Face of the Surface

悟飯粒

文字の大きさ
上 下
83 / 83
鏡にキスを編

キンキンに禁忌キンキキンキンキン

しおりを挟む
 幻覚を見せる魔力か?そうだとしても幻覚だけでは説明がつかない、確実に俺の太ももにダメージが入っているからだ。あのままだと間違いなく俺は幻覚に殺されていた。俺は視線だけを動かしてグレン達を見てみるが、彼らはスカラさんだけを見ている。どのタイミングで幻覚を見始めたのかわからないが、周りの人間は俺が幻覚を見せられていたことに気がついていない。…………ふんどしを締め直すか。

 「先に言っておくけどグレンちゃん?私はこいつを殺したい理由が大体100個あるのよ。説得できると思ってるの?」
 「俺も50個ほどあるからな、説得できると俺は思ってねーよ。こいつがどうしてもって言うから仕方なく紹介してやってるだけだ。説得するのは俺じゃねー」
 「いやグレンちゃんそんなこと言わないで下さいよー」
 「今ここで俺が殺してもいいんだぞ?」
 「冗談ですグレンさん」

 今のではっきりと分かったがグレンが手助けをしてくれることはないようだ。やはり俺一人でどうにかしないといけないらしい。

 「特に許せないのは、あなたがわざと子供のように振る舞っているところかしら。安全安心に殺されるだけなら、あなたが一人でカースクルセイドを滅ぼしてさっさと殺されるだけでいいじゃない。そこまでの過程やドラマなんて一切必要ない。犠牲を出すことに本当に躊躇いがあるのなら、あなたのいう正義の心とやらがあるのなら、こんな回りくどい方法をとる必要はない。賢いんだからこれぐらい分かるでしょ」

 俺の情報をグレンから聞いていたのだろうか、特に情報の確認をすることなくスカラさんは話を進めていく。

 「やけにグイグイ話を進めるんですね。ちょっとぐらい俺のことを知ろうとしてくれてもいいんじゃないですか?一応ではありますが重要人物の生死に関わろうとしているんですよ」
 「無駄話をするのは今後、建設的な関係を築ける相手にしかしないようにしているの。これから死ぬ相手にすることじゃあない、違うかしら?」
 「ですが重要な会話しかしない間柄というのも、世間一般的には良好な関係性と言えるのではないでしょうかね?無駄話をしてくれてもいいんじゃないでしょうか?」
 「双方性が認められるならね。一方的な嘆願は会話とは言わないの。で、私からの質問の答えは?」

 取りつく島がなーい。頭の回転がえげつなく早いな。さて、こうなってくるとテキトウな嘘は通じないと考えたほうが良さそうだ。喋り方のニュアンスを変えて、真実にメリットを織り交ぜながら話していこうか。

 「スカラさんがおっしゃった方法では完璧な安全を確保することは不可能だと俺は考えています。まず順を追って説明します。前回の殲滅戦。あれは俺が力を封じられていたから始めることができました。そうです、俺が全力で戦えたのならばそもそもカースクルセイドは戦うという選択肢はとらないんです。勿論、俺がこの勇者領全域を攻撃対象にしてカースクルセイドを攻撃することは可能ではありますが、住民達をよけて敵だけを殺せるほど器用なことはできません。被害を出すことなく潜伏したカースクルセイドを壊滅させる手段が俺達には存在しません」

 俺がなぜ殲滅戦においてあの行動をしたのかをスカラさんが理解できていないわけがない。俺のこの回答だって事前に想定済みのはずだ。これは俺の考え方や性格を把握するためのものであることを念頭に置かなければいけない。しかし今から問答無用で殺されることも警戒しなきゃいけないが………最初のあの幻覚でその可能性は低いことは想像できる。問答無用で殺す段階がさっきであり、それをのり切った俺を見定める段階が今。殺す前に脚を刺したのも、もしも殺せなかったとしても脚を傷つけておいて簡単には逃げられないようにするため。この人は先の先まで見据えている。

 「潜伏したカースクルセイドと勇者領の睨み合い。俺がいればその均衡状態を保つことはできますが、俺が常にこの世界にいるとは限らない。現実世界にいる時に力を蓄えたカースクルセイドが勇者領を襲ったらどうなると思います?俺は100%勇者領が負けると思っていました。だから早急に全面戦争が出来るように仕向けるため、俺は自身の力を封じたんです」
 「そしてそれは成功し殲滅戦が始まった。それで本題ね。なぜカースクルセイドだけではなく勇者領の戦力にまで手をかけたのかしら?」
 「大きくわけて理由は二つ。俺は自身の魔力を封じている機械を破壊するボタンを、[俺を殺すボタン]だと偽ってユピテルさんに渡しました。勇者領を騙していたわけです。この時点で俺がカースクルセイドだけを倒し、今の説明を重役にしても信じてもらえると思えませんでした。またそうなると勇者領とカースクルセイドに大きな戦力差がついてカースクルセイドが潜伏する可能性があった。余計な不信感を持ったままの膠着状態はよくないと考えたんです」

 スカラさんの表情は相変わらず変わらない。怖いなー本当。怒った宏美と対峙している時のような気分になる。手汗が止まらないわ。

 「そして二つ目は…………あの状況を逃したら俺がイリナに殺されるタイミングは遥か先になってしまうと思ったからです。あの場で勇者とカースクルセイドを全部殺して、勇者領全域を攻撃すればカースクルセイドの残滅は完了する。そうなればイリナが正義のために俺を殺してくれると…………本気で思っていました」

 魔力制御装置を利用した裏切りによって、勇者とカースクルセイドを殲滅することができるのはあの一度きりしかなかったのだ。あれを逃せば俺が主導的に戦争をコントロールする機会は一生来なくなる。それだけあの殲滅戦は千載一遇のチャンスだったんだ。
 俺の言葉を聞いてスカラさんはそれでも表情を変えない。どうだ、どうなんだ?セーフなのか?

 「あなたは賢いからあえて言わなかったのだけれど、あなたの発言を聞いて少しでも[殺した方がいい]と思ったら、私はあなたを殺すことにしている。それだけ私はあなたを殺すことによって得られるメリットは大きいと考えているの。言いたいことわかるでしょ?」
 「…………ええ」
 「だからといって私に媚びへつらい命乞いをしても意味はないわ。私が美人でセクシーで金持ちで強くて賢く、誰よりも尊敬に値する人物であると私は知っているもの。殺すと判断したら問答無用で殺す。それくらい理解して私の質問に答えたわよね?」
 「そうせざるを得なかったのでそう答えました」
 「よろしい、では次の質問よ」

 ……………とりあえず最初の質問は乗り越えたみたいだ。あーダメだ心臓に悪い。この部屋の空気も濃度が高い魔力が満ち足りていて気分が悪いし…………俺は深呼吸をして次の質問に備えた。

 「自身を生かすことによって得られるメリットはなんだと思うかしら?」
 「…………正直な話をしますと、俺を生かして得られるメリットはそんなにありません」

 新卒の就活面接みたいにベラベラとあることないことを喋ってもいいのだが、スカラさんには間違いなく見破られる。正直に話そう。

 「そもそも俺が今やろうとしている勇者領の再編も、戦力の強化も、俺がいなくても出来ることなんです。というか勇者自らの手でもっと早い段階からやるべきだったんですよ。でもしなかったばかりに勇者領内部で不満が噴出し、それを青ローブが巧みに利用しカースクルセイドが生まれてしまった。でも俺の目的が達成するまでに滅びてしまっては困るので、仕方ないから俺が出しゃばって問題を解決するための時間を作ってるんです。メリットらしいメリットは特にありません」
 「あなたが時間稼ぎをしているというメリットはアピールしないのかしら?」
 「ええ、この戦争を終わらせるだけなら俺を殺してカースクルセイドに渡すだけでいい。そうすれば勇者領の重役などの影響力のある人間が殺され、新しい体制のもと勇者領が始まるだけですから。俺を生かすことで得られる時間稼ぎというメリットは、重役だけしか享受できません。だから存在しないようなもんなんですよ」

 俺が俺の目的を達成するための時間稼ぎにしかすぎない。ワガママを倒しているだけなんだよね。

 「強いて挙げるとするのならば…………勇者領の強化と再編、それによる長期的な安寧を得られることぐらいでしょうか。まぁこれも俺を殺さない選択をしたことによって得られるメリットです。俺が齎すメリットではない」

 しかもこれは上手くいったらのはなしだ。上手くいかない可能性の方が高いし、なんなら最後に俺が全てを台無しにする可能性すらある。俺が今からやり遂げようとしているのはそれだけ無茶苦茶なことなのだ。

 「なるほどよろしい。それでは次の質問よ。魔導兵器を作ったのはあなた?」

 …………これはちょっと返答が難しいな。真実を言うリスクがあまりにも高すぎる。しかしこの質問をするってことは、ウンモが作ってないことには確信を持っているってことだ。丁度良い落とし所を考えなきゃいけないな。

 「発表の通りあれを作り出したのはウンモです。聖剣を持っていたおかげで魔力に過敏にでもなっていたんでしょう。それ以外に言いようはないですが……一言付け加えることがあるとしたら俺ではないことだけは確かです」

 さすがに苦しいか?しかしこれ以上の回答は現時点では思いつかない。どうにか運良く話が進むことを…………

 いつのまにか俺は別の場所に座っていた。オレンジジュースのように黄色い飲み物を片手に持ち、脚を組んで誰かと対峙している。これは青ローブか?俺が青ローブに対してこんな不遜な態度をした記憶がない。…………そうかこれは俺の記憶じゃない。炎帝の記憶なのか。なぜ今、炎帝の記憶を思い出したんだ?

 「…………魔法を習得するのは禁忌だって言わなかったか?」

 そしてその発言を最後に俺の記憶は途切れ、また元の世界に戻ってきた。マジでなんだったんだよ…………最近は炎帝の記憶を見なくなっていたのになぜ今になって…………
 その時だった。俺たちの周りを覆っていた重苦しい魔力がなくなった。鉛のように滞留し渦を巻いていたそれが一瞬で消えるなんてありえるか?…………いや、待て。別のプレッシャーが前方から押し寄せてきている。それはさっきよりも息苦しく、あまりの不快感に汗が噴出する。胃がざわめき、萎縮する胃袋。

 「…………魔法を知ってるのね」

 スカラさんから殺戮的な魔力がダダ漏れになっていた。それは針のような刺激となって俺を突き刺し、全身に鳥肌が立った。…………まさかさっきのを言っちゃってたのか俺?それにスカラさんが反応した?

 パキッ

 スカラさんの右手の人差し指が動くと同時に、俺は右腕を広げた。すると俺の右手にはウンモが持っていた魔剣がいつのまにか握られ、バカでかい氷の塊が直撃する前にワープして脱出した!

 スカラさんの学校が巨大な氷の塊によって大破したのを、学校の外から確認した俺は急いで逃げ出す!幻覚だけではなく氷の魔力もだと!?…………違う、これはきっと魔法だ。でも俺が知っている魔法は、こんな高威力に発射できるものじゃなかったはずだぞ!火打ち石で発生する火花をちょっとだけ強くしたような、戦いには向かない弱々しさだったはずだ!それなのになんだあの威力はバカなのか!?

 「染島さんと姫崎さん!何分でここまで来れます!?」
 「大体10分ぐらいだと思います。それまでもちますかー?」
 「なんとかします!」

 ミスった時ように染島さんと姫崎さんを待機させていてよかった!でもスカラさんから探知されないために遠くで待機させていたばかりに来るのに時間がかかってしまうとは!うーんどうしたものかな!とにかく打開する方法を考えなきゃ!まずだ、なにがいけなかったのかはよく分からないが、あの感じだと魔法を知っていたのがまずかったのか?確かに魔法というのは魔族の中でも禁忌の技術だと言われている。俺も暇だったから習得しようと頑張ったが、さっきも言ったように魔法なんて戦力にならないのだ。禁忌と言われる理由が全然わからなかった。でも記憶の中の炎帝と、スカラさんの反応からして魔法はかなり重要な技術のようだ。…………理解しておいた方が今後のためになりそうだよな。

 「さてと、なんとかしてスカラさんを説得しますか」

 やらなきゃいけないことが多すぎて頭爆発しそうだわ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...