Face of the Surface

悟飯粒

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鏡にキスを編

腹痛がこの世で一番やばい

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 勇者は魔族と比べて魔力の扱いが苦手である。大規模な魔力を長時間展開し続けるのは、勇者領の最高戦力である第二類勇者ですら困難を極め、基本的には短期決戦、武器を使った近距離戦闘がメインになる。

 「すーーー…………ふーーー…………」

 ユピテルは敵と戦いながらも深く長い呼吸を繰り返していた。そうそれは………少しお下品ではあるが、激しい腹痛に襲われてトイレに篭っている状況と似ている。この地下にいる住人の正確な人数は分からないが、全ての人間が移動しきるのに1時間かかるということは数万人……もしかしたら数十万人いるかもしれない。それら全てを守る為にユピテルは広範囲の岩盤を魔力でカバーしているのだ。彼女の負担は想像以上に大きく、魔力があると言われている右胸が張り裂けそうに痛む。さらには激しい頭痛も併発し、思考がかき乱されていた。戦うような状況ではなく、更に言えば今すぐにでも倒れてしまってもおかしくない状況…………それでもユピテルは戦っていた。

 襲いくる敵が振り下ろす剣をほぼ反射でかわすと、いつもの鍛錬通りに相手の太ももを切り裂く。動きに無駄は一切ない。敵の人数は20、一瞬でも無駄を作ればその隙に攻撃を差し込まれるからだ。

 頭が重い。後頭部を継続的にハンマーで殴られているかのようだ。視界が極端に狭い。脂汗が冷たく、そして重たく感じる。体がだるい。脚が動かない。………だからどうした。

 敵の斬撃をかわし、あまりにも距離が近かったから左手で敵の身体を押して距離を作り斬りかかろうとしたとき、右側方から飛んできた火球に気がつき切り裂いた。その爆炎の影に逃げ込み、そのせいで私を見失った敵へと狙いを定め、未だに残る炎を突き破り、敵を切り裂く。

 ドスッ!

 が、そもそも、万全な状態ですら無傷は難しい圧倒的な数的不利なこの現状。敵が放った槍がとうとう私の左腕を突き刺した。しかし私は左脚で槍を蹴り上げてへし折ると、自分の剣を投げて敵の心臓に刺した。すぐさま自分の左腕に刺さっている槍の切先を引き抜くと、それを新たな武器として別の敵へと向かっていく。

 はなから無傷で乗り切れるなんて思っていない。「うまくいけば生き残れる」ぐらいの気持ちでしかない。攻撃された動きが止まることはない。

 私に攻撃を与えて弱ったと思ったのか、敵達は遠距離系の魔力を放ってくる。炎と雷、風、岩石や鉄が飛んでくる。死体を盾にしてもこの威力じゃ大した防御にはならないな。私は槍を短く持ち、飛んでくる魔法を全て切り裂いていく。が、もう動かなくなった左腕に3発被弾して引きちぎれ、かわしきれなかった左腹斜部に被弾。しかし怯むことなく私は走り、魔力による弾幕を突っ切ると敵を切り裂いていく。1人、2人と切り裂き、敵が魔力を放とうとした瞬間に槍を投げて妨害すると、すぐさま近くの死体から武器を奪い走り出す。

 それから敵の数が減るのと同時に、私の被弾が増えていく。人数が減ったことで仲間に被弾する可能性が減った敵が、魔力を積極的に使うようになったからだ。

 敵が残り7人になったとき、私は完全に敵に包囲された。そして全員が私に狙いを定めて魔力をためている。

 もう痛みも悪寒もない。ランナーズハイというやつだ。息が切れているのに多幸感で包まれている。死の一歩手前まで来ているのがわかる。
 こうなることは分かっていた。戦えばこうなることぐらい………死ぬのが怖くないと言えば嘘になる。やり残したことがまだまだ大量にある。婚約者を殺した者を見つけ出せていないし、カースクルセイドを倒せてもいない。そしてあの男……飯田狩虎を野放しにすることも嫌だな。…………死ぬのは分かっていた。分かっていたさ、そんなこと。

 ドォォオオンンン!!

 そして私に放たれたかわしようのない一斉砲火。魔力が混ざり合い七色に発光しこの地下内部を照らした。

 「…………次はお前たちっ!?」

 私は左腕の前腕から突出した骨を敵の首に突き刺すと、そのままズルズルと倒れ込んだ。敵の一斉砲火が直撃し、右腕は完全になくなり、左腕は前腕部が消失。右脚も損失。胴体からも夥しい出血があり、心臓が止まり出血によるショック死をするのは時間の問題だろう。それでも私は左腕の傷口を地面に立て、敵に向かうために這っていく。

 死ぬのは分かっていた。それでも戦うのは、自分が信じる正義の為だ。[守らなきゃいけないものを守る為に]戦うのだ。…………そこを誤れば飯田狩虎を否定できなくなる。私は勇者や勇者領で暮らす平民を守る為に飯田狩虎を否定するのだ。種族が違うだけで私とあの男がやっていることは何ら変わりがない。だからもしここで私が自分の命の為だけに逃げ出したら…………ただの大量殺人鬼になってしまう。

 「死んで………でも…………守……………」

 もう誰かを失うのは嫌なんだ。

 その言葉を最後に、ユピテルの心臓は止まった。

 「………………」

 ユピテルの最後を見届けた敵6人は唾を飲み込んだ。しかしすぐに彼らは動き出す。[地下民の抹殺]は今後の彼らの運命が決まるほどの重要な任務である為、出来る限り早く遂行しなければいけない。その責任感が彼らを突き動かす。そして地下民に最も近かった敵が彼らを斬り殺すために剣を振り下ろした。

 グチャッ!!

 天井から岩でできた柱が突出し、剣を振り下ろしていた敵を潰した!

 「しょうがない、我が守ってやる」

 地下の天板に穴が開きそこから岩の魔物、ウンモが飛び降りた!それと同時に、天板から岩石の柱が何本も突出して勇者4人を叩き潰す!1人だけ辛うじてかわすことができたが、かわした先の地面が勢い良くせりあがり、天井とサンドイッチになり潰された。

 「安心しろ我は魔物だが一応、貴様らの味方だ。すぐにあの女を蘇生させたい。応急処置用の道具だったり、魔力を持つ者はいるか?」

 平然とした態度で話してはいるが、今のウンモは内心焦りまくっていた。地上で怪獣大戦争が行なっているのに地下に逃げ込むバカはいないだろう………と思っていたばかりに地下の確認が遅れ、結果、ユピテルが瀕死になってしまったのだ。もしこれで死んだら勇者領に殺されるのは勿論、最悪、イリナに殺される。初めてイリナと会った時の印象が最悪すぎて、今のウンモは誰よりもイリナを恐れているのだ。すぐには殺されず、想像を絶するような拷問をされかねない…………そう思ったウンモはとにかくユピテルを蘇生させることに全神経を集中させていた。


 ~地上~

 「底なしかよこいつ!」
 「あるわけないじゃんバーカ!」

 アサツグによって一瞬で殲滅された魔物達は、姫崎の手によってすぐに生み出され勇者達に襲いかかっていた。数は200体を優に超え、街は魔物によって占拠されている。だがアサツグが青色の装置を発動させると魔物達が一瞬で細切れにされてしまい、また姫崎が魔物を生み出して勇者達に襲いかかる。ずっとこの繰り返しだ。

 「勇者なんかよりも魔族が最強で、人類で姫崎鈴音が最強!最強オブ最強の私に敵うものなどいねぇんだよ!」

 グチャッ!!

 アサツグに振り抜いた魔物の拳が吹き飛び腕が反対に曲がる!そして勇者達は魔力を姫崎に放ちながら距離を詰めていく!

 アサツグとやらの魔力は反射の魔力か?いやそれだと広範囲を一瞬で細切れにできる理由がわからない。反射+何かと考えるのが無難か。
 魔物を展開し勇者の魔力攻撃を防御しながら姫崎は考える。今の状況だけを見ると不利なのは姫崎だ。魔物は物理攻撃しかできず、その物理攻撃はアサツグに効かない。さらに大量展開しても一瞬でリセットされてしまう。救いがあるとすれば全方位への広範囲攻撃にはクールタイムが必要なことと、反射?も完全じゃない。もし全てを反射できるのならば問答無用で突撃して一方的に攻撃できるのに、それをしてこないからだ。その隙を見つけ出さなければ勝つのは難しいだろう。

 「………ちっ、しょうがないな。少し本気を出してやる」

 いままで地上を闊歩していた二足歩行型の魔物ではなく、鳥のように飛行する魔物が新たに生み出された。それは勇者達を包囲すると口からビームを放った!

 「まだ本気じゃなかったの!?」

 アサツグは驚きながらもビームの全てを反射した!反射されたビームは他の魔物を貫き地面を溶かす!………しかし姫崎はビームを反射した時に装置が光っていたのを見逃さなかった。

 「お前のその装置、魔力でもいじれんの?」

 反射をするだけでも十分にレアなのに、プラス何かを切断する魔力など普通ではない。2つ魔力を持っている気配もないことから姫崎はそう判断した。

 「…………今ので分かったのか?」
 「天才だから当然。魔力の能力を変えてるのか意味を拡張しているのかまではわからないけれど、あまりにも不自然だ」

 まぁ別だったらそれはそれ。私が本気を出して一切の隙なく叩き潰せばいいだけだ。

 「ふふふっ、そうだ凄いだろ。これは我々が生み出した超兵器だ。魔力を無理のない範囲で拡張し、能力を変える。炎の球を生み出す魔力ならば炎の剣を生み出す魔力に変えることができ、シールドを生み出す魔力ならば反射する能力に変えられる」

 シールドを生み出す魔力………なるほど。それを拡張させれば[切断系の物体を生み出す魔力]に変えられるのか。面白いなそれ。

 「だがこの機械の最も凄い部分はそこじゃない。これは魔力の一部になることが出来るんだ。意味の拡張などその副産物にすぎない」
 「…………やっば!」
 「そうだ!魔力を肥大化できるんだ!」

 機械がひときわ明るく赤色の光を放つと、この街一帯が細切れになった。建物全てが微塵切り、微塵切り、埃になるまで切り裂かれ風に乗って飛んでいく。

 「…………っ!!」

 だが、姫崎は今まで見たことのない4mサイズの魔物に守られ傷ひとつない。その魔物にすら傷はない。あの斬撃の全てを受け切ったというのに………

 「それがお前の奥の手だろ?万策尽きたな。………さぁ蹂躙だ」

 こうして姫崎と勇者の戦いは事実上の決着がついた。



 この街を仕切る奴が滞在する施設に来たはいいものの……人っこ1人いないじゃん。どうしたもんかなぁ。
 俺は広大な施設を歩いていた。この勇者領は現実世界でいう連邦制に近いスタイルをとっている。街ひとつひとつがまるで国のように条例を作り出すことができ、街を取り仕切るということは一国の主人になるということ。勿論、憲法や法律を大きく逸脱するような条例を制定することはできず、比較的に全ての街は似たり寄ったりなルールの基、運営していくことになるのだ。
 何が言いたいのかというと、街ひとつを相手にするということは国を相手取るようなものなのだ。ここまで暴れたのにこの施設に誰もいないなんていうのはおかしい………逃げ出したのか?いや、相手から仕掛けてきたのにそれはないだろう。

 「……………」

 俺は急いで出口に向かって走り出した!しかし出口に辿り着くよりも先にこの施設全体が光に包まれる!

 ドォォオオオンンン!!!

 そしてこの施設は光に飲み込まれて大爆発!水の魔力で炎熱を抑えるが、衝撃を全て殺しきることはできない。吹き飛ばされた俺は建物の残骸から転げ出る!
 この施設には何かしらの証拠があったのだろう。それを隠滅された可能性が高い!ついでに囮に使って俺を殺そうとするなんて………厄介だな。

 「………言っとくけど、隠れてこそこそ攻撃してたって事態は好転しませんよ。時間をかければイリナが戻ってきてあんたらすぐに壊滅するんですから。やるなら早い方がいい」

 俺の言葉の5秒後、敵が姿を現した。やはりイリナを戦線離脱させてよかった。あいつがいると強すぎて交渉の余地がなくなってしまう。ある程度の[弱み]がないと相手は戦うそぶりを見せてくれない。

 「………………」

 この街を仕切る男、重役の右腕であるイグノーヴァの表情は焦っていた。それがポーカーフェイスなのかは分からないが………どちらにしろ今の俺ができることは交渉だけだな。

 「手っ取り早くいきます。イグノーヴァさん、重役を裏切ってこっちにつきませんか?」
 「……………何を狙っている」

 俺の話を聞いた途端、イグノーヴァさんは無表情になった。…………やはりキレる男だな。少しでもミスを犯せば言及されてしまうような威圧感がある。

 「今俺が欲しいのは勇者領の重役の椅子です。重役を引き摺り下ろすことさえできればそれでよく、イグノーヴァさんと敵対する気はありません。あなたが裏切ってくれたら全てが楽に進むので、それを狙っているだけです」
 「私が裏切って何かいいことがあるのか?」
 「またまたぁ!もう既に理解しているくせに」

 俺は笑いながらイグノーヴァさんの目を見つめる。相変わらず凄まじい緊張状態だ。

 「………まず第一に、あなたはもう負けている。俺に襲いかかってきた勇者達は仲間がもう既に倒しているし、俺に切られたフリをして、今回の騒動のきっかけを作った人はイリナが病院に運んで一命を取り留めた。もし俺を今ここで殺したってあなたが助かる道はないんですよ」

 姫崎さんたちがこの街の住民を守ってくれているはずだから、俺が人を刺したという証言は捏造だったと簡単にバレる。なんなら俺達の印象が良くなるから擁護してくれるだろう。………この街の住民をちゃんと保護してくれたよね?姫崎さん?信じてるからね?それに襲いかかってきた勇者達の身柄を確保できれば、そいつらが真犯人だと証明することもできる………姫崎さんがちゃんと手加減して身体が原型をとどめていたらね。ちゃんと手加減してくれてるよね?大丈夫だよね?

 「第二に、このままいけばあなたは捨てられますよ。助かる為には上司を売らなきゃいけないことはもう分かっているはずだ」

 [イグノーヴァが全て勝手にやったこと]だと重役が言えば、罪の全てはイグノーヴァさんになすりつけられる。トカゲの尻尾切りというやつだ。

 「そして最後。あなたが研究し生み出したものを、俺たちならもっと有効活用できる」

 具体的な研究内容は分からないが、ほぼ間違いなく[魔力に関するもの]なのはわかる。この町全体の大気中に含まれる魔力量があまりにも少なすぎるし、街の人々の衣服には魔力が宿っていなかった。あっ実は俺、魔力見えてんだけどみんなには内緒ね。隠しておきたいからさ。

 「[あまりにも非人道的な実験を強要され、心を痛めた私は謀反を起こし街の人々を守ろうとした]と言えばあなたは助かります。どうですか素晴らしい提案でしょう?」
 「………たしかに魅力的な提案とは言えるな。だがお前は2つ勘違いしている」

 イグノーヴァさんが懐から機械を出した。それは青白く光り輝き俺を照らす。

 「この機械の研究を主導しているのは私の上司ではなく、[私の上司]と[もう1人の重役]だ」
 「…………なるほど、なんとなく分かりました」

 重役2人が協力して魔力の研究をしていたんだ。そして……

 「お前達を襲った勇者達、あれは本来は私を殺すために用意されていた。なのになぜかお前達が来たせいで計画変更を余儀なくされたわけだ」

 つまりイグノーヴァさんは今日、殺される予定だったんだ。だから殺した後の処理や証拠の捏造はもう済んでいると考えるべきなわけか。

 「………それならば尚のこと、あなたの上司を引き摺り下ろさなきゃいけないですね。助かる道はそれしかない」

 重役同士の今のパワーバランスは[もう1人の重役]のほうが[イグノーヴァさんの上司]よりも上だ。追い詰められているのは間違いなくイグノーヴァさんの方。だからそっちさえ追い詰めてしまえば[もう1人の重役]がの方が上司の方を切り捨ててくれる可能性が高い。

 「[もう1人の重役]には一切触れることなく、全ての責任をあなたの上司に被ってもらいましょう」
 「…………できるのか?そんなことが」
 「実験結果は全て上司に渡してますか?」
 「ああ、当然だ」
 「じゃあ大丈夫でしょう。自白だけじゃ証拠として弱いですからね。それじゃあ俺達はすぐにでもあなたの上司のところに乗り込むつもりです。ことが終わるまでなんとかして逃げ切ってください」
 「飯田狩虎、なぜだ?なぜそこまでして私を助けるんだ?」
 「決まってるでしょう。あなたを殺したって勇者領が平和になることはない。問題は根っこを叩かなきゃ意味がない。……それだけですよ」

 あと一つ、個人的に気に入らないことがある。

 俺は姫崎さん達がいる場所に戻った。



 「えっ、どっ、ユピテルさん大丈夫ですか!?」
 「大丈夫なわけないだろ!なんとか心拍は戻ったが瀕死の重体だ!」

 勇者達をボコボコにして待っていた姫崎さんと合流し、地下に向かった俺達を待っていたのは大量の人間とウンモ。そして包帯でぐるぐる巻きの五体不満足なユピテルさんだった。ユピテルさんは呼吸はしているが意識はない。ま、まずすぎるじゃないか!

 「黒垓君こっちこれる!?1人医療機関に送って欲しいんだけど!」
 「えーーでもこっちは仕事が………」
 「人が死にかけてんの!命と仕事どっちが大事なの!」
 「仕事」
 「この社畜が!いいから来てよ!」

 染島さんのテレパシーでなんとか呼んだ黒垓君にユピテルさんを運ばせ、俺は一息ついた。

 「………さてと、ここからがメインだ」

 俺は姫崎さんに敗れた勇者達に視線を移す。全員が変形した魔物によってグルグル巻きに拘束されている。

 「みなさんには聞きたいことがあるんですけどぉ」
 「………くっ!部下達には手を出すな!拷問するならこの、漢アサツグにしろ!まぁ俺は何も言わないがな!」
 「クックックッ………大層な忠誠心だ。だがそれでもあんたは口を滑らせちゃうんだよなぁ」

 俺は不敵に笑い、その笑顔を見てアサツグさんは表情をこわばらせた。

 「アサツグさん達の上司ってさ、イグノーヴァさんの上司、つまりラグエルさんだよね?」
 「…………は?」
 「ラグエルさんだよね?」

 違うことは勿論分かっているし、アサツグさんも拍子抜けしたのか間抜けな表情をしている。しかし俺は空中に水で[頷けばあんたとあんたの上司は助けてやる]と書いて状況を一瞬で伝えた。

 「…………あ、ああそうだ。ラグエル………さんだ」
 「ほらー言った通りでしょう?口滑らせちゃったね」

 さてとこれであいつを倒す口実はゲットだ。

 「それじゃあ姫崎さんとウンモはここに残って彼らを助けてあげてください。多分、敵の増援が来ると思うんで、かるーく捻ってやってください」
 「えーーでも私も飯田さんと一緒に行きたーい」
 「俺も姫崎さんが一緒にいたら頼もしいですけど、ウンモだけじゃあ彼らを守りきれないかもしれないじゃないですか。期待してるんです姫崎さん」
 「きゃーー!!期待されちゃったーー!!姫崎鈴音頑張ります!!」
 「お願いしますよ姫崎さん!!…………それと、ディーディア君は?」
 「あ、呼びました?」

 この地下洞の入り口方向からディーディア君がボロボロな姿で来た。き、君までどうしたんだ一体!

 「どうやら敵はこいつらだけじゃないみたいですよ。他に2部隊いて、そいつらに襲われました。なんとか逃げ切りましたけど………ここに来るのも時間の問題だと思います」

 もう援軍が来てるのか…………まずいな、ここを出る前に戦って時間のロスなんてしたくないのに。

 「大丈夫!私が倒しといたから!」

 ディーディア君の背後から声が聞こえたと思ったら、イリナが敵を片手で持ちながら現れた。…………本当こいつバケモンだな。

 「じゃあ俺とイリナでラグエルさんを倒してきますか。ディーディア君は留守番お願いねー。あっ、おにぎりとか配っといていいよ」

 俺とイリナは地下洞から出ると全力で駆け出した!

 「……………じゃあそうしときますか」

 狩虎達が去った後、姫崎達はフリーおにぎりの為に用意していたおにぎりを避難者全員に配った。死の恐怖から解放されたみんなはお腹が空いたのか、おにぎりを口に頬張っている。ウンモはそれをノンビリと眺めていると、おじさんが1人近づいてきた。

 「さっきはありがとう。おかげで助かったよ」

 ウンモが助けたおじさんだった。見知らぬ他人に感謝されたことなどないウンモはなんて言っていいかわからず、アウアウ言いながら視線を外した。そしておにぎりを持った右手をおじさんに伸ばす。

 「ま、魔物に感謝とは………変なやしゅだ。くれてやる」
 「はははっ、ありがとう」

 おじさんはおにぎりを貰うとみんなの所へと戻っていった。ウンモは変な気持ちになって戸惑った。それでも、[悪くはないな]と心の中で呟いた。
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