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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第38話 カイムと王女様
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《カイム視点》
――時間を、《友好舞踏会》が始まる少し前まで遡る。
どうしてフロルが俺の姿になっていたのか?
俺とレーネ王女がすり替わっていたのか――その種明かしをしようと思う。
「これからあなたに大事な話をします。どうか、聞いてくださいませんか?」
レーネ王女のいる控え室にて。
彼女の口元を押さえながら、俺はそう告げた。
半ばパニックに陥っている彼女だったが――こちらに口を押さえる以上のことをする気がないのだと悟ると、徐々に身体の力が抜けていくのがわかった。
もう、解放したところで暴れることもないだろう。
「――お話を聞いてくれる気になりましたか?」
俺は、ゆっくりと拘束を解く。
「……はい」
レーネ王女は、ゆっくりと頷いた。
俺は、外の衛兵に動きが無いことを確認すると、「落ち着いて聞いてください」と前置きをしてから語り出した。
「今回の《友好舞踏会》において、公国側はある計画を企てています。それはこの場で騒乱を起こし、王国と公国の間で戦争を起こす引き金を作ること。そして――計画における最重要課題が、ブルガス王国の第一王女であるあなたを暗殺することです」
「っ!」
レーネ王女は、驚愕に目を見開く。
「それは……本当なのですか?」
「はい。残念ながら確定情報です」
「そう……ですか」
レーネ王女は、両手を自身の胸元に添える。
10代前半の少女とはいえ、未来の王国を背負う人間だという自覚があるからだろうか。
不思議と、大声を出して泣きわめいたりはしなかった。
ただ、胸元で結んだ小さな手が小刻みに震えているのを、俺が見逃すはずもない。
「……ちょっと、失礼」
俺は、できるだけ怯えさせないように、優しく彼女の手を取る。
それから、細い手首に指を這わせ、彼女の中に流れる魔力の流動を感じ取った。
魔力は、血液と同じように体内を絶えず循環している。
運動をすると心拍数が上がって血流が増加するように、精神が不安定になれば魔力の流れも滞る。
彼女の魔力の流れも、相当乱れているようだ。
俺は、彼女の魔力の流れに自身の魔力を作用させ、乱れた魔力の流れを整えていく。
「……凄い。指を触れただけなのに、心がすっと楽になって……」
「心を落ち着かせる魔法をかけました。これで少しは精神も安らぐかと」
彼女の手の震えが止まったのを確認した俺は、そっと手を離した。
「心を落ち着かせる魔法ですか?」
「ええ」
「でも、この空間で魔法の使用はできないはず……一体どうやって」
「目に見える魔法だけが、魔法の全てではないですから」
俺は、テキトーにそう言ってはぐらかした。
実際は魔法を使っていない。俺のテクニックで魔力の流れを操っただけだ。
いわゆる、マッサージをしたような感じだ。
「あなたは一体、誰なんですか?」
「俺はカイムです。カイム=ローウェン」
現状、マスクをして目の色も変えているから、厳密にはカイムとは別人という設定。
ただ――これはあくまでレイズ達を欺くための変装。
故に、王女にまで正体を隠す必要は無い。
むしろ、ちゃんと名乗った方がいいだろう。
本作戦において、俺が彼女の信用を得るということは大事だからだ。
「そうですか。正直、あなたが良い人なのか悪い人なのか、私には判断がつきません。でも……」
レーネ王女は、俺の手を握ってくる。
俺を見上げる瞳には、強い意志が宿っていた。
「このままあなたを追い返しても、パーティーの最中に殺されるだけだというのなら、あなたを信じる方に賭けてみます」
「いい判断です。王女殿下」
俺は、王女の手を優しく握り返した。
「それで、これから私はどうすればいいんです?」
「俺の仲間と一緒に、今から安全な場所へ逃げて貰います」
「今から?」
「はい」
「ま、待ってください。それでは、私が会場に赴かないことになります。……まさか、《友好舞踏会》そのものを中止させるおつもりですか?」
「いや、予定通り《友好舞踏会》は開催してもらいます。子細は言えませんが、こちらとしてもその方が都合がいいので」
今回の作戦は、王国と公国が戦争にならずとも睨み合うことに意味がある。
《友好舞踏会》が開催される前に、予め《黒の皚鳥》の計画を暴き、ツォーンが暗殺を実行する前に取り押さえても意味が無い。
今回の《友好舞踏会》の名目は、両国が手を取り合うことだ。
そんな中で、実際に行動を起こしていない状態のツォーン達を糾弾したところで、知らぬ存ぜぬを貫き通されたら、手のうちようがない。
下手をしたら、王国と公国の親和を示すパーティーを穢したとして、王国と公国の両方を敵に回しかねないのだ。
それに――ツォーンが独自の計画を築いてくれたお陰で、別の理由もできた。
「とにかく、《友好舞踏会》は予定通り進めていただきます」
「でも、私の抜けた席は……」
「その点は問題ありません。こちらへ来ていただけますか?」
俺は、王女を引き連れ魔法の起動が制限されない物置まで移動する。
それから、二つのスキルを起動した。
「闇属性魔法、《変声》と光属性魔法、《幻影》を起動」
刹那、フロルから貰った耳飾りがパッと光る。
光属性の適性を持たない俺は、光属性魔法が使えない。だから、フロルの持っている《幻影》――光を屈折させて対象の見た目を変えたり見えなくしたりすることができるスキルを、耳飾りにエンチャントしてもらったのだ。
それと、《状態異常》で作った《変声》のスキルを多重起動することで、俺は一種の別人となることができる。
「ざっと、こんなもんです」
「うそ……」
腰に手を当てる俺を見て、レーネ王女は息を飲む。
それから、呆けたように呟いた。
「カイムさんが……私になっちゃった」
――時間を、《友好舞踏会》が始まる少し前まで遡る。
どうしてフロルが俺の姿になっていたのか?
俺とレーネ王女がすり替わっていたのか――その種明かしをしようと思う。
「これからあなたに大事な話をします。どうか、聞いてくださいませんか?」
レーネ王女のいる控え室にて。
彼女の口元を押さえながら、俺はそう告げた。
半ばパニックに陥っている彼女だったが――こちらに口を押さえる以上のことをする気がないのだと悟ると、徐々に身体の力が抜けていくのがわかった。
もう、解放したところで暴れることもないだろう。
「――お話を聞いてくれる気になりましたか?」
俺は、ゆっくりと拘束を解く。
「……はい」
レーネ王女は、ゆっくりと頷いた。
俺は、外の衛兵に動きが無いことを確認すると、「落ち着いて聞いてください」と前置きをしてから語り出した。
「今回の《友好舞踏会》において、公国側はある計画を企てています。それはこの場で騒乱を起こし、王国と公国の間で戦争を起こす引き金を作ること。そして――計画における最重要課題が、ブルガス王国の第一王女であるあなたを暗殺することです」
「っ!」
レーネ王女は、驚愕に目を見開く。
「それは……本当なのですか?」
「はい。残念ながら確定情報です」
「そう……ですか」
レーネ王女は、両手を自身の胸元に添える。
10代前半の少女とはいえ、未来の王国を背負う人間だという自覚があるからだろうか。
不思議と、大声を出して泣きわめいたりはしなかった。
ただ、胸元で結んだ小さな手が小刻みに震えているのを、俺が見逃すはずもない。
「……ちょっと、失礼」
俺は、できるだけ怯えさせないように、優しく彼女の手を取る。
それから、細い手首に指を這わせ、彼女の中に流れる魔力の流動を感じ取った。
魔力は、血液と同じように体内を絶えず循環している。
運動をすると心拍数が上がって血流が増加するように、精神が不安定になれば魔力の流れも滞る。
彼女の魔力の流れも、相当乱れているようだ。
俺は、彼女の魔力の流れに自身の魔力を作用させ、乱れた魔力の流れを整えていく。
「……凄い。指を触れただけなのに、心がすっと楽になって……」
「心を落ち着かせる魔法をかけました。これで少しは精神も安らぐかと」
彼女の手の震えが止まったのを確認した俺は、そっと手を離した。
「心を落ち着かせる魔法ですか?」
「ええ」
「でも、この空間で魔法の使用はできないはず……一体どうやって」
「目に見える魔法だけが、魔法の全てではないですから」
俺は、テキトーにそう言ってはぐらかした。
実際は魔法を使っていない。俺のテクニックで魔力の流れを操っただけだ。
いわゆる、マッサージをしたような感じだ。
「あなたは一体、誰なんですか?」
「俺はカイムです。カイム=ローウェン」
現状、マスクをして目の色も変えているから、厳密にはカイムとは別人という設定。
ただ――これはあくまでレイズ達を欺くための変装。
故に、王女にまで正体を隠す必要は無い。
むしろ、ちゃんと名乗った方がいいだろう。
本作戦において、俺が彼女の信用を得るということは大事だからだ。
「そうですか。正直、あなたが良い人なのか悪い人なのか、私には判断がつきません。でも……」
レーネ王女は、俺の手を握ってくる。
俺を見上げる瞳には、強い意志が宿っていた。
「このままあなたを追い返しても、パーティーの最中に殺されるだけだというのなら、あなたを信じる方に賭けてみます」
「いい判断です。王女殿下」
俺は、王女の手を優しく握り返した。
「それで、これから私はどうすればいいんです?」
「俺の仲間と一緒に、今から安全な場所へ逃げて貰います」
「今から?」
「はい」
「ま、待ってください。それでは、私が会場に赴かないことになります。……まさか、《友好舞踏会》そのものを中止させるおつもりですか?」
「いや、予定通り《友好舞踏会》は開催してもらいます。子細は言えませんが、こちらとしてもその方が都合がいいので」
今回の作戦は、王国と公国が戦争にならずとも睨み合うことに意味がある。
《友好舞踏会》が開催される前に、予め《黒の皚鳥》の計画を暴き、ツォーンが暗殺を実行する前に取り押さえても意味が無い。
今回の《友好舞踏会》の名目は、両国が手を取り合うことだ。
そんな中で、実際に行動を起こしていない状態のツォーン達を糾弾したところで、知らぬ存ぜぬを貫き通されたら、手のうちようがない。
下手をしたら、王国と公国の親和を示すパーティーを穢したとして、王国と公国の両方を敵に回しかねないのだ。
それに――ツォーンが独自の計画を築いてくれたお陰で、別の理由もできた。
「とにかく、《友好舞踏会》は予定通り進めていただきます」
「でも、私の抜けた席は……」
「その点は問題ありません。こちらへ来ていただけますか?」
俺は、王女を引き連れ魔法の起動が制限されない物置まで移動する。
それから、二つのスキルを起動した。
「闇属性魔法、《変声》と光属性魔法、《幻影》を起動」
刹那、フロルから貰った耳飾りがパッと光る。
光属性の適性を持たない俺は、光属性魔法が使えない。だから、フロルの持っている《幻影》――光を屈折させて対象の見た目を変えたり見えなくしたりすることができるスキルを、耳飾りにエンチャントしてもらったのだ。
それと、《状態異常》で作った《変声》のスキルを多重起動することで、俺は一種の別人となることができる。
「ざっと、こんなもんです」
「うそ……」
腰に手を当てる俺を見て、レーネ王女は息を飲む。
それから、呆けたように呟いた。
「カイムさんが……私になっちゃった」
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