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彼らは新人類編
かげぇぇええ!ってなに?
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勇者連続失踪事件。確認できているだけで行方不明者は10人にのぼっている。原因は不明。カースクルセイドとの戦いに怖じ気づいて逃げ出したのか、はたまた誰かが誘拐しているのかは分からないが、もしカースクルセイドに誘拐されていれば敵戦力の増強の一因となり早期の解決を必要とする。補足事項として行方不明者のうち4人が失踪直前に「鏡に何かが映っている。」と発言していた。鏡には警戒されたし。 ~勇者失踪事件報告書~
「待ちましたよ、イリナさん。」
目的の村に到着した俺達を歓迎したのは、顔見知りのサミエルさんだった。
「………それと、飯田さん。」
俺は笑いながら手を振った。サミエルさんは返してくれなかった。………まぁそういうもんだ。敵だもんね、しょうがないよ。
「なんで君いるの?わざわざこの村で出待ちなんかしてさ。」
「僕はユピテルさんの部下ですからね。飯田さんの監視のために同行することになったんです。ほら、顔見知りですし。」
一回しか会ってないけどね。なんならその時、俺、サミエルさんに腕切られてるけどね。いたかったなーあれ。
「………いいですか、飯田さん。もし不審な様子を見せたらユピテルさんに報告しますからね。」
「わかってるって。俺はこう見えて偉い人には忠実に従うんだ。長いものには巻かれるタイプっていうの?」
「はいはい、わかりました。」
むふーーテキトウにあしらわれるぜ。
俺達は挨拶も終えると、村の中へと向かっていく。ウンモの情報だとここに手がかりがあるらしいが………はて?なんであいつが知ってるんだ?
「我は岩の魔物だからな。岩石系の魔物と情報交換できるのだ。」
なーるほど。確かに岩ってのはどこにでもあるわな。それに彼は大地の聖剣を持ってるから、大地を通して色々とできるのだろう。よく分からないけど。
「そういえば聖剣集めってどうなったの?中止?」
「はい。聖剣を渡してはいけない人間が勇者領にいるので。」
「え、スパイいんの?勇者領に?」
「…………多分、ミフィー君だよ。」
「………こりゃ困ったな!そうかそうか、俺に力が集まるのは危険だもんな!それは正しい判断だわ!」
魔王の俺が水の聖剣まで持ってしまったら取り返しがつかないよな。なるほどなるほど!確かにそれは言えてるわ!
「ごめんなさいねぇ。俺が勇者領にもぐりこんでから大変だったでしょう?」
「そうですね。さっさと殺して平和になりたいものです。」
「いやいや、冗談でも人を殺すなんて言わない方がいいですよ。」
「あーーユピテルさん?」
「勘弁してください。本当にもうごめんなさい。許してください!」
俺は最速で土下座をして頭を地面に擦り付ける!
「………で?ウンモはどういう情報を得たの?」
「あ、ああ………我の下僕によると、ここ周辺で人間の失踪が相次いでいるようだ。大規模な失踪が起きる時はいつも深い霧が立ち込める夜………らしい。」
…………さっき俺達、霧に閉じ込められたよなぁ。
「………さっきのじゃないか?」
「やっぱそう思う?」
俺とイリナは頷きあった。魔力で作り出された霧による分断………誘拐するにはうってつけだろう。
「じゃ、じゃあ………この村の人達も実はもう失踪してたりするんじゃない?」
俺達は周りを見た。確かに、さっきから人っこ1人見ないもんなぁ。自分たちの声しか聞こえないほどの静寂っていうのは耳が痛いもんだ。
「いや、寝てるだけじゃない?」
「まだ20時行ってないけどね。みんなどんだけ早寝早起きなのさ。」
「やっぱり勇者ってのはちびっ子たちの見本にならなきゃいけないもんな、早寝早起きは大事なんだろ。」
「魔族は?」
「遅寝遅起きがベターだな。4時に寝て12時に起きる。」
「一応8時間は寝るんだね。」
「睡眠時間は確保しなきゃな。」
くだらない会話をしながら、俺達はこの村で一際大きな家の前に辿り着いた。金持ちか村長かのどちらかだろうな。ここの人間が消えてたらもうどうしようもない。観念して捜査のし直しだ。まぁ捜査ってほどのことはしてないけど。歩いてるだけだし。
…………ダメっぽいね。扉をノックしても返事が一切ない。イリナが力加減をミスって扉を突き破ったってのに、それにすらもリアクションがない。いないと考えた方がいいだろうな。
「こうなるとさっきの霧が原因っぽいよな。一応、俺達も巻き込まれていたってわけか。なぜか無事だけど。」
霧が関係していることはわかった。だが情報が圧倒的に足りないな。このまま捜索なんかしたってなにも始まらない。
「じゃあこの村をみんなでバラバラに調査するか。」
「あ、僕は飯田さんの監視をしなきゃいけないので一緒にいますよ。」
「はーい。なんかあったら目立つように何かしてくれ。」
俺達はバラバラに別れた。
「ひとつ聞いておきたいんですけど。」
一緒に歩いているサミエルさんが話を振ってきた。
「あなたの狙いってなんですか?」
「………そりゃあ、イリナに殺されることだけど。」
「それだけじゃない気がするんですよね。イリナさんはあえて触れてはいませんけど、僕はお目付役である以上、そういう疑問を見つけたら深掘りするつもりなんですよ。」
やっぱりそこんところは有耶無耶にできないか。俺は小さく息を吸い込むと、目を閉じた。
「決まっているでしょう?世界平和ですよ世界平和。」
俺はニヤリと笑った。しかしそれを聞いたサミエルさんは真顔だった。「なにふざけてんだこいつ。」みたいなね、顔なんですよ。大真面目よ俺は。
「………そうですか、頑張ってください。」
「応援ありがとう!」
俺達はダラダラしゃべりながら探索を続けた。
~1時間後~
「僕達の方ではこんなバッジを見つけました。」
サミエルさんの手に握られている白色のバッジ。俺は見たことなかったが、どうやらイリナとサミエルさんには見覚えがあるようだ。
「これってさ、あの子達がつけてるやつだよね?」
「はい、彼らです。」
彼らってどなた?
「………1年前、勇者領で青ローブの男が暴れたんですよ。彼は勇者に魔族の魔力を与え、魔力を2種類持っている子供達を作り出しました。イリナさんの活躍で彼らは保護されたわけですが、勇者領は彼らの力に目をつけて部隊化したわけです。その部隊に渡されるバッジというのがこれなわけです。」
「………じゃあ、その子供達が関係してるっていうのか?」
俺らは青ローブの話を意図的に避けた。一年前のあの騒動の終着点が、俺とイリナ、勇者と魔王の遭遇だったからだ。
「わかりません。実行犯かどうかも分かりませんが、バッジが落ちている以上、何かしら関わっていると考えるべきだと思います。」
しかしなぁ。バッジを落とすなんてしょうもないミスをするものかなぁ。意図的に落としたように見えちゃうよね。
「イリナの方は?」
「私の方は特にないよ。チマチマなんか探すのって好きじゃないんだよね。」
確かにそんなことをしているイメージはわかないわな。
「ウンモは?」
「大地の聖剣で周りの生体反応を探ったが、虫やペッドなどの小動物の反応しかなかった。やはり全員失踪したみたいだ。他には特にない。」
じゃあこのバッジが頼りか…………ひとまずその部隊に会う必要があるようだ。
「その部隊の隊長の名前って何?私の名前でアポとっておくよ。」
「名前までは分からないんですけど、確か光を操る男だとは聞いてますね。ただ、彼、行方不明らしいんですよ。」
部隊のバッジが犯行現場と思しき場所に落ちていて、その部隊の隊長は行方不明。なんかきな臭くなってきたな…………
「その部隊、名前はなんていうの?」
「確か………ミレニアルズでしたかね。」
ミレニアルズってことは、俺ら世代のことじゃん。別の世代、新人類的な意味があるのだろう。その部隊が裏切ったのか、はたまた形骸化しているのか………どちらにしろロクなことにはなってないだろうな。俺はため息をついた。
「…………今、何か見えませんでした?」
この村を去ろうとした時、サミエルさんが険しい声で言った。
「いや?人っ子1人いないよ。なぁウンモ。」
「うむ。我の大地の聖剣も反応してないぞ。」
「ほら、この村の看板の裏に人影が………」
サミエルさんが指す方向を見ても誰もいない。なんだなんだ、何が起こってるんだ。
「…………イリナ、俺の合図でやってくれ。」
「わかってる。」
俺は3本、2本、1本と指を折り曲げていく。そして最後、全ての指を折り畳んだ瞬間…………
雷と炎が炸裂しこの村を吹き飛ばした。家屋の全ては燃やされ衝撃波によって粉々だが………まぁ、目撃者もいないし大丈夫だろう。言い訳はいくらでもたつ。
「…………サミエルさん、一応家まで送りますけど、警戒は続けてください。」
全てが吹き飛ばされた村にはやはり何もいない。サミエルさんの見間違え………と一蹴するには危険な状況だ。何かがこの村で起こっていると考えた方が安全だろう。俺達はすぐにこの村から離れた。
そして翌日、サミエルさんが行方不明になった。
「…………俺は気づいてはいけないことに気がついてしまった。」
学校の昼休み、参考書を読みながら後ろの遼鋭に話しかける。
「どうしたんだい?これ以上の最悪なんてそうそうないと思うけど。」
「いや、さ?現実世界の俺がこの学校に通っていることがバレたってことはさ、俺さ、現実世界でいつ狙われてもおかしくないってことだよね。」
魔族に対して恨みを抱いている人間が、表面世界では倒せないからって、現実世界で俺を襲うことって十分にあり得るよな?いやだって現実世界の俺ってなんの能力もないし、さらに言えば身体能力は並以下だからね。
「え?今頃?」
「うん。さっき気がついた。」
今の俺の問題点を整理していたら、問題が多すぎることに気がつき、さらに認識していなかった問題点も見つかったわけだ。やばいな俺、死と隣り合わせじゃん今。いちおう、イリナと宏美がいるから並大抵のことはどうにでもなるけれど、拳銃とか使われたら危険にも程がある。
「どど、ど、どうしよう遼鋭。」
「はぁ………だから僕は止めたんだよ。イリナさんに正体をバラすっていうのは、魔王である狩虎からすればとてもリスクがあることなんだ。色んな人に命を狙われているんだからね?自覚持ちなよ、自分が危険な存在だってことをさ。」
「むーーごめんちゃーい。」
俺は教科書を閉じて机に突っ伏した。思ってたよりも現状は深刻だ。それにイリナも俺のせいで身バレしてるし、イリナの方も注意しなきゃいけない。むはーーっ、どうしてくれんのかねこれ。
「そう言えばさ、最近、世の中物騒だよ。昨日なんてガソリンスタンド爆発したらしいぜ?」
近くの席の男の噂話が聞こえてくる。あーこれは町田くんの声だね。古文と漢文だけいつも満点だけど、他はイマイチな町田くん。理系科目が嫌いらしい。
「連続殺人事件も解決してないしなぁ。」
東京で起こっている連続殺人事件の話を今ここでしてどうなると言うのだ。それよりもお前、この学校で殺人事件が起こりうるんだぜ?俺死ぬかもしれないんだからな?表面世界では勇者と名乗っているけれど現実世界ではよく分からん人間に。
「そうそう、あの連続殺人事件って、被害者のドッペルゲンガーが犯人らしいぜ。被害者のドッペルゲンガーが新たな被害者を生み出してるんだって。」
「嘘くせー。なんの都市伝説だよ。つくならもっとマシな嘘つけよ。面白くないぞ。」
「だよなーー…………こんな噂話が流れるぐらいなんだから、この連続殺人事件の捜査は難航してんだろうな。…………そうそう、昨日できたケーキ屋さんなんだけどさ。」
そして流れていく日常会話。自分の身に降りかからない事件の噂話など、時間の無駄でしかない。さっさと別の話題に行くべきなんだ。
「………今の噂話はともかく、君はちゃんと気をつけないとダメだよ。いつ殺されるか分かったもんじゃないんだから。」
「そうだな…………スタンガンでも買っておくか。」
「宏美と毎日一緒に帰ればいいよ。スタンガンよりもずっと強力だよ、彼女。」
「違いねーな。」
そして鳴り響く予鈴。授業が始まり俺は黙った。
「なぁ宏美。」
「なんだ狩虎。」
生徒会が終わり、俺と宏美は帰路についていた。小学校からの幼馴染というのは喋ることがないもんだ。当たり障りのない、今日の授業の内容だったり、面白かったことだったりをナントナク喋り続けていた。
「お前のおかげで助かった、ありがとう。」
イリナが転入してきた初日、俺とイリナの最悪の雰囲気を宏美は怒ってくれた。あれがなかったら、きっと俺とイリナは今頃、最悪の雰囲気のまま表面世界で冒険していただろう。
「なんだいきなり……….幼馴染として当然のことをしたまでだ。」
宏美は屈託もなく笑う。だから俺は、お前はとても凄い人間だと思うんだ。才能があるとか、美人だとか、そういうのを差し置いて、お前のそういう性格はたくさんの人を救ってきた。凄いよお前。
俺は何も言わずに前を見つめる。褒めたって変わらない。だってずっと、俺は宏美と遼鋭を誉めて生きてきたのだから。2人は俺なんかよりもずっと優れていて………尊敬されている。
「…………なぁ、狩虎。」
そして宏美も前を向きながら歩き続ける。オレンジ色の夕焼けは、長く長く俺たちの影を引き伸ばす。
「有耶無耶にするってことはできないのか?………本当に死ななきゃいけないのか、お前が。」
伸びる影。それを揺らそうと風が一陣、吹き乱れた。
「俺は俺が1番嫌いだ。…………宏美なら分かってるだろ。」
「そうだけど…………」
俺は立ち止まった。夕日によって伸びる影だけが、揺ら揺らと動いている。陽が落ちる…………闇を引き連れて。
「俺は殺される。それが俺の罪だ。」
そしてまた、俺は歩き始めた。
「待ちましたよ、イリナさん。」
目的の村に到着した俺達を歓迎したのは、顔見知りのサミエルさんだった。
「………それと、飯田さん。」
俺は笑いながら手を振った。サミエルさんは返してくれなかった。………まぁそういうもんだ。敵だもんね、しょうがないよ。
「なんで君いるの?わざわざこの村で出待ちなんかしてさ。」
「僕はユピテルさんの部下ですからね。飯田さんの監視のために同行することになったんです。ほら、顔見知りですし。」
一回しか会ってないけどね。なんならその時、俺、サミエルさんに腕切られてるけどね。いたかったなーあれ。
「………いいですか、飯田さん。もし不審な様子を見せたらユピテルさんに報告しますからね。」
「わかってるって。俺はこう見えて偉い人には忠実に従うんだ。長いものには巻かれるタイプっていうの?」
「はいはい、わかりました。」
むふーーテキトウにあしらわれるぜ。
俺達は挨拶も終えると、村の中へと向かっていく。ウンモの情報だとここに手がかりがあるらしいが………はて?なんであいつが知ってるんだ?
「我は岩の魔物だからな。岩石系の魔物と情報交換できるのだ。」
なーるほど。確かに岩ってのはどこにでもあるわな。それに彼は大地の聖剣を持ってるから、大地を通して色々とできるのだろう。よく分からないけど。
「そういえば聖剣集めってどうなったの?中止?」
「はい。聖剣を渡してはいけない人間が勇者領にいるので。」
「え、スパイいんの?勇者領に?」
「…………多分、ミフィー君だよ。」
「………こりゃ困ったな!そうかそうか、俺に力が集まるのは危険だもんな!それは正しい判断だわ!」
魔王の俺が水の聖剣まで持ってしまったら取り返しがつかないよな。なるほどなるほど!確かにそれは言えてるわ!
「ごめんなさいねぇ。俺が勇者領にもぐりこんでから大変だったでしょう?」
「そうですね。さっさと殺して平和になりたいものです。」
「いやいや、冗談でも人を殺すなんて言わない方がいいですよ。」
「あーーユピテルさん?」
「勘弁してください。本当にもうごめんなさい。許してください!」
俺は最速で土下座をして頭を地面に擦り付ける!
「………で?ウンモはどういう情報を得たの?」
「あ、ああ………我の下僕によると、ここ周辺で人間の失踪が相次いでいるようだ。大規模な失踪が起きる時はいつも深い霧が立ち込める夜………らしい。」
…………さっき俺達、霧に閉じ込められたよなぁ。
「………さっきのじゃないか?」
「やっぱそう思う?」
俺とイリナは頷きあった。魔力で作り出された霧による分断………誘拐するにはうってつけだろう。
「じゃ、じゃあ………この村の人達も実はもう失踪してたりするんじゃない?」
俺達は周りを見た。確かに、さっきから人っこ1人見ないもんなぁ。自分たちの声しか聞こえないほどの静寂っていうのは耳が痛いもんだ。
「いや、寝てるだけじゃない?」
「まだ20時行ってないけどね。みんなどんだけ早寝早起きなのさ。」
「やっぱり勇者ってのはちびっ子たちの見本にならなきゃいけないもんな、早寝早起きは大事なんだろ。」
「魔族は?」
「遅寝遅起きがベターだな。4時に寝て12時に起きる。」
「一応8時間は寝るんだね。」
「睡眠時間は確保しなきゃな。」
くだらない会話をしながら、俺達はこの村で一際大きな家の前に辿り着いた。金持ちか村長かのどちらかだろうな。ここの人間が消えてたらもうどうしようもない。観念して捜査のし直しだ。まぁ捜査ってほどのことはしてないけど。歩いてるだけだし。
…………ダメっぽいね。扉をノックしても返事が一切ない。イリナが力加減をミスって扉を突き破ったってのに、それにすらもリアクションがない。いないと考えた方がいいだろうな。
「こうなるとさっきの霧が原因っぽいよな。一応、俺達も巻き込まれていたってわけか。なぜか無事だけど。」
霧が関係していることはわかった。だが情報が圧倒的に足りないな。このまま捜索なんかしたってなにも始まらない。
「じゃあこの村をみんなでバラバラに調査するか。」
「あ、僕は飯田さんの監視をしなきゃいけないので一緒にいますよ。」
「はーい。なんかあったら目立つように何かしてくれ。」
俺達はバラバラに別れた。
「ひとつ聞いておきたいんですけど。」
一緒に歩いているサミエルさんが話を振ってきた。
「あなたの狙いってなんですか?」
「………そりゃあ、イリナに殺されることだけど。」
「それだけじゃない気がするんですよね。イリナさんはあえて触れてはいませんけど、僕はお目付役である以上、そういう疑問を見つけたら深掘りするつもりなんですよ。」
やっぱりそこんところは有耶無耶にできないか。俺は小さく息を吸い込むと、目を閉じた。
「決まっているでしょう?世界平和ですよ世界平和。」
俺はニヤリと笑った。しかしそれを聞いたサミエルさんは真顔だった。「なにふざけてんだこいつ。」みたいなね、顔なんですよ。大真面目よ俺は。
「………そうですか、頑張ってください。」
「応援ありがとう!」
俺達はダラダラしゃべりながら探索を続けた。
~1時間後~
「僕達の方ではこんなバッジを見つけました。」
サミエルさんの手に握られている白色のバッジ。俺は見たことなかったが、どうやらイリナとサミエルさんには見覚えがあるようだ。
「これってさ、あの子達がつけてるやつだよね?」
「はい、彼らです。」
彼らってどなた?
「………1年前、勇者領で青ローブの男が暴れたんですよ。彼は勇者に魔族の魔力を与え、魔力を2種類持っている子供達を作り出しました。イリナさんの活躍で彼らは保護されたわけですが、勇者領は彼らの力に目をつけて部隊化したわけです。その部隊に渡されるバッジというのがこれなわけです。」
「………じゃあ、その子供達が関係してるっていうのか?」
俺らは青ローブの話を意図的に避けた。一年前のあの騒動の終着点が、俺とイリナ、勇者と魔王の遭遇だったからだ。
「わかりません。実行犯かどうかも分かりませんが、バッジが落ちている以上、何かしら関わっていると考えるべきだと思います。」
しかしなぁ。バッジを落とすなんてしょうもないミスをするものかなぁ。意図的に落としたように見えちゃうよね。
「イリナの方は?」
「私の方は特にないよ。チマチマなんか探すのって好きじゃないんだよね。」
確かにそんなことをしているイメージはわかないわな。
「ウンモは?」
「大地の聖剣で周りの生体反応を探ったが、虫やペッドなどの小動物の反応しかなかった。やはり全員失踪したみたいだ。他には特にない。」
じゃあこのバッジが頼りか…………ひとまずその部隊に会う必要があるようだ。
「その部隊の隊長の名前って何?私の名前でアポとっておくよ。」
「名前までは分からないんですけど、確か光を操る男だとは聞いてますね。ただ、彼、行方不明らしいんですよ。」
部隊のバッジが犯行現場と思しき場所に落ちていて、その部隊の隊長は行方不明。なんかきな臭くなってきたな…………
「その部隊、名前はなんていうの?」
「確か………ミレニアルズでしたかね。」
ミレニアルズってことは、俺ら世代のことじゃん。別の世代、新人類的な意味があるのだろう。その部隊が裏切ったのか、はたまた形骸化しているのか………どちらにしろロクなことにはなってないだろうな。俺はため息をついた。
「…………今、何か見えませんでした?」
この村を去ろうとした時、サミエルさんが険しい声で言った。
「いや?人っ子1人いないよ。なぁウンモ。」
「うむ。我の大地の聖剣も反応してないぞ。」
「ほら、この村の看板の裏に人影が………」
サミエルさんが指す方向を見ても誰もいない。なんだなんだ、何が起こってるんだ。
「…………イリナ、俺の合図でやってくれ。」
「わかってる。」
俺は3本、2本、1本と指を折り曲げていく。そして最後、全ての指を折り畳んだ瞬間…………
雷と炎が炸裂しこの村を吹き飛ばした。家屋の全ては燃やされ衝撃波によって粉々だが………まぁ、目撃者もいないし大丈夫だろう。言い訳はいくらでもたつ。
「…………サミエルさん、一応家まで送りますけど、警戒は続けてください。」
全てが吹き飛ばされた村にはやはり何もいない。サミエルさんの見間違え………と一蹴するには危険な状況だ。何かがこの村で起こっていると考えた方が安全だろう。俺達はすぐにこの村から離れた。
そして翌日、サミエルさんが行方不明になった。
「…………俺は気づいてはいけないことに気がついてしまった。」
学校の昼休み、参考書を読みながら後ろの遼鋭に話しかける。
「どうしたんだい?これ以上の最悪なんてそうそうないと思うけど。」
「いや、さ?現実世界の俺がこの学校に通っていることがバレたってことはさ、俺さ、現実世界でいつ狙われてもおかしくないってことだよね。」
魔族に対して恨みを抱いている人間が、表面世界では倒せないからって、現実世界で俺を襲うことって十分にあり得るよな?いやだって現実世界の俺ってなんの能力もないし、さらに言えば身体能力は並以下だからね。
「え?今頃?」
「うん。さっき気がついた。」
今の俺の問題点を整理していたら、問題が多すぎることに気がつき、さらに認識していなかった問題点も見つかったわけだ。やばいな俺、死と隣り合わせじゃん今。いちおう、イリナと宏美がいるから並大抵のことはどうにでもなるけれど、拳銃とか使われたら危険にも程がある。
「どど、ど、どうしよう遼鋭。」
「はぁ………だから僕は止めたんだよ。イリナさんに正体をバラすっていうのは、魔王である狩虎からすればとてもリスクがあることなんだ。色んな人に命を狙われているんだからね?自覚持ちなよ、自分が危険な存在だってことをさ。」
「むーーごめんちゃーい。」
俺は教科書を閉じて机に突っ伏した。思ってたよりも現状は深刻だ。それにイリナも俺のせいで身バレしてるし、イリナの方も注意しなきゃいけない。むはーーっ、どうしてくれんのかねこれ。
「そう言えばさ、最近、世の中物騒だよ。昨日なんてガソリンスタンド爆発したらしいぜ?」
近くの席の男の噂話が聞こえてくる。あーこれは町田くんの声だね。古文と漢文だけいつも満点だけど、他はイマイチな町田くん。理系科目が嫌いらしい。
「連続殺人事件も解決してないしなぁ。」
東京で起こっている連続殺人事件の話を今ここでしてどうなると言うのだ。それよりもお前、この学校で殺人事件が起こりうるんだぜ?俺死ぬかもしれないんだからな?表面世界では勇者と名乗っているけれど現実世界ではよく分からん人間に。
「そうそう、あの連続殺人事件って、被害者のドッペルゲンガーが犯人らしいぜ。被害者のドッペルゲンガーが新たな被害者を生み出してるんだって。」
「嘘くせー。なんの都市伝説だよ。つくならもっとマシな嘘つけよ。面白くないぞ。」
「だよなーー…………こんな噂話が流れるぐらいなんだから、この連続殺人事件の捜査は難航してんだろうな。…………そうそう、昨日できたケーキ屋さんなんだけどさ。」
そして流れていく日常会話。自分の身に降りかからない事件の噂話など、時間の無駄でしかない。さっさと別の話題に行くべきなんだ。
「………今の噂話はともかく、君はちゃんと気をつけないとダメだよ。いつ殺されるか分かったもんじゃないんだから。」
「そうだな…………スタンガンでも買っておくか。」
「宏美と毎日一緒に帰ればいいよ。スタンガンよりもずっと強力だよ、彼女。」
「違いねーな。」
そして鳴り響く予鈴。授業が始まり俺は黙った。
「なぁ宏美。」
「なんだ狩虎。」
生徒会が終わり、俺と宏美は帰路についていた。小学校からの幼馴染というのは喋ることがないもんだ。当たり障りのない、今日の授業の内容だったり、面白かったことだったりをナントナク喋り続けていた。
「お前のおかげで助かった、ありがとう。」
イリナが転入してきた初日、俺とイリナの最悪の雰囲気を宏美は怒ってくれた。あれがなかったら、きっと俺とイリナは今頃、最悪の雰囲気のまま表面世界で冒険していただろう。
「なんだいきなり……….幼馴染として当然のことをしたまでだ。」
宏美は屈託もなく笑う。だから俺は、お前はとても凄い人間だと思うんだ。才能があるとか、美人だとか、そういうのを差し置いて、お前のそういう性格はたくさんの人を救ってきた。凄いよお前。
俺は何も言わずに前を見つめる。褒めたって変わらない。だってずっと、俺は宏美と遼鋭を誉めて生きてきたのだから。2人は俺なんかよりもずっと優れていて………尊敬されている。
「…………なぁ、狩虎。」
そして宏美も前を向きながら歩き続ける。オレンジ色の夕焼けは、長く長く俺たちの影を引き伸ばす。
「有耶無耶にするってことはできないのか?………本当に死ななきゃいけないのか、お前が。」
伸びる影。それを揺らそうと風が一陣、吹き乱れた。
「俺は俺が1番嫌いだ。…………宏美なら分かってるだろ。」
「そうだけど…………」
俺は立ち止まった。夕日によって伸びる影だけが、揺ら揺らと動いている。陽が落ちる…………闇を引き連れて。
「俺は殺される。それが俺の罪だ。」
そしてまた、俺は歩き始めた。
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