冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第二章

第二十八話

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「はぁッ!」
 フィル姉からもらったポーションを飲み、モンスターの大群、その第二波を相手に奮戦するが、その勢いは未だ衰えない。
 モンスターボット。突如、前触れもなくモンスターが大量発生する現象で、戦っているうちに逃げることも不可能になり、嵐が去るのを待つか殲滅するかのニ択を迫られる。
「がはぁッ⁉」
 何とか目の前のワームの大群を骸に変えた直後、背後からオーガの重い一撃を食らい遠くまで吹き飛ばされた。
 既にポーションは尽きて、ここで起き上がらないと死が確定した現状で。
『起きよ』
 頭の中に、声が響いた。
 もう限界か?
『我の言葉は聞こえているのだろう? 無視するでない』
 ん?
 よく聞くと、その声はどうやら俺の頭の中に、直に聞こえてきているらしい。幻聴の類じゃないのか。
「誰だ?」
『我は覇王。かつて、この世を統べた王である』
「……。それで、何の用だ? 俺は今忙しいんだが?」
『ふん、礼儀のなってない愚か者が。まぁよい。一つ提案があるのだが?』
「提案だと?」
『そうだ。我は、汝に力を与えよう』
「見返りに何を求める?」
『ふん、人間じゃあるまいし、我は見返りなど求めぬ。ただ、我の器たる貴様が死ぬのは、我にとっても不都合なだけ』
「器?」
『今は気にしなくてよい。それより、どうする? 力を欲するか? 我の力であれば、必ずこの場を制圧できると誓おう』
「そうか。だが断る」
 そんな得体のしれない力に身を任せたが最後、死にました。なんてオチは洒落にならない。
『なぜだ⁉ 我の力だぞ⁉ 強いのだぞ⁉』
 なんだろう。出会った時のセレナと同じ匂いを感じる。これは、なんとしてもマウントを取られるわけにはいかない。
「お前が、俺に死なれちゃ困るんだろ? なら、お前が俺に頼め。そうすれば、力を借りてやらないこともない」
『我を相手に借りてやる、だと⁉ 貴様、何様のつもりだ⁉』
 頭の中で憤慨する声が聞こえるが、知ったことではない。
「いやなら別にいい。俺は人間、冒険者。ここで死ぬのであれば、俺はその運命を受け入れるが?」
『ぐぬぬ。自分の命を人質にするとは卑怯な奴め!』
「なんとでも言え。で、どうするんだ?」
 数秒の時、頭の中の声が途絶える。というよりも、悩んでいるのかくぐもった声が聞こえてくる。
『ええい! しょうがない。死んでは元も子もないからな! 貴様に我の力を貸そうではないか。光栄に思え!』
「は? 頼む立場だよな、お前? なんで上からものを言われなくちゃいけない?」
 体の中で湧きあがろうとしていた謎の力を、体内魔力を操作して強引に押しとどめた。
『貴様、我が力を跳ねのけたのか⁉』
「さっさとしろ。俺も、お前なんかと話をしている時間は惜しいんだ」
 こう話をしている間にも、敵の攻撃は止まない。とはいえ、反撃はせずにひたすら回避しているだけなので、それほど難しくもないのだが。
『あー、分かった! 我が力を使ってください! そして、死なないでください!』
「よく言えたな。それじゃあ、その御自慢の力とやらを使ってやる。よこせ!」
 俺の中に、先ほどは拒絶した力が湧き上がる。
 俺の最大出力の魔法よりも強く、そこから湧いてくるかのような力が際限なく体を包み込む。
『これぞ、我が力だ! さぁ、眼前の敵を撃ち滅ぼすとよい!』
「ああ、これならいける!」
 力の正体は不明だが、ポーションも救援も望めないこの現状では、この力が最後の望みだ。賭けるしかない。
 俺は全身を奮い立たせ、最後の大勝負へ身を躍らせた。

「さぁて、レインはどこかな?」
 フィルは10階層に足を踏み入れた。
 あれほど過保護なフィルがレインの危機を知りながらも、なぜこうして余裕を保っているのか。それは、レインに渡したフィルお手製の装備に秘密があった。
 簡単に言うと、フィルのみが感知できるレインの現在地と生存を確認する魔法が付与されている。なので、それに従って今はレインの元まで歩いているのだった。
「あ、いたいた」
 レインは砂の上でうつぶせで倒れていた。駆け寄って仰向けにするが、首がグニャリと折れた。気を失っているようである。
「よく頑張ったね。でもこれで、レインはようやく一歩を踏み出した」
 冒険者は冒険してなんぼ。こうして危険を早いうちに経験しておくのは、冒険者としてとても大切な要素の一つであると、Ⅱ等級冒険者であるフィルは知っている。
 レインの砂まみれになった髪を撫でながら、フィルは微笑む。
「頑張ってくれて、ありがとうね。でも、無理は禁物なんだから」
 レインが自分のために頑張ってくれていることは、フィルの目にはしっかりと映っていた。でも、こうして誰かのために無茶をするのが悪く、そして時として美点であることも理解している。
「まったく。でも、そんなレインが大好きだよ」
 フィルはレインの体を抱きしめると、抱えなおす。そして9階層への通路を降りるのだった。
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