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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第97話 乃花スペシャルブレンド
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「ご注文は何になさいますか?」
「えと、じゃあドリンクバーと……かっくんはどうする?」
「じゃあそれで」
「ドリンクバー二つでお願いします」
「かしこまりました。お飲み物はあちらにあるグラスをとって、セルフで入れていただく形となります」
注文を終えた乃花と俺へ一礼して、ウェイトレスが去って行く。
時刻は午後九時間近。
流石にこの時間ともなるとほとんどの人は夕飯を食べ終えているからか、店内は半分以上が空席となっていた。
「飲み物持って来よう」
「あ、かっくんは座ってて! 私が持ってくるから!」
乃花は慌ててそう告げると、立ち上がる。
「かっくんは何にする? 私はメロンソーダにするけど」
太ったからダイエットをしていたんじゃなかったのか。
そこにメロンソーダは地雷だろう。炭酸飲料ってめちゃめちゃ砂糖入ってるし。
冷たい+舌を痺れさせる炭酸は、甘さを感じにくい要素のダブルパンチだから、余計に多く糖分を入れないと甘く感じないのだから。
が、それを言うのは野暮だし、生憎ツッコミを入れる気力もない。
「俺のは何でも良いよ」
「そ、わかった」
乃花は頷いて、ドリンクバーの方に消えていく。
待っている間、俺はぼんやりとガラス窓の向こうを眺めていた。
大通りに面して取り付けられているガラス窓からは、行き交う車の群れと反対側の路側帯や建物が見える。
自然と亜利沙の姿を探してしまう辺り、相当心が参っているらしい。
と、
「お待たせー」
乃花が両手にグラスを持って戻ってきた。
片方は、シュワシュワ言っているケミカルな緑色のドリンク。
そしてもう片方は――え、これ何色? 薄紫……だからコーラか? いや、だったら炭酸が入っているだろうから違う。
コーヒーかとも思ったが、あんな毒々しい色はしていない。
当然、緑色の方はメロンソーダだからテーブルを挟んで向かいに座る乃花の側に置かれ、謎ドリンクは自然と俺に差し出された。
「えっと……ごめん、何コレ」
「ん? 乃花スペシャルブレンド」
ごめん言ってることが全然わかんない。
ストローでちゅうちゅうメロンソーダを吸う乃花に、俺はもう一度「何これ」と聞き返す。
「私選りすぐりの数種類のドリンクを特別な配合で注いだ、究極の一杯だよ」
「え、それってつまり、ソフトドリンクを片っ端から混ぜちゃったってこと?」
「うん」
なんてこった。
それってつまり――
「ゲテモノ?」
「ぶっ!」
乃花はメロンソーダを危うく吹き出しかけた。
「違うって! ほら、落ち込んでるみたいだったからさ、私が長年研究してきたベストマッチブレンドを飲んで貰って、元気になって欲しかったの!」
一気にまくし立てて、自分が言っていることが恥ずかしくなったのか「そ、それだけだから」と急に小声になる乃花。
気遣いは嬉しいが、やってることは完全に小学生の悪戯《いたずら》だ。
俺は半ば呆れつつ、一口ブレンドを飲んでみる。
「っ! なにこれうまっ」
「でしょっ!」
乃花がとたんに目を輝かせる。
待って、本当に美味しいんだけど。
「オレンジジュース、グレープジュース、アップルジュースなどの果実系を特別な配合で混ぜ合わせて、最後にミルクをちょい足ししてマイルドにするのがみそなの」
ここぞとばかりに自慢する乃花。
なるほど。フルーツ系のフレーバーでまとめて、ミルクのコクでとがりを無くすことで、フルーツ牛乳みたいなまろやかさが生まれている。
フルーティーな香りと甘みと酸味にほんのりとしたミルクのコクが混ざり合い、極上のハーモニーを奏でている。
「凄いな、見た目完全にゲテモノなのに」
「うっ……まあ見た目は、ね」
乃花は冷や汗をかきつつ、苦笑いをするのだった。
――。
「ありがとう、美味しかったよ」
俺は空になったコップを置いた。
本当は、このグロテスクな見た目のドリンクを残すと店員さんに迷惑がかかりそうだから、不味かったとしても飲み干す予定だったが――そうはならなかったので助かった。
「そう、ならはよかった」
乃花は微笑みつつ、応じる。
少し落ち着いたのを悟ったのだろう。乃花は、半分ほど飲んだメロンソーダをテーブルの端に移動させ、俺を真正面から見据えた。
「――聞かせてくれる? 南あさりさんと、何があったか」
その表情は、本当に優しくて。同時に、どこか寂しげでもあり。
俺は、自然と頷いていた。
かくして、俺は乃花にこれまでのことを全部話した。
南あさりが、俺の妹だったことも。
どうして、姿を変えて俺に近づいてきたのかも。
そして――俺は自分の思いと選択を無理矢理押しつけて、亜利沙を失望させてしまったことも。
「えと、じゃあドリンクバーと……かっくんはどうする?」
「じゃあそれで」
「ドリンクバー二つでお願いします」
「かしこまりました。お飲み物はあちらにあるグラスをとって、セルフで入れていただく形となります」
注文を終えた乃花と俺へ一礼して、ウェイトレスが去って行く。
時刻は午後九時間近。
流石にこの時間ともなるとほとんどの人は夕飯を食べ終えているからか、店内は半分以上が空席となっていた。
「飲み物持って来よう」
「あ、かっくんは座ってて! 私が持ってくるから!」
乃花は慌ててそう告げると、立ち上がる。
「かっくんは何にする? 私はメロンソーダにするけど」
太ったからダイエットをしていたんじゃなかったのか。
そこにメロンソーダは地雷だろう。炭酸飲料ってめちゃめちゃ砂糖入ってるし。
冷たい+舌を痺れさせる炭酸は、甘さを感じにくい要素のダブルパンチだから、余計に多く糖分を入れないと甘く感じないのだから。
が、それを言うのは野暮だし、生憎ツッコミを入れる気力もない。
「俺のは何でも良いよ」
「そ、わかった」
乃花は頷いて、ドリンクバーの方に消えていく。
待っている間、俺はぼんやりとガラス窓の向こうを眺めていた。
大通りに面して取り付けられているガラス窓からは、行き交う車の群れと反対側の路側帯や建物が見える。
自然と亜利沙の姿を探してしまう辺り、相当心が参っているらしい。
と、
「お待たせー」
乃花が両手にグラスを持って戻ってきた。
片方は、シュワシュワ言っているケミカルな緑色のドリンク。
そしてもう片方は――え、これ何色? 薄紫……だからコーラか? いや、だったら炭酸が入っているだろうから違う。
コーヒーかとも思ったが、あんな毒々しい色はしていない。
当然、緑色の方はメロンソーダだからテーブルを挟んで向かいに座る乃花の側に置かれ、謎ドリンクは自然と俺に差し出された。
「えっと……ごめん、何コレ」
「ん? 乃花スペシャルブレンド」
ごめん言ってることが全然わかんない。
ストローでちゅうちゅうメロンソーダを吸う乃花に、俺はもう一度「何これ」と聞き返す。
「私選りすぐりの数種類のドリンクを特別な配合で注いだ、究極の一杯だよ」
「え、それってつまり、ソフトドリンクを片っ端から混ぜちゃったってこと?」
「うん」
なんてこった。
それってつまり――
「ゲテモノ?」
「ぶっ!」
乃花はメロンソーダを危うく吹き出しかけた。
「違うって! ほら、落ち込んでるみたいだったからさ、私が長年研究してきたベストマッチブレンドを飲んで貰って、元気になって欲しかったの!」
一気にまくし立てて、自分が言っていることが恥ずかしくなったのか「そ、それだけだから」と急に小声になる乃花。
気遣いは嬉しいが、やってることは完全に小学生の悪戯《いたずら》だ。
俺は半ば呆れつつ、一口ブレンドを飲んでみる。
「っ! なにこれうまっ」
「でしょっ!」
乃花がとたんに目を輝かせる。
待って、本当に美味しいんだけど。
「オレンジジュース、グレープジュース、アップルジュースなどの果実系を特別な配合で混ぜ合わせて、最後にミルクをちょい足ししてマイルドにするのがみそなの」
ここぞとばかりに自慢する乃花。
なるほど。フルーツ系のフレーバーでまとめて、ミルクのコクでとがりを無くすことで、フルーツ牛乳みたいなまろやかさが生まれている。
フルーティーな香りと甘みと酸味にほんのりとしたミルクのコクが混ざり合い、極上のハーモニーを奏でている。
「凄いな、見た目完全にゲテモノなのに」
「うっ……まあ見た目は、ね」
乃花は冷や汗をかきつつ、苦笑いをするのだった。
――。
「ありがとう、美味しかったよ」
俺は空になったコップを置いた。
本当は、このグロテスクな見た目のドリンクを残すと店員さんに迷惑がかかりそうだから、不味かったとしても飲み干す予定だったが――そうはならなかったので助かった。
「そう、ならはよかった」
乃花は微笑みつつ、応じる。
少し落ち着いたのを悟ったのだろう。乃花は、半分ほど飲んだメロンソーダをテーブルの端に移動させ、俺を真正面から見据えた。
「――聞かせてくれる? 南あさりさんと、何があったか」
その表情は、本当に優しくて。同時に、どこか寂しげでもあり。
俺は、自然と頷いていた。
かくして、俺は乃花にこれまでのことを全部話した。
南あさりが、俺の妹だったことも。
どうして、姿を変えて俺に近づいてきたのかも。
そして――俺は自分の思いと選択を無理矢理押しつけて、亜利沙を失望させてしまったことも。
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