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第22話 始動。高嶺乃花、救出作戦

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 4月の夜の冷たさを肌で感じながら、俺は学校へとひた走る。
 やがて学校へ着いた俺は、正門を潜ってすぐのダンジョン入り口までやって来た。
 ここまで来て私服だということに気付いたのだが、戻っている余裕はない。もともと、これからダンジョンに突っ込もうとしているのだ。

 先生から三時間くらい絞られることは、元々織り込み済みである。
 ただ、それ以前に一つ問題があった。

「うわー、先生が見張ってるよ」

 俺は、物陰に身を潜めながら、小さく嘆息した。
 ダンジョンの入り口の目の前には、2、3人の教師が控えている。
 おそらく、ダンジョンに入ろうとする生徒などを止めるためや、ダンジョンから逃げてきた生徒の生存確認をするためだろう。

 視線を滑らせると、黒い防護服のようなダボダボの衣装に身を包んだ人間が、十人ほど忙しなく作業をしている。
 状況から見て、これからダンジョン内に取り残された生徒達の救出を行う部隊だろう。
 見慣れない服装をしているから、ダンジョン運営委員会の関係者だと思われる。

 救出のための準備は進んでいるようだが、はっきり言って遅い。緊急事態に際し、情報が錯綜しているのかもしれない。
 このペースだと突入まで何分かかるかわかったもんじゃない。
 一刻も早く、救出に向かわなければ、手遅れになるかもしれないのだ。

「しかし、どうあのバリケードを越えるかな」

 そのまま行っても、確実に止められる。
 ここは――一か八か賭に出るしかない!
 俺は覚悟を決め、愛用しているゴーグルを取り出し、肩に弓を掛けた。

「――すいません」

 見張りの教師の下まで歩いて行った俺は、声をかける。

「はい。なんでしょ――」

 振り返った若い女性教師の発言がとまる。
俺の方を見て目を大きく見開き、酸素を求める金魚のように口をパクパクさせていた。

「え、あ……え? あの……うそ!?」
「どうしました、さやか先生。何かあった……って、えぇ!?」

 奥にいたガタイのいい教師――磨渋ましぶ先生(ちなみに、1年の学年主任で、マッシブ先生と呼ばれている)も、こちらにやって来て、同じように驚愕していた。
 まあ、無理もない。今の俺は、例のバズりまくった“弓使いアーチャー”モードなのだから。

「えと……今話題になっている、あの“弓使いアーチャー”さん、ですよね?」
「どうしてこんなところに?」

 2人揃って詰め寄ってくる教師に、俺は告げる。

「ダンジョン運営委員会から特例を受けてやって来ました。今、突入しようとしている方々の代わりに、ダンジョンに入って取り残された生徒達を救出せよとのことですので」

 もちろん、清々しいくらいのハッタリである。
 黒ずくめの突入部隊も、「そんな命令変更あったか?」と小声で話し合っているのが聞こえた。
 ここは、バレる前に押し切ろう。

 幸いにも、俺の強さは全国配信されたことでこの場にいるほとんどの人間が周知している。
 ダンジョン運営委員会から特例を受けていると言っても、誰しもあまり疑わないだろう。

「とにかく、通してください。事態は一刻を争うんでしょう?」
「は、はい。基本的にはほぼ全ての生徒が戻ってきていますが、15~17階層を攻略中の生徒が、帰還できていない状況です。手遅れになる前に、どうかよろしくお願いします」

 さやか先生の言葉に会わせて、マッシブ先生も頭を下げた。

「わかりました!」

 俺は勢いよく返事をして、ダンジョンの中に飛び込んだ。
 第1階層にある転送陣ワープポータルに飛び乗った。

 生徒達が取り残されているのは、15、16、17階層の三つ。
 だが、それらの階層は転送陣ワープポータルが消失していて、直接飛ぶことはできない。
 故に俺は、14階層に飛んだ。

――。

 14階層に飛んだ瞬間、俺は索敵のスキルを起動する。
 ……ふむ。先生からの報告通り、14階層を攻略中の人間の反応はない。全員避難できていると見て良さそうだ。

 それにしても――

「敵のランクが、全体的に上がってるな……」

 俺は、思わずそう呟いた。
 普通、この階層はランクC~Dのモンスターしかいないのだが、ランクがBに相当するものもちらほら見受けられる。
 ダンジョン内全体に異常が起きているようだった。

 この程度敵ではないのだが、それでもいちいち相手をしながら突き進むのは、タイムロスになる。ここは、一気に下へ進むとしよう。
 俺は索敵スキルで直下に人がいないことと、崩落する危険が無いことをしっかり調べた上で、肩に掛けた弓を手に持った。

 弦を強く引き絞ると同時に、光の魔法スキルで起動した矢が形成される。
 そのまま地面へ向けて、光の矢を解き放った。

 ズゥウウン! という低い音とともに足下の岩盤が崩れ、俺の身体は下の階層に吸い込まれていった。
 ここからは――時間との勝負だ。
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