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第三章 《ハンティング祭》の騒乱編

第41話 君塚賀谷斗からの刺客

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 そんなこんなで、俺もまたダンジョンの奥へと足を踏み入れた。
 ここで手を抜くなんてことは、当然しない。
 しかし――それがイコール弓矢を惜しみなく使う、ということにはならなかった。

 情けない話が、まだ俺自身が例の弓使いアーチャーであることをバラすかいなか、迷っている段階だった。
 無論、俺が明かさないことで不利益を被っている人がいるのだし、近いうちには明かさなくてはならないかもしれない。だが、大事なのは潮江さん=例の弓使いという勘違いを正すことであって、必ずしも俺の正体を明かす必要はないんじゃないかと思う。
 (もっとも、、恥も外聞もすぐに捨てて、誰の前だろうと正体を明かすだろうが。)

 そして何より、今回の勝負――モンスターを狩るだけが、勝負の決め手にはならない。
 今回の《ハンティング祭》は獲得ポイントで競う勝負。
 つまり、プレイヤー同士の直接対決というわけでもなければ、純粋な戦闘力がものを言うモンスター狩り勝負でもない。
 ポイントが付く対象は、鉱物や植物にも及ぶのだ。

 対人勝負や対モンスター勝負に特化した場合、“回復師ヒーラー”や“盾使いシールダー”が不利になってしまうという理由からかもしれない。
 まあ、チーミング(※個人単位の勝負なのに、誰かと協力すること)をマナー違反に留め、ルール違反としていないことから鑑みて、公平も何もないのだが。

 ――とはいえ、ダンジョン全体に監視カメラがついているわけでもないし、全員が全員不正入手したポイントかどうかをチェックするのは無理だろうから、これに関しては仕方が無い。
 イベント企画者側からしても、この辺りは割り切るほかなかったのだろう。

「ただ、俺としては対人勝負の方が助かったんだけどな……」

 俺は1人、7階層の奥へと進みながらそう愚痴る。
 そうしながら、自然と右手は右肩に掛けた黒い袋を掴んでいた。
 袋についているチャックを下ろすと、中から現れたのは数本の矢と、いつも愛用している弓だ。

 ――今回は、言い訳を許さないよう、相手の土俵で戦って完膚なきまでに勝利するためにこのポイント獲り勝負で戦うことになった。
 ただ、俺としては若干不満だ。
 ああいう身の程を知らない輩は、直接屈辱と恐怖を与えてやりたかったんだけど。

 柄にもなく黒い感情を滲ませる。
 勘違いしないで欲しいが、俺は妹や寺島支部長が言うような、打算抜きで誰でも助けるヒーローではない。
 大切な人が困っているとき、誰にも見つけられず泣いている人がいるとき、助けたいと思う誰かを放っておけないから迷いなく災禍に挑んでいるだけだ。

 意図して大切な人を傷つけるようなクズを笑顔で許せるほど、俺はお人好しじゃない。

「まあ、アイツが何も企んでいるとは思えない。俺だけだったらまだしも、乃花や他の誰かを虐げるようなことがあれば――」

 俺は、手にした弓矢を強く握りしめる。
 決意を固めつつ、俺は7階層を進んだ。

 7階層は、危険なモンスターの少ない安全な区域だ。
 青黒く狭い洞窟内の壁や天井には、水晶に似た功績が無数に映えていて、淡い光を放っている。
 もっとも、この辺りの鉱石は雑草レベルの頻度で見つかるため、ポイントの対象外である。
 
 モンスターも少なく、鉱石の価値も皆無。
 必然的に、この辺りを攻略する者は少なくなるが――だからこそ、穴場だと言えるのだ。

「探知スキル、起動」

 俺は、乃花を助ける際にも使用した探知スキルを起動し、7階層全体に張り巡らせる。
 実はこの探知スキル、各ジョブにデフォルトで備わっているもので、その精度や効果範囲は、ランクが上がるのに比例して上昇するのだ。
 そして、俺はSSランク。

 探知できる範囲も精度も、反則級であった。
 どれくらいかと言うと、水平方向に絞れば小規模のダンジョンの1フロア全ての情報を網羅できるほど。
 しかも、どれくらいのランクのモンスターがどこにいて、どんな種類の鉱物がどこに映えているかまで、正確に。
 弓矢だけが俺の全てではない。それを使って鍛えてきたスキルもまた、俺の能力なのだ。

 ふむ。奥まで言った先の崖の向こうに、一つ5000ポイントの稀少鉱物がびっしり生えているみたいだ。
 俺は一瞬でその情報を読み取ると、一番奥へと歩みを進めた。

 ――一番奥へ進むと、そこから先は案の定崖になっていた。
 その先端に立ち、俺は数メートル離れた場所に垂直に立つ壁を見据える。
 ゴツゴツとした壁面に、七色に輝く稀少鉱物がびっしりと生えていた。
 これだけの数が残っているのは、十中八九、採取するのが大変だからだろう。慎重に向こうへ渡って採っても、足を滑らせれば谷底へ真っ逆さまだ。
 そのまま、落下ダメージでリタイアする形になってしまう。

「ま、俺には関係ないんだけどね」

 俺は、腰に吊していたロープと滑車突きの矢を弓につがえる。
 乃花達を救ったあと、ダンジョンから脱出するときにエレベーターとして使用した例のアレだ。
 本来は、前回のように移動するために使うのだが――便利道具は使い方次第。
 炭はバーベキューで使えるだけでなく、臭い消しにも使えるのと一緒である。
 
 放った矢は真っ直ぐに飛び、鉱石に突き刺さった。
 さながら、ハープンガンといったところか。
 あとは滑車を回して手前に引きよせれば、釣りの容量で鉱石ゲットである。

 ――そんな感じで、15分ほどかけて袋いっぱいの鉱石をゲットしたのだった。

「こんなもんかな」

 俺は重たい袋を背負いつつ、来た道を戻る。
 が――思った通り、この勝負。一筋縄ではいかなかったらしい。

「止まれよ」

 7階層の開けた場所に出た瞬間、そう声をかけられた。
 見やれば、近くの岩陰から2人の少年が顔を出して俺を睨んでいる。
 本人達は待ち伏せしていたつもりなのだろうが――フロア全体を探知していた俺には、とっくにお見通しであった。
 そして、その2人が、他クラスの生徒だから名前こそ知らないものの、お見通しであった。
 まあ、それを伝えるつもりはないのだが。

「何の用?」

 大方予想はついているが、あえて問いかける。
 すると、2人の男子生徒は顔を見合わせて、ニヤリと嗤った。

「決まってんだろ?」
「お前の取り分を、奪いに来たんだよ!」
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