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第二章
第二十二話
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「あ、皆さんお帰りなさい!」
ギルドに着くと、出迎えてくれたのはナナさんだった。
「ただいま、ナナさん」
セレナが返事を返すのを聞きながら、カウンターの奥を覗く。
「ああ、ティナですか? 今日は早退しましたよ」
俺の動きで察したのか、ナナさんが先回りして答えてくれる。
「早退ですか?」
「はい。なんでも、お母さんの具合が悪くなったとか」
「ああ、そうなんですね」
今日の朝の話ではそんなに重く捉えなくてもいい、風邪をこじらせただけ、ぐらいの認識だったが、早退するほど悪化したのか?
「ティナさんから、何か聞いていませんか?」
「うん? とくには聞いてないですけど」
「そうですか……」
「レイン、心配なのはわかるけど早合点しないことよ。単に少し悪化して、看病に戻っただけかもしれないでしょ?」
「まぁ、そうだけどな」
リアの言うことはもっともだが、俺の胸には何かもやもやとした、漠然とした嫌な予感というものが渦巻いていた。
「それじゃあ、今日のクエストの報告を聞いちゃいますね」
この予感が当たらないことを祈りつつ、ギルドを後にするのだった。
その翌日。俺は一人、集合時間よりも早くギルドを訪れていた。
ティナさんのことが気がかりだったからだが、昨日の予感は良くも悪くも当たらなかった。
「ティナなら休みよ」
俺を見つけたアルマさんが、開口一番そういった。
「お母さんの病気、良くならないんですか?」
「そうみたいね。今日の朝一番にきて休暇届出してたけど、顔色はお世辞にも良かったとは言えないから。それに、なんだか随分と慌ててたみたいだし」
「そうですか……」
予感は当たっていない。が、外れてもいない。ただ先延ばしになっただけだ。
「レイン君」
「はい?」
「これは、部外者の私が言う事じゃないのかもしれないけれど。レイン君はティナのことを大切に思ってるみたいだし、一応伝えておくわ。お節介な年上からの忠告とでも聞き流しておいて?」
「はぁ」
よくわからなかったが、アルマさんの目は真剣だ。けれど、その目から優しさが伝わってくる。
「これはティナにも伝えたことだけど、自分の相棒は何があっても、最後まで味方する。信じてあげること。レイン君は、ティナが困っていたら、助けてくれる?」
「もちろんです。俺は、ティナさんがサポーターになってくれたから、今日までこうして冒険者やれてるんです。だから、もしも困っていたのだとしたら、俺は助けます。持ちうる限り、全力で」
俺の答えを聞いて、アルマさんは微笑んだ。
「そう。どこかの誰かにそっくりね」
「え?」
「いいえ、なんでもないわ。それよりも、時間は大丈夫?」
「あ、やばッ」
ギルドのカウンターの上に取り付けられた時計は、集合時間を五分すぎた時刻を示していた。
「気を付けてね」
「はいッ! ありがとうございました!」
セレナに文句言われなきゃいいけど。
俺は集合場所に急いだ。
そして翌日、ギルドにて。
「ティナさん!」
昨日に続いて俺は朝早く家を出てティナさんに会いに来ていた。
「あ、レインさん……」
無事に会えたティナさんは、しかし無事といっていいのかわからないほど顔色が悪く、憔悴しているのが分かった。
「どうしたんですか? 体調が悪いとか?」
お母さんが病気で、それがうつったとも考えられる。というか、それくらい顔色が悪い。暗いところで出会ったら、軽くホラーだ。
「えっと……」
ティナさんはなんと説明すべきか悩んでいるようだった。
「ティナさん、もしよかったら話してくれませんか? 俺は冒険者です。できる限り、力になりますから」
「レインさん……」
俺の言葉を受けて。その後少しの逡巡を見せたものの、ティナさんは口を開いて説明してくれた。
「実は……」
集合時間になって、俺はリア、セレナと合流した。
「二人に聞いてほしい話があるんだ」
「改まって、何か相談かしら?」
「どうしたの?」
俺は、首を傾げる二人にティナさんから聞いた話を伝える。
ティナさんの母親は、当初普通の風邪だと思われたものの、翌日になっても様態が良くならず、病院に行ったという。すると、そこである診断がくだった。
その病気自体は既に薬が完成しているのらしいが、その薬が高い。なんでも、オーガの心臓が使われるらしい。
それも、採取してからそれほど時間のたっていない、新鮮なものが。
薬一つ、金貨十枚。一ギルド職員であるティナさんには、その薬を買えるような余裕はない。
かといってクエストとして発注しても、クエスト報酬と調合料で同じくらいかかってしまう。
が、その薬がなくてはティナさんのお母さんは持ってあと一週間の命なのだという。
「だから、俺はオーガを狩りに行こうと思う」
「はぁ、言うと思ったわ」
「レイン⁉ オーガって、中層だよ? 今の私たちはまだ3階層。無理なんじゃ……」
呆れながら溜息をつくリア。セレナは手を振りながら無謀だと表明する。
「セレナの言うことはもっともだ。だから、別についてきてくれ、なんていう気はない。俺が頼みたいのは、しばらくパーティから抜ける許可だ」
俺の意思表明に、二人は顔を見合わせる。
「レイン、本気? 中層まであなた一人で行くつもり?」
「無茶だよ。中層って、ここまでと全然違うんでしょ? レインは強いけど、一人じゃあ帰ってこれる保証なんて」
二人とも、俺のことを心配してくれているのが伝わってくる。
が、俺は譲るつもりがない。セレナのときもそうだったが、俺自身が救ってもらった側の人間だからだ。
俺の手の届く範囲で助けられるのであれば、俺はその手を取り続けたい。
「俺は行く」
「死ぬ覚悟はあるの?」
「ない。そんなもの持ってるくらいなら、最初から行かない。俺は帰ってくる。そして、ティナさんのお母さんを救う」
「よくも会ったことのない人のために、そこまでできるわね? でもいいわ。そういう事なら付き合うわ」
リアは予想外の答えを返してきた。
てっきり断られると思ってたんだけど……。
「危険だぞ?」
「承知の上よ。レイン、私はね。あなたに憧れたからパーティを組んだのよ?」
「憧れた?」
「そう。貴方がテストのとき、見ず知らずの人を助けていたでしょう? 私はね、そんなことしようとすら思わなかった。人間は自分がかわいい。でも、貴方は違った。私の知る人間とは、在り方が違った。だから、興味を持った。そして、こうしてパーティを組んだ。そうやって過ごすうちに、興味は憧れに代わったの」
リアの目元には、優しい笑みが浮かんでいた。
が、俺はその目を直視できない。
「俺だって、自分がかわいいぞ? リアの思うほどできた人間じゃない」
あの時だって、クリアまで余裕があるから助けただけだ。クリアできるかわからない状況では、俺だって助けていない。
「でも、貴方はそれでもセレナを助けた。確かに、貴方は一人の命を助けたのよ」
リアは背後のセレナを指さした。
「ま、まぁ。私はレインに助けてもらった恩もあるので、行くってことなら着いていくけど」
「セレナ……」
セレナは2階層で死にかけている。だから、今回の探索には巻き込むつもりはなかった。
けど、付いてくるといってくれた。
「レイン。オーガ討伐の件、私たちが手を貸すわ。パーティでしょ?」
にっこりと笑みを浮かべて、手を差し出してくるリア。
「ありがとう」
俺はその手を握った。
「あ、私も行くからね⁉」
その上に、慌ててセレナの手が乗せられた。
「よし、そうと決まれば準備だ」
「その前に、レイン? その調合? って、あてはあるの?」
「それなら心配ない。これ以上ないくらいの適任を知ってる」
尋ねてきたセレナに、俺は笑みを浮かべた。
向かうはフィル姉のいる我が家だ。
ギルドに着くと、出迎えてくれたのはナナさんだった。
「ただいま、ナナさん」
セレナが返事を返すのを聞きながら、カウンターの奥を覗く。
「ああ、ティナですか? 今日は早退しましたよ」
俺の動きで察したのか、ナナさんが先回りして答えてくれる。
「早退ですか?」
「はい。なんでも、お母さんの具合が悪くなったとか」
「ああ、そうなんですね」
今日の朝の話ではそんなに重く捉えなくてもいい、風邪をこじらせただけ、ぐらいの認識だったが、早退するほど悪化したのか?
「ティナさんから、何か聞いていませんか?」
「うん? とくには聞いてないですけど」
「そうですか……」
「レイン、心配なのはわかるけど早合点しないことよ。単に少し悪化して、看病に戻っただけかもしれないでしょ?」
「まぁ、そうだけどな」
リアの言うことはもっともだが、俺の胸には何かもやもやとした、漠然とした嫌な予感というものが渦巻いていた。
「それじゃあ、今日のクエストの報告を聞いちゃいますね」
この予感が当たらないことを祈りつつ、ギルドを後にするのだった。
その翌日。俺は一人、集合時間よりも早くギルドを訪れていた。
ティナさんのことが気がかりだったからだが、昨日の予感は良くも悪くも当たらなかった。
「ティナなら休みよ」
俺を見つけたアルマさんが、開口一番そういった。
「お母さんの病気、良くならないんですか?」
「そうみたいね。今日の朝一番にきて休暇届出してたけど、顔色はお世辞にも良かったとは言えないから。それに、なんだか随分と慌ててたみたいだし」
「そうですか……」
予感は当たっていない。が、外れてもいない。ただ先延ばしになっただけだ。
「レイン君」
「はい?」
「これは、部外者の私が言う事じゃないのかもしれないけれど。レイン君はティナのことを大切に思ってるみたいだし、一応伝えておくわ。お節介な年上からの忠告とでも聞き流しておいて?」
「はぁ」
よくわからなかったが、アルマさんの目は真剣だ。けれど、その目から優しさが伝わってくる。
「これはティナにも伝えたことだけど、自分の相棒は何があっても、最後まで味方する。信じてあげること。レイン君は、ティナが困っていたら、助けてくれる?」
「もちろんです。俺は、ティナさんがサポーターになってくれたから、今日までこうして冒険者やれてるんです。だから、もしも困っていたのだとしたら、俺は助けます。持ちうる限り、全力で」
俺の答えを聞いて、アルマさんは微笑んだ。
「そう。どこかの誰かにそっくりね」
「え?」
「いいえ、なんでもないわ。それよりも、時間は大丈夫?」
「あ、やばッ」
ギルドのカウンターの上に取り付けられた時計は、集合時間を五分すぎた時刻を示していた。
「気を付けてね」
「はいッ! ありがとうございました!」
セレナに文句言われなきゃいいけど。
俺は集合場所に急いだ。
そして翌日、ギルドにて。
「ティナさん!」
昨日に続いて俺は朝早く家を出てティナさんに会いに来ていた。
「あ、レインさん……」
無事に会えたティナさんは、しかし無事といっていいのかわからないほど顔色が悪く、憔悴しているのが分かった。
「どうしたんですか? 体調が悪いとか?」
お母さんが病気で、それがうつったとも考えられる。というか、それくらい顔色が悪い。暗いところで出会ったら、軽くホラーだ。
「えっと……」
ティナさんはなんと説明すべきか悩んでいるようだった。
「ティナさん、もしよかったら話してくれませんか? 俺は冒険者です。できる限り、力になりますから」
「レインさん……」
俺の言葉を受けて。その後少しの逡巡を見せたものの、ティナさんは口を開いて説明してくれた。
「実は……」
集合時間になって、俺はリア、セレナと合流した。
「二人に聞いてほしい話があるんだ」
「改まって、何か相談かしら?」
「どうしたの?」
俺は、首を傾げる二人にティナさんから聞いた話を伝える。
ティナさんの母親は、当初普通の風邪だと思われたものの、翌日になっても様態が良くならず、病院に行ったという。すると、そこである診断がくだった。
その病気自体は既に薬が完成しているのらしいが、その薬が高い。なんでも、オーガの心臓が使われるらしい。
それも、採取してからそれほど時間のたっていない、新鮮なものが。
薬一つ、金貨十枚。一ギルド職員であるティナさんには、その薬を買えるような余裕はない。
かといってクエストとして発注しても、クエスト報酬と調合料で同じくらいかかってしまう。
が、その薬がなくてはティナさんのお母さんは持ってあと一週間の命なのだという。
「だから、俺はオーガを狩りに行こうと思う」
「はぁ、言うと思ったわ」
「レイン⁉ オーガって、中層だよ? 今の私たちはまだ3階層。無理なんじゃ……」
呆れながら溜息をつくリア。セレナは手を振りながら無謀だと表明する。
「セレナの言うことはもっともだ。だから、別についてきてくれ、なんていう気はない。俺が頼みたいのは、しばらくパーティから抜ける許可だ」
俺の意思表明に、二人は顔を見合わせる。
「レイン、本気? 中層まであなた一人で行くつもり?」
「無茶だよ。中層って、ここまでと全然違うんでしょ? レインは強いけど、一人じゃあ帰ってこれる保証なんて」
二人とも、俺のことを心配してくれているのが伝わってくる。
が、俺は譲るつもりがない。セレナのときもそうだったが、俺自身が救ってもらった側の人間だからだ。
俺の手の届く範囲で助けられるのであれば、俺はその手を取り続けたい。
「俺は行く」
「死ぬ覚悟はあるの?」
「ない。そんなもの持ってるくらいなら、最初から行かない。俺は帰ってくる。そして、ティナさんのお母さんを救う」
「よくも会ったことのない人のために、そこまでできるわね? でもいいわ。そういう事なら付き合うわ」
リアは予想外の答えを返してきた。
てっきり断られると思ってたんだけど……。
「危険だぞ?」
「承知の上よ。レイン、私はね。あなたに憧れたからパーティを組んだのよ?」
「憧れた?」
「そう。貴方がテストのとき、見ず知らずの人を助けていたでしょう? 私はね、そんなことしようとすら思わなかった。人間は自分がかわいい。でも、貴方は違った。私の知る人間とは、在り方が違った。だから、興味を持った。そして、こうしてパーティを組んだ。そうやって過ごすうちに、興味は憧れに代わったの」
リアの目元には、優しい笑みが浮かんでいた。
が、俺はその目を直視できない。
「俺だって、自分がかわいいぞ? リアの思うほどできた人間じゃない」
あの時だって、クリアまで余裕があるから助けただけだ。クリアできるかわからない状況では、俺だって助けていない。
「でも、貴方はそれでもセレナを助けた。確かに、貴方は一人の命を助けたのよ」
リアは背後のセレナを指さした。
「ま、まぁ。私はレインに助けてもらった恩もあるので、行くってことなら着いていくけど」
「セレナ……」
セレナは2階層で死にかけている。だから、今回の探索には巻き込むつもりはなかった。
けど、付いてくるといってくれた。
「レイン。オーガ討伐の件、私たちが手を貸すわ。パーティでしょ?」
にっこりと笑みを浮かべて、手を差し出してくるリア。
「ありがとう」
俺はその手を握った。
「あ、私も行くからね⁉」
その上に、慌ててセレナの手が乗せられた。
「よし、そうと決まれば準備だ」
「その前に、レイン? その調合? って、あてはあるの?」
「それなら心配ない。これ以上ないくらいの適任を知ってる」
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