか」
「うっ…」
そしてそんな様子を見て、何かを思ったのか
カンはリオンへため息を吐きながら
本人にとって痛いところを突くような言葉を投げ掛ける
「どこか抜けてるし、行動は獣の癖が抜けないところもあるし
たまには一緒に遊ぼうと思ってもいつも寝てばかりだし…」
「に、兄様…」
どんどんと出てくる愚痴じみた言葉にリオンはオロオロとしてしまう
(…あぁ、やっぱり我は…一人で充分強い兄様にとって荷物でしか無いのかな…)
ふと、リオンの頭にそんな事が過る
「…だけども、そんなところを含めてリオンだろ?
俺からすりゃ、それだけ素を見せてくれてるお前を信用してるし
義理であれ弟として大好きなんだぜ?」
「えっ…?」
うつ向いたままのリオンの頭に、カンの手が乗せられ
ゆっくりと撫でられる
「良いかぁ?俺の事を本当に慕ってくれてるならビシッとしてくれ
今すぐにとは言わねぇが、お前はもっと堂々としてな」
「むうぅ…」
撫でられてるリオンはほんの少しだけ恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに頷く
「それでよし!
それでこそお______「 ギャキャキャッ!!」」
俺の自慢の弟だ、と言おうとしたとき
汚い叫び声に邪魔をされる
独特な叫び声から大方ゴブリン辺りだと推測が出来る
「…」
「…」
「ギャッ?」
深い沈黙が辺りを支配する中
ギロッとカンは声の主に視線を向ける
そこにいたのはわらわらと20匹ほど連なるゴブリンの群れだった
「____おい、テメェよぉ」
ピシリ、と空間に亀裂が入り
群れへ一歩踏み出す足がバキリと嫌な音を立てる
どうやら足元が窪んだよう
だがカンは気にせず、まるで般若のような顔で群れへと足を進めて行く
「今は兄として感動できる良いシーンだったってのによ…
よっくもまぁ邪魔してくれたなぁ」
「ギャ…ギャ…」
近づいてくるカンのあまりの圧に、ゴブリン達は立ちすくんで逃げられないようだった
「【まぁとりあえず・俺の前から・消え失せろ】」
カンは右手を引き絞ると、拳の前に即興のルーンで強力な風魔術を圧縮したモノを作り出すとそのまま一瞬で先頭のゴブリンへ肉薄し
殴ると同時に術式を起動させる
ドゴオオオオオッ_______!!
拳の先から暴風が吹き荒れ、殴られた先頭のゴブリンは勿論の事
他の仲間も巻き込み、飛ばされながらゴブリンは血を吹き出してバラバラになっていく
結構な威力が込められていたようだ
そしてそのまま奥の通路へ消えていった
「チッ、少しはタイミングって物を考えろってんだクソが…ッ」
「に、兄様…流石にオーバーだったんじゃ?」
Aランク程度ならそのまま倒せてしまいそうな魔術にリオンは少し呆れてしまっていた様子
「まぁ、兎に角
あまり深く考えんなってことだ」
(に、兄様…話を戻したいからってスルーした…
…まぁ、良いか…)
そしてリオンは考えるのをやめた
「まぁ確かに…もう少し堂々と、と言うのは我も思っていたさ」
「そー、もっと自信持ちな」
リオンの言葉にうんうん、と頷くカン
そしてそんな様子を見てリオンは軽く息を吐きそして胸を張った
「今までは流石に気が弱すぎたが!
本来なれば我に勝てるもの等皆無に等しいしな!!」
「まぁ火龍には負けたけどな」
「なんで!?そ、そこは普通今触れない所じゃないのか!!?」
何故か揚げ足を取るカンへリオンは若干涙目になりながら抗議の声をあげた
「まぁまぁ、ほら口調が迷子だぞ…」
「く…誰のせいだと…
だが、…ふふ…兄様らしいちゃらしいかな」
いきなりクスクスと笑いだすリオンに
カンははぁ…とため息をつきながらも頬笑む
「たっくようやく笑いやがったか」
「あぁ、ようやく…だ」
_____________________◆
あとがき
なんか寝れなかったので書いていたら出来上がってしまったので変に待たせるよりかは投稿しておこうと思ったので投下します
深夜テンションだからか不思議と書けました…謎です
二部が始まってようやく冒険しましたね
半年くらいお待たせしてしまった気がガガガ…
あと書いてたのが深夜な為誤字脱字あると思いますので、見つけた場合はコメント欄で教えてください
そして最近になって思うのですが…
…作者自身にも癒しが欲しいです
この物語ではリオン君ちゃんが最大の癒しです…えぇ、自分で書いてなんですが
はぁ…武人なケモっ子ショタカワユスホワホワ…
誰か絵書いてくれないですかねぇ…(/ω・\)チラッ(/ω・\)チラッ(/ω・\)チラッ
それとついでに、よければTwitterの垢フォローしてくだせぇ…
よく更新状況とか載っけてるので…
是非ともよろしくお願いします
ほんとなんでもしますから!リオン君ちゃんが!!
リオン「なんで我!?」
_____________________◆
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ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
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*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
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