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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第86話 テーブルを囲って
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本来は、放課後にどこか喫茶店でやる予定だった。
が、参加者の潮江かやがバイトのシフトを入れていることと、真美さんの家庭の都合で参加できそうにないから、昼休みに行われることになった。
さて。
昨日言ったことをもう一度言うが、中高生の胃袋を舐めてはいけない。
つまり、何が言いたいかと言うと――安くて気軽に利用できることがモットーの学食(食堂)は、席の争奪戦が行われる場なのである。
昼休みに突入して少しでももたついていたら、席を確保できなくなると思っておいた方が良い。
まあ、要するに。
俺と寝坊した英次は、完璧に出遅れていたわけで――
「――めっちゃ混んでるな」
「うん……昼の食堂、ちょっと舐めてた」
食堂に着いた俺達は、戦々恐々としつつ食堂内を見まわす。
既に、腹を空かした生徒達で満席状態。
これは――しくじっただろうか?
「仕方ない。また後日に振り替えて――ん?」
言いかけた俺は、何やら輝いている(ように見える)一角に目が留まる。
他の席は満席なのに、その丸テーブルだけは踏み入れてはならない聖域《サンクチュアリ》かのごとく人が寄ってきていない。
「な、なんだあの眩しい空間!」
英次も同じ事を思ったらしい。
果たして、何人も寄せ付けない5人がけの丸テーブルの一席に座っていたのは――学校のアイドルこと高嶺乃花だった。
「あ、お~い! 席取っといたよ~!」
乃花は、俺達に気付くとパッと笑顔を浮かべ、可愛らしく手を振ってくる。
その瞬間、溢れ出る光のオーラ。
席、取っといた……?
俺は、その言葉に少しだけ疑問を抱く。
だって、さっきからちらほら話し声が聞こえてきたのだ。
「席空いてないな……高嶺さんのとこ以外」
「お、おい。お前、「お隣いいですか?」って言いに行けよ!」
「はぁ!? 無理に決まってんだろ! ハードル高すぎだって!」
「お前前、高嶺さんのこと好きだって言ってたじゃねぇかよ!」
「バカかお前! この学校で高嶺さんが嫌いな男子がいると思ってんのか!(迫真)」
「それはそうだな」
――また一方では。
「あ、あそこしかもう空いてる席がないじゃない。でも……」
「た、高嶺様のお隣に座るなど恐れ多い!」
「ち、近づこうとすると足が震える……なんて神々しいオーラなの!?」
「流石はカーストトップの御方です!」
――なんか、席を取っておいているかどうか以前に、神々しすぎて乃花に近づくことができていないという方が正しいみたいだ。
ていうか、最早崇拝みたいになってないか? 恐ろしいな、乃花。
そんな風に思いつつ、俺と英次は顔を見合わせて、乃花が取っていた席(本来は少し違いそうだが)に座ったのだった。
――その後、1人席の見張りを残して食堂で各々食べたいものを注文し、帰ってくるまでの間に、やや不機嫌そうな潮江さんと、松葉杖をついた真美さんが食堂へやって来た。
かくして、5人全員が揃い、俺のプロ冒険者初仕事祝いと真美さん快気祝いの席は幕を開けたのである。
――。
「こほん。というわけで、ささやかではありますが――いろいろおめでとう! 乾杯!」
いや端折りすぎでしょ!?
ざっくりしすぎだよ乃花!?
グラス片手に乾杯の音頭を取った乃花の暴挙に驚きつつ、俺達はなんとかそれに乗っかり、「「「「乾杯」」」」と言ってグラスをぶつけ合う。
「いや~! やっぱ味の濃いご飯は美味しいよね! 病院食はいろいろ味薄くて食欲湧かなくってさ~、大変だったよ~!」
そう言いながら、満面の笑みでミックスフライ定食のエビフライにがっつく真美さん。
確かに、入院前より少し痩せているような感じはする。
しかし――
「そんな一気に食べて大丈夫なの?」
乃花が、心配そうに真美の顔を覗き込む。
俺も同じ事を思っていた。
病院食に慣れた胃で、いきなり揚げ物定食(しかもご飯大盛り)を食べるのは、ちょっと体に負担をかけすぎているのではないだろうか?
そんな風に思っていたが、真美さんは、白身魚のフライを頬張りながら答えた。
「大丈夫大丈夫~。退院自体は先週にしていたし、ここ一週間は家で普通のご飯を食べてたから」
「そっか。ならよかっ――」
「まあ、快気祝い初日に調子乗って回転寿司行って食べまくったら、胃が受け付けなくて見事リバースしちゃったけどね。にゃははははは――」
「「「「全然よくないじゃん」」」」
俺達4人の声がハモった。
退院初日に何やってんだ、この人は。
まあ、長らくお預けだった美味しいものをたらふく食べたいという気持ちはわからなくもないが。
「それで? あなたの方はどうだったの?」
大盛りご飯を水で流し込んだ真美さんが、不意に俺に話題を振ってきた。
「乃花から聞いたよ? 私が戦線離脱してる間に、いろいろあったみたいじゃん」
確かに、真美さんが入院している間にいろいろあった。
君塚と潮江さんの一件に、プロのダンジョン冒険者として活動する決意を固めたこと。
改めて、濃すぎる日常を送っているな、俺。
「そうだぜ? 昨日プロ冒険者としての初仕事があったんだろ? どんな感じだったんだ? やっぱ可愛い子とかいたk――」
興奮気味にそう問いかけてきた英次の声が、途中で不自然に途切れる。
見れば、サラダをもぐもぐと食べながら、隣に座っている潮江さんが無言で英次の脇腹に肘を突き込んでいた。
「ぐっ……は、腹が」
脇腹を悶えて悶絶する英次を見て苦笑しつつ、俺は答えた。
「まあ、別に大したことはないかな。広告に使う用の撮影をしたことと、その後ダンチューバーの人達も合わせて食事に行ったくらいで」
「ダンチューバーも?」
目をしばたたかせる乃花に、俺は頷いて返す。
「ちなみに、誰か有名な人とかいたの?」
何気ない潮江さんの質問に、俺は少しつかえつつ答えた。
「うん……まあ。南あさりさん、とか」
「「「「…………」」」」
「あれ? どうしたの?」
なぜか全員無言になってしまったことに、俺は首を傾げ――次の瞬間。
「「「「うぇえええええええええええっ!?」」」」
4人は同時に、素っ頓狂な叫び声を上げていた。
が、参加者の潮江かやがバイトのシフトを入れていることと、真美さんの家庭の都合で参加できそうにないから、昼休みに行われることになった。
さて。
昨日言ったことをもう一度言うが、中高生の胃袋を舐めてはいけない。
つまり、何が言いたいかと言うと――安くて気軽に利用できることがモットーの学食(食堂)は、席の争奪戦が行われる場なのである。
昼休みに突入して少しでももたついていたら、席を確保できなくなると思っておいた方が良い。
まあ、要するに。
俺と寝坊した英次は、完璧に出遅れていたわけで――
「――めっちゃ混んでるな」
「うん……昼の食堂、ちょっと舐めてた」
食堂に着いた俺達は、戦々恐々としつつ食堂内を見まわす。
既に、腹を空かした生徒達で満席状態。
これは――しくじっただろうか?
「仕方ない。また後日に振り替えて――ん?」
言いかけた俺は、何やら輝いている(ように見える)一角に目が留まる。
他の席は満席なのに、その丸テーブルだけは踏み入れてはならない聖域《サンクチュアリ》かのごとく人が寄ってきていない。
「な、なんだあの眩しい空間!」
英次も同じ事を思ったらしい。
果たして、何人も寄せ付けない5人がけの丸テーブルの一席に座っていたのは――学校のアイドルこと高嶺乃花だった。
「あ、お~い! 席取っといたよ~!」
乃花は、俺達に気付くとパッと笑顔を浮かべ、可愛らしく手を振ってくる。
その瞬間、溢れ出る光のオーラ。
席、取っといた……?
俺は、その言葉に少しだけ疑問を抱く。
だって、さっきからちらほら話し声が聞こえてきたのだ。
「席空いてないな……高嶺さんのとこ以外」
「お、おい。お前、「お隣いいですか?」って言いに行けよ!」
「はぁ!? 無理に決まってんだろ! ハードル高すぎだって!」
「お前前、高嶺さんのこと好きだって言ってたじゃねぇかよ!」
「バカかお前! この学校で高嶺さんが嫌いな男子がいると思ってんのか!(迫真)」
「それはそうだな」
――また一方では。
「あ、あそこしかもう空いてる席がないじゃない。でも……」
「た、高嶺様のお隣に座るなど恐れ多い!」
「ち、近づこうとすると足が震える……なんて神々しいオーラなの!?」
「流石はカーストトップの御方です!」
――なんか、席を取っておいているかどうか以前に、神々しすぎて乃花に近づくことができていないという方が正しいみたいだ。
ていうか、最早崇拝みたいになってないか? 恐ろしいな、乃花。
そんな風に思いつつ、俺と英次は顔を見合わせて、乃花が取っていた席(本来は少し違いそうだが)に座ったのだった。
――その後、1人席の見張りを残して食堂で各々食べたいものを注文し、帰ってくるまでの間に、やや不機嫌そうな潮江さんと、松葉杖をついた真美さんが食堂へやって来た。
かくして、5人全員が揃い、俺のプロ冒険者初仕事祝いと真美さん快気祝いの席は幕を開けたのである。
――。
「こほん。というわけで、ささやかではありますが――いろいろおめでとう! 乾杯!」
いや端折りすぎでしょ!?
ざっくりしすぎだよ乃花!?
グラス片手に乾杯の音頭を取った乃花の暴挙に驚きつつ、俺達はなんとかそれに乗っかり、「「「「乾杯」」」」と言ってグラスをぶつけ合う。
「いや~! やっぱ味の濃いご飯は美味しいよね! 病院食はいろいろ味薄くて食欲湧かなくってさ~、大変だったよ~!」
そう言いながら、満面の笑みでミックスフライ定食のエビフライにがっつく真美さん。
確かに、入院前より少し痩せているような感じはする。
しかし――
「そんな一気に食べて大丈夫なの?」
乃花が、心配そうに真美の顔を覗き込む。
俺も同じ事を思っていた。
病院食に慣れた胃で、いきなり揚げ物定食(しかもご飯大盛り)を食べるのは、ちょっと体に負担をかけすぎているのではないだろうか?
そんな風に思っていたが、真美さんは、白身魚のフライを頬張りながら答えた。
「大丈夫大丈夫~。退院自体は先週にしていたし、ここ一週間は家で普通のご飯を食べてたから」
「そっか。ならよかっ――」
「まあ、快気祝い初日に調子乗って回転寿司行って食べまくったら、胃が受け付けなくて見事リバースしちゃったけどね。にゃははははは――」
「「「「全然よくないじゃん」」」」
俺達4人の声がハモった。
退院初日に何やってんだ、この人は。
まあ、長らくお預けだった美味しいものをたらふく食べたいという気持ちはわからなくもないが。
「それで? あなたの方はどうだったの?」
大盛りご飯を水で流し込んだ真美さんが、不意に俺に話題を振ってきた。
「乃花から聞いたよ? 私が戦線離脱してる間に、いろいろあったみたいじゃん」
確かに、真美さんが入院している間にいろいろあった。
君塚と潮江さんの一件に、プロのダンジョン冒険者として活動する決意を固めたこと。
改めて、濃すぎる日常を送っているな、俺。
「そうだぜ? 昨日プロ冒険者としての初仕事があったんだろ? どんな感じだったんだ? やっぱ可愛い子とかいたk――」
興奮気味にそう問いかけてきた英次の声が、途中で不自然に途切れる。
見れば、サラダをもぐもぐと食べながら、隣に座っている潮江さんが無言で英次の脇腹に肘を突き込んでいた。
「ぐっ……は、腹が」
脇腹を悶えて悶絶する英次を見て苦笑しつつ、俺は答えた。
「まあ、別に大したことはないかな。広告に使う用の撮影をしたことと、その後ダンチューバーの人達も合わせて食事に行ったくらいで」
「ダンチューバーも?」
目をしばたたかせる乃花に、俺は頷いて返す。
「ちなみに、誰か有名な人とかいたの?」
何気ない潮江さんの質問に、俺は少しつかえつつ答えた。
「うん……まあ。南あさりさん、とか」
「「「「…………」」」」
「あれ? どうしたの?」
なぜか全員無言になってしまったことに、俺は首を傾げ――次の瞬間。
「「「「うぇえええええええええええっ!?」」」」
4人は同時に、素っ頓狂な叫び声を上げていた。
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