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第一章 《英雄(不本意)の誕生編》
第24話 リクスの隠された強さ
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《三人称視点》
「お、そっちも終わったみたいだね」
聖剣の顕現を解くのと同時、エルザの元に一人の少女が降り立った。
身長はエルザよりも少し低く、瞳は鮮やかな桃色。
薄紫の髪はポニーテールに括られている。
その少女は、騎士用の隊服に身を包んでいた。
彼女の名はエレン=ミルーズ。
エルザの同級生であり、若くして王国騎士団の副団長である。
王立英雄学校では生徒会長のエルザを補佐する生徒会副会長の任に就いており、学内の序列は二位と、エルザに次ぐ優秀な少女であった。
「そっちはどうなのぉ?」
「暗躍してたコイツ等の仲間を捉えたよ。捉えた一人に吐かせたら、違法の魔法薬の取り引きを行うために来たみたい」
「その魔法薬の種類はぁ?」
「魔力増幅だった。もちろん、既に部下達が回収済みだよ」
「そう……ご苦労様」
エルザは、気の置けない親友の前で今までの鉄面皮を解き、朗らかに笑った。
「それにしても、最近は《神命の理》の動きが活発だね」
「そうねぇ。どうにも焦臭いわねぇ」
「目的はわかった?」
「さぁ。なんだか、私を狙っているような雰囲気はあったけれど」
「だとしたら連中もバカだね。この国最強の勇者を口説き落とせるわけがないのに」
エレンは、命知らずの外道魔法組織の連中を嘲るように笑う。
「……しかし、流石は勇者だ。あっという間に四人を始末するとは」
「まだまだよぉ。リクスちゃんに比べればね」
エレンの感心したような呟きに、エルザは浮かれるでもなくそう答えた。まるで、純然たる事実を受け止めるように。
「リクス? ああ、エルザの弟くんか。編入試験で《暴君》と《速撃》を下したって編入生か。ウチの周りでも大騒ぎだよ」
エレンは面白そうに笑う。
リクスは知るよしも無いが、《暴君》と《速撃》の異名を持つ二人は、上位ランカーの中でも攻撃力にスペックをガン振りしている。
その凶暴な性格も相まって、周りからは恐れられているのだが……そんな二人を傷一つ負わずに黙らせたリクスは、まさしく英雄だった。
特に《暴君》たるブロズに苛められたり暴力を振るわれたりした生徒は、学内には結構多い。それもあって、憎きブロズをボコボコにしたリクスは、一部生徒達の間で大人気だった。
けれど、そんな武勇伝を聞いても、普段なら両手を挙げて喜びそうなエルザが、どこか不機嫌だった。
「あんな格下に勝っただけで騒がれるなんてねぇ。たぶんリクスちゃんも想定外だったんじゃないかしら。あの程度、リクスちゃんにとっては虫けら以下でしかないんだから」
「ふ~ん、ひょっとして弟くんは、勇者であるエルザよりも強いの?」
試すような口調で、エレンは問う。それに対し、エルザは「もちろん」と即答した。
まさかそう答えられるとは思ってもいなかったエレンは、目を見開く。
「あの子の力は未知数よぉ。現に私は小さい頃、あの子に一度も勝ったことがないんだもの」
「それって昔の話だろう? 今は――」
「確かにあの子は途中で剣を投げ出してしまった。けれど、あの子の内包する力が日に日に大きくなっていったのよぉ。毎日寝ているだけなのに、修行していた私よりも、何倍も早い速度でねぇ」
「そんな……ばかな」
エレンは絶句する。
彼女の中で最強は、勇者であるエルザだったから。
「本当の話よぉ。言うことを聞かない生意気な弟だから、躾をするには毎回聖剣を最大出力で扱っているのぉ。その上で、屋敷全体にリクスの反撃力を抑制する結界を張って、ね。そうじゃないと、本気を出したあの子には、触れることすらできないんだものぉ」
そう。
実は、リクスの家には対リクス用の弱体化結界が張ってある。
もちろん、家から出たがらないリクスは、そんな結界が張ってあることなんて気付いてすらいない。
だから未だに、姉であるエルザの方が強いと思っている。
けれどそれは、結界があるからこそエルザの方が辛うじて上に立っているだけだということを、リクスは知らないのだ。
リクスの固有魔法“俺之世界”は、あらゆる攻撃を防ぐ絶対防御結界だ。
それこそ、《火天使剣》の攻撃をも阻むほどの。
だから、編入試験あの日、リクスが駄々をこねて引きこもった時に“俺之世界”を破り“居留守之番人”を見破れたのも、リクスへの弱体化結界があったからに他ならない。
もしそれがなかったら……エルザが彼を自室から引きずり出す頃には、日が暮れていたかもしれない。
「まあ、あの子は進んで力を振るう気は無さそうだけどぉ。人殺しも正義も、興味が無さそうだし」
エルザは、呆れたようにそう呟いた。
(そ、そんな……もしそんな子が、本気で力を解放したら……!)
とんでもない大暴露を、なんでもないことのように話すエルザの横で、リクスの底知れない力を想像したエレンは、身震いをするのであった。
「お、そっちも終わったみたいだね」
聖剣の顕現を解くのと同時、エルザの元に一人の少女が降り立った。
身長はエルザよりも少し低く、瞳は鮮やかな桃色。
薄紫の髪はポニーテールに括られている。
その少女は、騎士用の隊服に身を包んでいた。
彼女の名はエレン=ミルーズ。
エルザの同級生であり、若くして王国騎士団の副団長である。
王立英雄学校では生徒会長のエルザを補佐する生徒会副会長の任に就いており、学内の序列は二位と、エルザに次ぐ優秀な少女であった。
「そっちはどうなのぉ?」
「暗躍してたコイツ等の仲間を捉えたよ。捉えた一人に吐かせたら、違法の魔法薬の取り引きを行うために来たみたい」
「その魔法薬の種類はぁ?」
「魔力増幅だった。もちろん、既に部下達が回収済みだよ」
「そう……ご苦労様」
エルザは、気の置けない親友の前で今までの鉄面皮を解き、朗らかに笑った。
「それにしても、最近は《神命の理》の動きが活発だね」
「そうねぇ。どうにも焦臭いわねぇ」
「目的はわかった?」
「さぁ。なんだか、私を狙っているような雰囲気はあったけれど」
「だとしたら連中もバカだね。この国最強の勇者を口説き落とせるわけがないのに」
エレンは、命知らずの外道魔法組織の連中を嘲るように笑う。
「……しかし、流石は勇者だ。あっという間に四人を始末するとは」
「まだまだよぉ。リクスちゃんに比べればね」
エレンの感心したような呟きに、エルザは浮かれるでもなくそう答えた。まるで、純然たる事実を受け止めるように。
「リクス? ああ、エルザの弟くんか。編入試験で《暴君》と《速撃》を下したって編入生か。ウチの周りでも大騒ぎだよ」
エレンは面白そうに笑う。
リクスは知るよしも無いが、《暴君》と《速撃》の異名を持つ二人は、上位ランカーの中でも攻撃力にスペックをガン振りしている。
その凶暴な性格も相まって、周りからは恐れられているのだが……そんな二人を傷一つ負わずに黙らせたリクスは、まさしく英雄だった。
特に《暴君》たるブロズに苛められたり暴力を振るわれたりした生徒は、学内には結構多い。それもあって、憎きブロズをボコボコにしたリクスは、一部生徒達の間で大人気だった。
けれど、そんな武勇伝を聞いても、普段なら両手を挙げて喜びそうなエルザが、どこか不機嫌だった。
「あんな格下に勝っただけで騒がれるなんてねぇ。たぶんリクスちゃんも想定外だったんじゃないかしら。あの程度、リクスちゃんにとっては虫けら以下でしかないんだから」
「ふ~ん、ひょっとして弟くんは、勇者であるエルザよりも強いの?」
試すような口調で、エレンは問う。それに対し、エルザは「もちろん」と即答した。
まさかそう答えられるとは思ってもいなかったエレンは、目を見開く。
「あの子の力は未知数よぉ。現に私は小さい頃、あの子に一度も勝ったことがないんだもの」
「それって昔の話だろう? 今は――」
「確かにあの子は途中で剣を投げ出してしまった。けれど、あの子の内包する力が日に日に大きくなっていったのよぉ。毎日寝ているだけなのに、修行していた私よりも、何倍も早い速度でねぇ」
「そんな……ばかな」
エレンは絶句する。
彼女の中で最強は、勇者であるエルザだったから。
「本当の話よぉ。言うことを聞かない生意気な弟だから、躾をするには毎回聖剣を最大出力で扱っているのぉ。その上で、屋敷全体にリクスの反撃力を抑制する結界を張って、ね。そうじゃないと、本気を出したあの子には、触れることすらできないんだものぉ」
そう。
実は、リクスの家には対リクス用の弱体化結界が張ってある。
もちろん、家から出たがらないリクスは、そんな結界が張ってあることなんて気付いてすらいない。
だから未だに、姉であるエルザの方が強いと思っている。
けれどそれは、結界があるからこそエルザの方が辛うじて上に立っているだけだということを、リクスは知らないのだ。
リクスの固有魔法“俺之世界”は、あらゆる攻撃を防ぐ絶対防御結界だ。
それこそ、《火天使剣》の攻撃をも阻むほどの。
だから、編入試験あの日、リクスが駄々をこねて引きこもった時に“俺之世界”を破り“居留守之番人”を見破れたのも、リクスへの弱体化結界があったからに他ならない。
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エルザは、呆れたようにそう呟いた。
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