21 / 32
第二章
第二十話
しおりを挟む
「クチュンッ!」
鼻をすするセレナ。
「え、何? 風邪?」
突如訪れた寒気に、身を震わせるセレナ。
「というか、それよりも」
今日は3階層へと一緒に冒険に行くはずで、レインとはギルドで待ち合わせていた。予定通りセレナはギルドでレインと落ち合ったのだが。
「悪い、今日の冒険は無しの方向で」
「え? 何か用事?」
「あー、まぁそんなところだ。悪いな!」
「あ、ちょッ⁉」
そう言ってレインは走り去っていった。
急遽今日の冒険がなくなったこと、それとレインが何か隠している気配を感じ取ったセレナは、暇になってしまった時間でレインを尾行することにした。
女の勘、というやつだ。
で、尾行した結果。
「むー、レインのやつ。私との約束をキャンセルした理由が、あの女とお茶をするため?」
セレナはリアを知っている。レインに助けてもらった際、パーティを組んでいて手を貸してくれたというので、ナナと共にお礼に行っていたからだ。
が、それはそれ。これはこれ。
「許すまじ、レイン」
カフェの出入り口が見える路地に身を隠しながら、メラメラと炎を燃やすセレナ。
道行く人は、そんなセレナを見てはスッと視線を外し、足早に通り去っていく。
「あー、むかつく。というか、普通カフェに行くなら私を誘うでしょ? なんであの女と。はッ⁉ まさか……? あの二人、付き合ってるとか? でも見た感じそんなではなかった気がするのよね」
付き合ってるにしては、レインの態度がよそよそしいというか、恋人の距離感ではないというか。
「それにしても、なんで私はこんなにイラつくんだろう? 別に、あいつが休みの日に何してようと勝手なのに」
考えるが、答えなどでない。
「よし、決めた。とりあえず明日文句言ってやる」
そう決めたセレナだったが、結局そのまま身を隠し続ける。
二人が気になって仕方がないセレナだった。
「という訳で。今日からリアが仲間になる」
翌日、ギルド前。
約束の場所であるその場所に、俺はリアと二人で来ていた。リアは俺がこの都市の外から通っていることは知っているので、門で待っていてくれた。
それはともかく。合流したセレナは、それはそれはご機嫌斜めだった。
「おい、セレナ? 怒ってるのか?」
「別に。ただ、私に相談の一つもなくパーティメンバーが増えるんだ、と思ってね」
別にって、思いっきり顔そむけながら言われても全く信憑性がないんですが。
「よろしくね、セレナさん」
対照的に、にこやかな笑顔で握手を求めるリア。が、セレナはその手を取る気がない。
「ねえ、セレナさん。昨日の事、嫉妬してるの?」
「な⁉」
「ん? 昨日の事?」
昨日と言えばリアとカフェに行ったが、セレナは知らないはずだ。
などと考えていると、セレナは引きつった顔をしてリアと握手した。
なんだったんだ?
「さて、レイン。早速ギルドに行きましょ。今日のクエストは何かしら」
「ぐぬぅ……」
笑顔のリア、唸り顔のセレナ。
既に、このパーティにおけるパワーバランスはリアの方が上らしかった。
「おはようございます、ティナさん」
「え? あ、ああ。おはようございます」
俺の姿を捕らえたティナさんが、いつもよりも覇気のない声であいさつを返してくれる。
「あれ? 今日はリアさんもご一緒なんですか?」
「ああ、はい。実は昨日いろいろあって、今日からパーティを組むことになったんですよ」
「そうなんですね。今ミリヤさんとナナさんは席をはずしているので、クエストであれば私がお伺いしますよ」
そう言って、ティナさんがおすすめのクエストをいくつかチョイスしてくれる。
その中には、3階層での討伐クエストもある。
先日の冒険後、既にセレナと二人で3階層へ行きたい旨は伝えてあったので、ピックアップしておいてくれたのだろう。
「これなんてどうかしら?」
リアが選んだのは痺れスライム討伐依頼だった。
スライムというのは、身体の中心に核と呼ばれる人間でいうところの心臓がある。
痺れスライムは、その核に痺れ、敵にスタンの効果を付与する特殊な力を持っている。
依頼は、その核を5つ採取してくるように、ということだ。
「いいな。報酬もそう悪くないし」
「じゃあ、こちらを受領しますね。頑張ってきてください」
そう言ってティナさんは笑顔を向けてくれるのだが。
「ティナさん、大丈夫ですか?」
その笑顔と言い、先ほどの覇気のない挨拶と言い、何か違和感がある。というか、目の下にクマがあるし、疲れているのか?
「へ? 何がですか?」
「いえ、何か疲れているように見えるので」
「あ、あはは。バレちゃいましたか……」
ティナさんの顔に困ったような笑みが浮かぶ。
「何かあるなら、相談に乗りますよ? ティナさんにはこれまで大変お世話になっていますし」
「ああ、いえ。そんな深刻な話じゃないんですよ? 実は、母が風邪をひいてしまって、その看病をしていただけで」
「お母様がご病気ですか。それは大変ですね」
「大丈夫なんですか、ここにいて」
「ああ、はい。今朝家を出る時にはだいぶ良くなってたと思いますし、そこまで心配する必要はないと思います。ただ、それで私が眠れてなくて。心配をかけてごめんなさい」
「平気ですよ。何かあれば言ってください。協力しますから」
「レインさん……。ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします」
少し元気はないものの、笑顔を浮かべるティナさん。
何かあれば頼ってくれるだろうし、今のところは大丈夫か。
そう判断して、俺たちはギルドを後にした。
「そういえばセレナ。さっきは何で黙ってたんだ?」
迷宮3階層を目指す道すがら、俺はセレナに尋ねた。
先のティナさんとの会話のとき、珍しくセレナが黙っていたからだ。
「え? ああ、それは……」
視線を泳がせるセレナを見て、リアが口を開く。
「迷惑かけた自分が、協力しますとか言っていいのかな、とか思ったんじゃないかしら?」
「ちょっと⁉」
慌てるセレナの様子を見る限り、当たりらしい。
というか、変なところで遠慮するよな、セレナって。
「セレナは反省して、今こうして一緒にいるんだろ? なら、変な遠慮なんてするな。仲間だろうが」
「レイン……」
言って恥ずかしいが、ここで赤くなればまたセレナにからかわれる。俺は歩くスピードを速めた。
鼻をすするセレナ。
「え、何? 風邪?」
突如訪れた寒気に、身を震わせるセレナ。
「というか、それよりも」
今日は3階層へと一緒に冒険に行くはずで、レインとはギルドで待ち合わせていた。予定通りセレナはギルドでレインと落ち合ったのだが。
「悪い、今日の冒険は無しの方向で」
「え? 何か用事?」
「あー、まぁそんなところだ。悪いな!」
「あ、ちょッ⁉」
そう言ってレインは走り去っていった。
急遽今日の冒険がなくなったこと、それとレインが何か隠している気配を感じ取ったセレナは、暇になってしまった時間でレインを尾行することにした。
女の勘、というやつだ。
で、尾行した結果。
「むー、レインのやつ。私との約束をキャンセルした理由が、あの女とお茶をするため?」
セレナはリアを知っている。レインに助けてもらった際、パーティを組んでいて手を貸してくれたというので、ナナと共にお礼に行っていたからだ。
が、それはそれ。これはこれ。
「許すまじ、レイン」
カフェの出入り口が見える路地に身を隠しながら、メラメラと炎を燃やすセレナ。
道行く人は、そんなセレナを見てはスッと視線を外し、足早に通り去っていく。
「あー、むかつく。というか、普通カフェに行くなら私を誘うでしょ? なんであの女と。はッ⁉ まさか……? あの二人、付き合ってるとか? でも見た感じそんなではなかった気がするのよね」
付き合ってるにしては、レインの態度がよそよそしいというか、恋人の距離感ではないというか。
「それにしても、なんで私はこんなにイラつくんだろう? 別に、あいつが休みの日に何してようと勝手なのに」
考えるが、答えなどでない。
「よし、決めた。とりあえず明日文句言ってやる」
そう決めたセレナだったが、結局そのまま身を隠し続ける。
二人が気になって仕方がないセレナだった。
「という訳で。今日からリアが仲間になる」
翌日、ギルド前。
約束の場所であるその場所に、俺はリアと二人で来ていた。リアは俺がこの都市の外から通っていることは知っているので、門で待っていてくれた。
それはともかく。合流したセレナは、それはそれはご機嫌斜めだった。
「おい、セレナ? 怒ってるのか?」
「別に。ただ、私に相談の一つもなくパーティメンバーが増えるんだ、と思ってね」
別にって、思いっきり顔そむけながら言われても全く信憑性がないんですが。
「よろしくね、セレナさん」
対照的に、にこやかな笑顔で握手を求めるリア。が、セレナはその手を取る気がない。
「ねえ、セレナさん。昨日の事、嫉妬してるの?」
「な⁉」
「ん? 昨日の事?」
昨日と言えばリアとカフェに行ったが、セレナは知らないはずだ。
などと考えていると、セレナは引きつった顔をしてリアと握手した。
なんだったんだ?
「さて、レイン。早速ギルドに行きましょ。今日のクエストは何かしら」
「ぐぬぅ……」
笑顔のリア、唸り顔のセレナ。
既に、このパーティにおけるパワーバランスはリアの方が上らしかった。
「おはようございます、ティナさん」
「え? あ、ああ。おはようございます」
俺の姿を捕らえたティナさんが、いつもよりも覇気のない声であいさつを返してくれる。
「あれ? 今日はリアさんもご一緒なんですか?」
「ああ、はい。実は昨日いろいろあって、今日からパーティを組むことになったんですよ」
「そうなんですね。今ミリヤさんとナナさんは席をはずしているので、クエストであれば私がお伺いしますよ」
そう言って、ティナさんがおすすめのクエストをいくつかチョイスしてくれる。
その中には、3階層での討伐クエストもある。
先日の冒険後、既にセレナと二人で3階層へ行きたい旨は伝えてあったので、ピックアップしておいてくれたのだろう。
「これなんてどうかしら?」
リアが選んだのは痺れスライム討伐依頼だった。
スライムというのは、身体の中心に核と呼ばれる人間でいうところの心臓がある。
痺れスライムは、その核に痺れ、敵にスタンの効果を付与する特殊な力を持っている。
依頼は、その核を5つ採取してくるように、ということだ。
「いいな。報酬もそう悪くないし」
「じゃあ、こちらを受領しますね。頑張ってきてください」
そう言ってティナさんは笑顔を向けてくれるのだが。
「ティナさん、大丈夫ですか?」
その笑顔と言い、先ほどの覇気のない挨拶と言い、何か違和感がある。というか、目の下にクマがあるし、疲れているのか?
「へ? 何がですか?」
「いえ、何か疲れているように見えるので」
「あ、あはは。バレちゃいましたか……」
ティナさんの顔に困ったような笑みが浮かぶ。
「何かあるなら、相談に乗りますよ? ティナさんにはこれまで大変お世話になっていますし」
「ああ、いえ。そんな深刻な話じゃないんですよ? 実は、母が風邪をひいてしまって、その看病をしていただけで」
「お母様がご病気ですか。それは大変ですね」
「大丈夫なんですか、ここにいて」
「ああ、はい。今朝家を出る時にはだいぶ良くなってたと思いますし、そこまで心配する必要はないと思います。ただ、それで私が眠れてなくて。心配をかけてごめんなさい」
「平気ですよ。何かあれば言ってください。協力しますから」
「レインさん……。ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします」
少し元気はないものの、笑顔を浮かべるティナさん。
何かあれば頼ってくれるだろうし、今のところは大丈夫か。
そう判断して、俺たちはギルドを後にした。
「そういえばセレナ。さっきは何で黙ってたんだ?」
迷宮3階層を目指す道すがら、俺はセレナに尋ねた。
先のティナさんとの会話のとき、珍しくセレナが黙っていたからだ。
「え? ああ、それは……」
視線を泳がせるセレナを見て、リアが口を開く。
「迷惑かけた自分が、協力しますとか言っていいのかな、とか思ったんじゃないかしら?」
「ちょっと⁉」
慌てるセレナの様子を見る限り、当たりらしい。
というか、変なところで遠慮するよな、セレナって。
「セレナは反省して、今こうして一緒にいるんだろ? なら、変な遠慮なんてするな。仲間だろうが」
「レイン……」
言って恥ずかしいが、ここで赤くなればまたセレナにからかわれる。俺は歩くスピードを速めた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる