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第二章 《最凶の天空迷宮編》
第五十九話 狡い敵の裏をかいて
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「ど、どういうことなんだ!?」
本体を倒したはずなのに、水の不死鳥は未だ健在。
であれば、可能性としては――
(本体を倒せていない……?)
思えば、《交換》が効かなかったというのも不可解だ。
スキルを取り替えられなかったのも、相手が本体じゃなかったというのなら説明が付く。
(でも、じゃあ今倒したのは一体なんだ……!)
今一度、ハイド・ウンディーネが所持していたスキルを頭の中で整理する。
――《遠隔操作》 《形状変化》 《複製》――
(《複製》……これか!)
今のはおそらく、本体の複製体だ。
つまり、実体を持つ虚像ということになる。
どうりで、ステータスは表示されているくせにスキルを交換できなかったわけだ。
(本体は安全な水の中に隠れている上に、デコイまで……!)
ブチン。
そのとき、僕の中の何かが切れた。
「ふっざけるなぁああああああ!!」
こいつ、人を舐め腐ってる。
安全な場所に隠れて、その上で自分は殺されたくないとばかりにデコイを作って。
もし、こんな生き汚い奴に時間を浪費して、クレアを助けることができなかったら……?
今戦ってくれているエナが、一方的に嬲られて惨殺されたら……?
そのとき僕は、彼女たちの亡骸を前に、何を思うのだろう。
「いい加減姿を現せよッ!!」
激情に任せて、重炸裂を連発する。
再び海が荒れ狂い、巨大な穴がいくつも口を開ける。
(どこだ!? どこにいる!!)
目を皿のようにして、開いた穴の中を凝視する。
「いた!」
さっきと同じ銀色の球体が、向かって右下にぶち開けた穴の奥で、ギラリと光った。
本物かデコイかわからないが、《飛行》で一息にカッ飛んでいく。
「スキル《火炎弾》―三点発射ッ!」
突っ込みながら、再度《火炎弾》の三連射を放つ。
赤い炎の弾丸は三つ重なって、銀色の球体を射貫く――が。
「また外れか……!」
苛立ち混じりに吐き捨て、激情のままに重炸裂を放つ。
爆発した水の向こうに、また一つ銀色の球体を見つけた。
「このままじゃ埒が開かないっていうのに!」
他に方法もないから、この不毛な宝探しを続けるしかない。
絶望が心に影を落とし始めていた頃――何の偶然かわからないが、不意に一筋の光が差した。
「スキル《火炎弾》―三点発射」
さっきまでと同じように、炎の弾丸を放つ。
三つの炎は、狙い過つことなく球体を撃ち抜いて――
「っ!?」
否、撃ち抜く直前、銀色の球体が火炎弾を避けた。
こんなことは初めてだ。
避けたということは、それ即ち。
今までは避ける必要がなかったが、今回に限っては避けなければならなかったということ。
「こいつが本体か!!」
《飛行》のスキルに神経を集中し、加速しつつ本体と思われる球体に肉薄する。
思った通りだ。
今までそこに居座っているだけで的になりに行っていたデコイ達とは違う。
明らかな意志が介在している。
それが証拠に、僕が近づくと球体はもの凄い速度で逃げ出した。
「!? 待て!」
額に青筋を立て、逃がさないとばかりに加速する。
「いちいち、やってることが狡いんだよ!!」
そして――あることに気付いた。
それは、突拍子もない一つの考察。
(ん? 今僕、狡いって言ったか……?)
そうだ、こいつは小心者で狡猾な奴だ。
そんな奴が、いざ本体を見つけられて逃げる。それでは、まるでそれが本体だと自らバラしているみたいじゃないか。
虚像の空間に、操り人形としての水の不死鳥、欺くためのデコイ。
何もかもが嘘と偽りで塗りかためられた、このダンジョンを進んできたからこそわかる、ほんの少しの違和感。
(こいつがそういう狡い奴なら、これは本体じゃない……! 本体と思わせるためのデコイだ!)
じゃあ、どうして今まで動かさなかったデコイをいきなり動かし、本物と錯覚させるようにしたのか。
それは、おそらく。
「このデコイのすぐ近くに、本体がいるからだ!!」
スキル《衝撃拳》を起動し、周囲の水を一撃で吹き飛ばす。
――いた。
他の奴等と全く同じ姿をしているが、間違いなく本体だ。
デコイを本体に見せかけたのは、近くにいる本物の本体から意識を逸らすため。まんまと卑怯な策略に嵌まるところだった。
「見つけた……!」
奥歯を噛みしめたまま、凄絶に笑いを浮かべる。
殺気を悟ったのか、ハイド・ウンディーネは脱兎のごとく逃げ出した。
「逃がさない! ユニークスキル《交換》――《硬質化》を捧げ、我が手に《遠隔操作》を!」
すかさず《交換》を起動。
今度こそ、スキルの交換を成功させる。そして、成功したということは即ち、間違いなくこいつが本体ということになる。
「スキル《遠隔操作》!」
水の不死鳥を操っていた遠隔操作のスキルを手にした僕は、逃げようとしていたハイド・ウンディーネを遠隔操作の対象に設定した。
「こっちへ来い!」
人差し指を手前に曲げる仕草をすると、ハイド・ウンディーネの動きがピタリと止まり、ゆっくりと僕の方に近寄ってきた。
「もう逃がさないよ」
遠隔操作によって、僕の方に近寄ってきたハイド・ウンディーネを鷲づかみにした。
散々苦しめてくれたお礼だ。
最大限の憤怒を込めて、跡形もなく消し飛ばしてあげよう。
大切な人が苦しんでいる状況で、モンスターに慈悲をかけられるほど、僕は優しくないのだから。
本体を倒したはずなのに、水の不死鳥は未だ健在。
であれば、可能性としては――
(本体を倒せていない……?)
思えば、《交換》が効かなかったというのも不可解だ。
スキルを取り替えられなかったのも、相手が本体じゃなかったというのなら説明が付く。
(でも、じゃあ今倒したのは一体なんだ……!)
今一度、ハイド・ウンディーネが所持していたスキルを頭の中で整理する。
――《遠隔操作》 《形状変化》 《複製》――
(《複製》……これか!)
今のはおそらく、本体の複製体だ。
つまり、実体を持つ虚像ということになる。
どうりで、ステータスは表示されているくせにスキルを交換できなかったわけだ。
(本体は安全な水の中に隠れている上に、デコイまで……!)
ブチン。
そのとき、僕の中の何かが切れた。
「ふっざけるなぁああああああ!!」
こいつ、人を舐め腐ってる。
安全な場所に隠れて、その上で自分は殺されたくないとばかりにデコイを作って。
もし、こんな生き汚い奴に時間を浪費して、クレアを助けることができなかったら……?
今戦ってくれているエナが、一方的に嬲られて惨殺されたら……?
そのとき僕は、彼女たちの亡骸を前に、何を思うのだろう。
「いい加減姿を現せよッ!!」
激情に任せて、重炸裂を連発する。
再び海が荒れ狂い、巨大な穴がいくつも口を開ける。
(どこだ!? どこにいる!!)
目を皿のようにして、開いた穴の中を凝視する。
「いた!」
さっきと同じ銀色の球体が、向かって右下にぶち開けた穴の奥で、ギラリと光った。
本物かデコイかわからないが、《飛行》で一息にカッ飛んでいく。
「スキル《火炎弾》―三点発射ッ!」
突っ込みながら、再度《火炎弾》の三連射を放つ。
赤い炎の弾丸は三つ重なって、銀色の球体を射貫く――が。
「また外れか……!」
苛立ち混じりに吐き捨て、激情のままに重炸裂を放つ。
爆発した水の向こうに、また一つ銀色の球体を見つけた。
「このままじゃ埒が開かないっていうのに!」
他に方法もないから、この不毛な宝探しを続けるしかない。
絶望が心に影を落とし始めていた頃――何の偶然かわからないが、不意に一筋の光が差した。
「スキル《火炎弾》―三点発射」
さっきまでと同じように、炎の弾丸を放つ。
三つの炎は、狙い過つことなく球体を撃ち抜いて――
「っ!?」
否、撃ち抜く直前、銀色の球体が火炎弾を避けた。
こんなことは初めてだ。
避けたということは、それ即ち。
今までは避ける必要がなかったが、今回に限っては避けなければならなかったということ。
「こいつが本体か!!」
《飛行》のスキルに神経を集中し、加速しつつ本体と思われる球体に肉薄する。
思った通りだ。
今までそこに居座っているだけで的になりに行っていたデコイ達とは違う。
明らかな意志が介在している。
それが証拠に、僕が近づくと球体はもの凄い速度で逃げ出した。
「!? 待て!」
額に青筋を立て、逃がさないとばかりに加速する。
「いちいち、やってることが狡いんだよ!!」
そして――あることに気付いた。
それは、突拍子もない一つの考察。
(ん? 今僕、狡いって言ったか……?)
そうだ、こいつは小心者で狡猾な奴だ。
そんな奴が、いざ本体を見つけられて逃げる。それでは、まるでそれが本体だと自らバラしているみたいじゃないか。
虚像の空間に、操り人形としての水の不死鳥、欺くためのデコイ。
何もかもが嘘と偽りで塗りかためられた、このダンジョンを進んできたからこそわかる、ほんの少しの違和感。
(こいつがそういう狡い奴なら、これは本体じゃない……! 本体と思わせるためのデコイだ!)
じゃあ、どうして今まで動かさなかったデコイをいきなり動かし、本物と錯覚させるようにしたのか。
それは、おそらく。
「このデコイのすぐ近くに、本体がいるからだ!!」
スキル《衝撃拳》を起動し、周囲の水を一撃で吹き飛ばす。
――いた。
他の奴等と全く同じ姿をしているが、間違いなく本体だ。
デコイを本体に見せかけたのは、近くにいる本物の本体から意識を逸らすため。まんまと卑怯な策略に嵌まるところだった。
「見つけた……!」
奥歯を噛みしめたまま、凄絶に笑いを浮かべる。
殺気を悟ったのか、ハイド・ウンディーネは脱兎のごとく逃げ出した。
「逃がさない! ユニークスキル《交換》――《硬質化》を捧げ、我が手に《遠隔操作》を!」
すかさず《交換》を起動。
今度こそ、スキルの交換を成功させる。そして、成功したということは即ち、間違いなくこいつが本体ということになる。
「スキル《遠隔操作》!」
水の不死鳥を操っていた遠隔操作のスキルを手にした僕は、逃げようとしていたハイド・ウンディーネを遠隔操作の対象に設定した。
「こっちへ来い!」
人差し指を手前に曲げる仕草をすると、ハイド・ウンディーネの動きがピタリと止まり、ゆっくりと僕の方に近寄ってきた。
「もう逃がさないよ」
遠隔操作によって、僕の方に近寄ってきたハイド・ウンディーネを鷲づかみにした。
散々苦しめてくれたお礼だ。
最大限の憤怒を込めて、跡形もなく消し飛ばしてあげよう。
大切な人が苦しんでいる状況で、モンスターに慈悲をかけられるほど、僕は優しくないのだから。
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