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魔王との邂逅編
その名も黒垓白始
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「行かないとダメ?実は行かないという選択肢もあるんじゃないです?」
「その選択肢はろくなことが起きないから実質ないのと変わりないんだよね。君は今最高に疑われてるんだから」
勇者領の中心地へと向かいながら俺達は会話をしていた。魔剣を使えることが発覚してから1日が経過し、当然魔族だと疑われている俺は勇者領に呼び出されたのだ。
「魔剣使えちゃっただけじゃん。別にそんな疑わなくても……使えただけだよ?」
「勇者領の内部に魔族がいるってだけでアウトじゃない?普通に考えて」
「その普通が間違っているかもしれないだろ?魔族以外が魔剣使える例とかありえるじゃん」
「私は知らないけどね」「俺もだ」
どうしたもんかなぁ。イリナとの会話もぎこちないし、これからお偉いさんがたとの圧迫面接が待ってるわけだし…………憂鬱だよね。
「………………」
「………………」
無言で歩き続ける時間が続いた。
「…………なんで魔族であることを秘密にしてたの?」
3分ぐらい経ってようやくイリナが口を開いた。
「………自分が勇者なのか魔族なのかも分からなかっただけさ。俺は基本的にこの世界に来ないから知識とか全然ないんだ」
「なんで?」
「だって楽しくないじゃんここ。なんでか分からんけど勇者と魔族が争って、なぜか魔物も襲ってきて……戦うことしかできないこんな世界は好きじゃない」
もし現実に魔法があれば俺は大喜びすることだろう。空を飛んで、瞬間移動して、なんか凄いものをだして遊びあかしていただろう。でも本当はそんな子供みたいな考え方で世界は回っていなくて、俺が遊ぶよりも前に軍事利用や独占の為の戦争が頻発する気がする。結局、新たな技術や力は争いの種にしかならない。この表面世界だけがそうなのではなく、魔法が見つかればどの世界でも戦争をするはずなのだ。価値を生み出すのはいつだって優位性だ。
「俺はこんな世界に干渉せずに現実で頑張って生きていたんだ。でも一年前からカイの記憶を夢として見るようになった」
「そして小説を書いたわけだ」
「ああ……別にイリナに会いたかったわけじゃない。ただ義務を感じていたんだ。だってそうだろ?唐突に他人の記憶が頭の中に流れてくるんだ、何かがあるんだと感じずにはいられないじゃないか。そのなにかが俺にはさっぱり分からないけれど、理由がきっとそこにはあって………だから小説を書いた。その不明な理由を知る為に」
俺は後ろめたくなって前だけを見つめ続けた。イリナも俺をどう見ていいのか分からなくて前だけを見つめる。
「…………本当はもっとたくさんのことを君に聞かなきゃいけないんだと思う。君が味方なのかどうかを確認するためにはもっとたくさんの言葉を互いにぶつけなきゃいけない。…………でも、今の私はこの一言だけでいいんだ。たった一つの質問を…………これだけは嘘をつかずに答えて」
イリナの視線が首筋に当たっているのを感じた俺は、ゆっくりと振り向きイリナを直視した。視線が交錯する。
「君は本当に、私と一緒に炎帝を倒してくれるの?」
「…………………」
そうだ、結局この言葉に落ち着くのだ。俺が魔族だろうと、勇者だろうと、イリナがやらなきゃいけないことはこれなのだ。自身の過去に決着をつけること。復讐を果たすこと。……罪を償わせること。そうしないとイリナは前に進めない。
「勿論だ。何が起ころうと俺とイリナで炎帝を倒すぞ」
その為に俺はお前に会いにきたんだ。
その先の言葉は俺の中に消えていった。
勇者領の中心地には巨大な城が建設されている。白を基調とした厳かな城だ。そこには勇者の重役と勇者全ての頂点に君臨する王が居座っており、争いが頻発するこの世界ではどこよりも安全な場所となっていた。その為、金を持っているもの、権力を持っているものがここに住み着き勇者領全域の中で1番栄えた街となっていた。城の名は[剣戟の城ホワイトドリーム]。そしてこの城下街には名前がないのだが、誰が名付けたのかいつの間にかこう呼ばれるようになっていた。キープタウンと。
「ふぁーーでっけぇ」
剣戟の城を見上げる。高さは300mはあるな。それにこの城下町を囲うように設置された巨大な壁もある。階級が高い勇者が常駐しているとなると………確かにここが1番安全そうだ。どんだけ地価や物価が高いんだろうなぁ。ちょっと気になる。
「カイの記憶で腐るほど見たでしょ、こんなところ」
「自分の目で自由に見れる感動が勝ってるんだよ。写真で見るのと実際に見るのとじゃあ気分が違うだろ?」
「私はそんなに写真とか撮らないから分からないかなぁ」
「まぁ俺も共有できる人が少ないから写真とか撮らないんだけどな。」
「じゃあなんで昨日はカメラを持ってたのさ」
「そりゃあイリナのパン………戦場の取材をする為に買ったんだ」
大丈夫か?軌道修正できたか?俺はイリナの方を見っ!
「壊れてよかったよあんなカメラ」
イリナの右ストレートがクリーンヒットして俺は悶絶した!気のせいかいつもよりも痛い!全然手加減してくれてないんだけどこの人!俺が魔族だからって…………人を肩書きだけで判断するのは良くないと思いますよ!
「ねぇ、あれイリナさんじゃない?」「うわっ本当だ」「じゃあ隣の人が?」
聞こえてくる道ゆく人々の声。イリナが有名人なのはともかく、昨日の戦いによって俺も有名になってしまったようだ。よくないなぁ。俺が魔族だと大々的にバレてるのは非常に良くない。
「………まぁ、こうなるのはしかたないよね。君が魔族だと隠したかったのにも納得がいくってもんだよ。ねっ?」
「…………はい?」「…………あれ?」
イリナが振り向くとそこに俺はおらず、よく分からない人が立っていた。そして、そんな光景を20mぐらい離れたところから眺めている俺。
「すまん、勝手に魔剣の能力が発動したみたいだ。俺も全然制御できなくて……」
イリナの元に小走りで向かう。そしてたどり着いた所は、これまたイリナから20m離れた場所だ。辿り着いたと同時に俺と他人の位置が入れ替わったみたいだ。
「………………」
「………………」
もう一回俺は小走りで向かう。そしてまた俺と他人の位置が入れ替わり、俺とイリナが20m離れた状態になる。
俺は腰に佩びていた魔剣を取り出し目玉をマジマジと眺めた。
「…………お前もしかして光剣に近づきたくないの?」
「………………」
魔剣は返事をしない。まぁ目しかないのだから返事をしようもないのだが、昨日から開眼しっぱなしだった目が今だけは閉じ切ったままなのが納得いかない。無視してんのかこいつ。
「イリナーこいつを光剣でぶった斬ってくんない?」
ギョロッ!
魔剣の目が見開き俺をガン見してくる。「やめろ!」と言わんばかりにガン見してくる。必死こいて作った最高傑作のプラモデルを、バカで無知な奴が手袋もつけずにベタベタと触る様を無言で見つめるオタクみたいな目つきで!
「……………光剣、嫌いなの?」
「………………」
そしてまた目を閉じて俺の言葉を無視する魔剣。ふざけてんのかこいつ…………
「ひとまずさ、人と人の位置を入れ替える能力しか使わないみたいだから、なるべく他の人達に近づかないでもらおうよ」
「どうやってすんだよそんなこと」
「そりゃあ………」
俺の胸と背中に[近づかないで下さい!近づいたらぶっ殺します!]って書かれた紙を貼られた。おかげで誰も近づいてこなくなったが、なんか陰口が増えた気がするんだよなぁ。聞こえてくるわけじゃないけど、いや、やばいやん?こんな紙貼り付けた人間が歩いてるとかシンプルにやばいやん?それに俺、魔族だってバレてるんだよ?もっとマシな方法なかったの?
「なぁ………面白がってるだろ」
「いや、全然?何も面白くないけどさ、私よりも前に出ないでね。君の背中見ちゃうと笑っちゃうからさ」
「面白がってるじゃないか!」
紙を引きちぎると地面に叩きつけた!
「絶対に俺を貶める気だろこれ!気遣いとか一切感じられないんだけど!もっとないのかマシな方法!」
「えーー………あとは君を殺して死体に変えて魔剣の対象外にするしか………」
「生きてなきゃ意味ないでしょ!根本的に終わってんの!」
「じゃあどうしろってのさ」
「こっちが聞いてんだよ!」
「ふっふっふっ…………どうやらオラの出番のようっすね!」
シュバッ!
小さな影が一つ、建物の屋根から躍り出た!
「王様の命令で馳せ参じた黒垓白始っす!以後お見知り置きを!」
「あっ」「あっ」
空中の黒垓君と俺の位置が変わり、いつの間にか空中にいた俺はなす術なく地面に叩きつけられた。
「その選択肢はろくなことが起きないから実質ないのと変わりないんだよね。君は今最高に疑われてるんだから」
勇者領の中心地へと向かいながら俺達は会話をしていた。魔剣を使えることが発覚してから1日が経過し、当然魔族だと疑われている俺は勇者領に呼び出されたのだ。
「魔剣使えちゃっただけじゃん。別にそんな疑わなくても……使えただけだよ?」
「勇者領の内部に魔族がいるってだけでアウトじゃない?普通に考えて」
「その普通が間違っているかもしれないだろ?魔族以外が魔剣使える例とかありえるじゃん」
「私は知らないけどね」「俺もだ」
どうしたもんかなぁ。イリナとの会話もぎこちないし、これからお偉いさんがたとの圧迫面接が待ってるわけだし…………憂鬱だよね。
「………………」
「………………」
無言で歩き続ける時間が続いた。
「…………なんで魔族であることを秘密にしてたの?」
3分ぐらい経ってようやくイリナが口を開いた。
「………自分が勇者なのか魔族なのかも分からなかっただけさ。俺は基本的にこの世界に来ないから知識とか全然ないんだ」
「なんで?」
「だって楽しくないじゃんここ。なんでか分からんけど勇者と魔族が争って、なぜか魔物も襲ってきて……戦うことしかできないこんな世界は好きじゃない」
もし現実に魔法があれば俺は大喜びすることだろう。空を飛んで、瞬間移動して、なんか凄いものをだして遊びあかしていただろう。でも本当はそんな子供みたいな考え方で世界は回っていなくて、俺が遊ぶよりも前に軍事利用や独占の為の戦争が頻発する気がする。結局、新たな技術や力は争いの種にしかならない。この表面世界だけがそうなのではなく、魔法が見つかればどの世界でも戦争をするはずなのだ。価値を生み出すのはいつだって優位性だ。
「俺はこんな世界に干渉せずに現実で頑張って生きていたんだ。でも一年前からカイの記憶を夢として見るようになった」
「そして小説を書いたわけだ」
「ああ……別にイリナに会いたかったわけじゃない。ただ義務を感じていたんだ。だってそうだろ?唐突に他人の記憶が頭の中に流れてくるんだ、何かがあるんだと感じずにはいられないじゃないか。そのなにかが俺にはさっぱり分からないけれど、理由がきっとそこにはあって………だから小説を書いた。その不明な理由を知る為に」
俺は後ろめたくなって前だけを見つめ続けた。イリナも俺をどう見ていいのか分からなくて前だけを見つめる。
「…………本当はもっとたくさんのことを君に聞かなきゃいけないんだと思う。君が味方なのかどうかを確認するためにはもっとたくさんの言葉を互いにぶつけなきゃいけない。…………でも、今の私はこの一言だけでいいんだ。たった一つの質問を…………これだけは嘘をつかずに答えて」
イリナの視線が首筋に当たっているのを感じた俺は、ゆっくりと振り向きイリナを直視した。視線が交錯する。
「君は本当に、私と一緒に炎帝を倒してくれるの?」
「…………………」
そうだ、結局この言葉に落ち着くのだ。俺が魔族だろうと、勇者だろうと、イリナがやらなきゃいけないことはこれなのだ。自身の過去に決着をつけること。復讐を果たすこと。……罪を償わせること。そうしないとイリナは前に進めない。
「勿論だ。何が起ころうと俺とイリナで炎帝を倒すぞ」
その為に俺はお前に会いにきたんだ。
その先の言葉は俺の中に消えていった。
勇者領の中心地には巨大な城が建設されている。白を基調とした厳かな城だ。そこには勇者の重役と勇者全ての頂点に君臨する王が居座っており、争いが頻発するこの世界ではどこよりも安全な場所となっていた。その為、金を持っているもの、権力を持っているものがここに住み着き勇者領全域の中で1番栄えた街となっていた。城の名は[剣戟の城ホワイトドリーム]。そしてこの城下街には名前がないのだが、誰が名付けたのかいつの間にかこう呼ばれるようになっていた。キープタウンと。
「ふぁーーでっけぇ」
剣戟の城を見上げる。高さは300mはあるな。それにこの城下町を囲うように設置された巨大な壁もある。階級が高い勇者が常駐しているとなると………確かにここが1番安全そうだ。どんだけ地価や物価が高いんだろうなぁ。ちょっと気になる。
「カイの記憶で腐るほど見たでしょ、こんなところ」
「自分の目で自由に見れる感動が勝ってるんだよ。写真で見るのと実際に見るのとじゃあ気分が違うだろ?」
「私はそんなに写真とか撮らないから分からないかなぁ」
「まぁ俺も共有できる人が少ないから写真とか撮らないんだけどな。」
「じゃあなんで昨日はカメラを持ってたのさ」
「そりゃあイリナのパン………戦場の取材をする為に買ったんだ」
大丈夫か?軌道修正できたか?俺はイリナの方を見っ!
「壊れてよかったよあんなカメラ」
イリナの右ストレートがクリーンヒットして俺は悶絶した!気のせいかいつもよりも痛い!全然手加減してくれてないんだけどこの人!俺が魔族だからって…………人を肩書きだけで判断するのは良くないと思いますよ!
「ねぇ、あれイリナさんじゃない?」「うわっ本当だ」「じゃあ隣の人が?」
聞こえてくる道ゆく人々の声。イリナが有名人なのはともかく、昨日の戦いによって俺も有名になってしまったようだ。よくないなぁ。俺が魔族だと大々的にバレてるのは非常に良くない。
「………まぁ、こうなるのはしかたないよね。君が魔族だと隠したかったのにも納得がいくってもんだよ。ねっ?」
「…………はい?」「…………あれ?」
イリナが振り向くとそこに俺はおらず、よく分からない人が立っていた。そして、そんな光景を20mぐらい離れたところから眺めている俺。
「すまん、勝手に魔剣の能力が発動したみたいだ。俺も全然制御できなくて……」
イリナの元に小走りで向かう。そしてたどり着いた所は、これまたイリナから20m離れた場所だ。辿り着いたと同時に俺と他人の位置が入れ替わったみたいだ。
「………………」
「………………」
もう一回俺は小走りで向かう。そしてまた俺と他人の位置が入れ替わり、俺とイリナが20m離れた状態になる。
俺は腰に佩びていた魔剣を取り出し目玉をマジマジと眺めた。
「…………お前もしかして光剣に近づきたくないの?」
「………………」
魔剣は返事をしない。まぁ目しかないのだから返事をしようもないのだが、昨日から開眼しっぱなしだった目が今だけは閉じ切ったままなのが納得いかない。無視してんのかこいつ。
「イリナーこいつを光剣でぶった斬ってくんない?」
ギョロッ!
魔剣の目が見開き俺をガン見してくる。「やめろ!」と言わんばかりにガン見してくる。必死こいて作った最高傑作のプラモデルを、バカで無知な奴が手袋もつけずにベタベタと触る様を無言で見つめるオタクみたいな目つきで!
「……………光剣、嫌いなの?」
「………………」
そしてまた目を閉じて俺の言葉を無視する魔剣。ふざけてんのかこいつ…………
「ひとまずさ、人と人の位置を入れ替える能力しか使わないみたいだから、なるべく他の人達に近づかないでもらおうよ」
「どうやってすんだよそんなこと」
「そりゃあ………」
俺の胸と背中に[近づかないで下さい!近づいたらぶっ殺します!]って書かれた紙を貼られた。おかげで誰も近づいてこなくなったが、なんか陰口が増えた気がするんだよなぁ。聞こえてくるわけじゃないけど、いや、やばいやん?こんな紙貼り付けた人間が歩いてるとかシンプルにやばいやん?それに俺、魔族だってバレてるんだよ?もっとマシな方法なかったの?
「なぁ………面白がってるだろ」
「いや、全然?何も面白くないけどさ、私よりも前に出ないでね。君の背中見ちゃうと笑っちゃうからさ」
「面白がってるじゃないか!」
紙を引きちぎると地面に叩きつけた!
「絶対に俺を貶める気だろこれ!気遣いとか一切感じられないんだけど!もっとないのかマシな方法!」
「えーー………あとは君を殺して死体に変えて魔剣の対象外にするしか………」
「生きてなきゃ意味ないでしょ!根本的に終わってんの!」
「じゃあどうしろってのさ」
「こっちが聞いてんだよ!」
「ふっふっふっ…………どうやらオラの出番のようっすね!」
シュバッ!
小さな影が一つ、建物の屋根から躍り出た!
「王様の命令で馳せ参じた黒垓白始っす!以後お見知り置きを!」
「あっ」「あっ」
空中の黒垓君と俺の位置が変わり、いつの間にか空中にいた俺はなす術なく地面に叩きつけられた。
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