冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第二章

第二十話

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「クチュンッ!」
 鼻をすするセレナ。
「え、何? 風邪?」
 突如訪れた寒気に、身を震わせるセレナ。
「というか、それよりも」
 今日は3階層へと一緒に冒険に行くはずで、レインとはギルドで待ち合わせていた。予定通りセレナはギルドでレインと落ち合ったのだが。
「悪い、今日の冒険は無しの方向で」
「え? 何か用事?」
「あー、まぁそんなところだ。悪いな!」
「あ、ちょッ⁉」
 そう言ってレインは走り去っていった。
 急遽今日の冒険がなくなったこと、それとレインが何か隠している気配を感じ取ったセレナは、暇になってしまった時間でレインを尾行することにした。
女の勘、というやつだ。
 で、尾行した結果。
「むー、レインのやつ。私との約束をキャンセルした理由が、あの女とお茶をするため?」
 セレナはリアを知っている。レインに助けてもらった際、パーティを組んでいて手を貸してくれたというので、ナナと共にお礼に行っていたからだ。
 が、それはそれ。これはこれ。
「許すまじ、レイン」
 カフェの出入り口が見える路地に身を隠しながら、メラメラと炎を燃やすセレナ。
 道行く人は、そんなセレナを見てはスッと視線を外し、足早に通り去っていく。
「あー、むかつく。というか、普通カフェに行くなら私を誘うでしょ? なんであの女と。はッ⁉ まさか……? あの二人、付き合ってるとか? でも見た感じそんなではなかった気がするのよね」
 付き合ってるにしては、レインの態度がよそよそしいというか、恋人の距離感ではないというか。
「それにしても、なんで私はこんなにイラつくんだろう? 別に、あいつが休みの日に何してようと勝手なのに」
 考えるが、答えなどでない。
「よし、決めた。とりあえず明日文句言ってやる」
 そう決めたセレナだったが、結局そのまま身を隠し続ける。
 二人が気になって仕方がないセレナだった。

「という訳で。今日からリアが仲間になる」
 翌日、ギルド前。
 約束の場所であるその場所に、俺はリアと二人で来ていた。リアは俺がこの都市の外から通っていることは知っているので、門で待っていてくれた。
 それはともかく。合流したセレナは、それはそれはご機嫌斜めだった。
「おい、セレナ? 怒ってるのか?」
「別に。ただ、私に相談の一つもなくパーティメンバーが増えるんだ、と思ってね」
 別にって、思いっきり顔そむけながら言われても全く信憑性がないんですが。
「よろしくね、セレナさん」
 対照的に、にこやかな笑顔で握手を求めるリア。が、セレナはその手を取る気がない。
「ねえ、セレナさん。昨日の事、嫉妬してるの?」
「な⁉」
「ん? 昨日の事?」
 昨日と言えばリアとカフェに行ったが、セレナは知らないはずだ。
 などと考えていると、セレナは引きつった顔をしてリアと握手した。
なんだったんだ?
「さて、レイン。早速ギルドに行きましょ。今日のクエストは何かしら」
「ぐぬぅ……」
 笑顔のリア、唸り顔のセレナ。
 既に、このパーティにおけるパワーバランスはリアの方が上らしかった。

「おはようございます、ティナさん」
「え? あ、ああ。おはようございます」
 俺の姿を捕らえたティナさんが、いつもよりも覇気のない声であいさつを返してくれる。
「あれ? 今日はリアさんもご一緒なんですか?」
「ああ、はい。実は昨日いろいろあって、今日からパーティを組むことになったんですよ」
「そうなんですね。今ミリヤさんとナナさんは席をはずしているので、クエストであれば私がお伺いしますよ」
 そう言って、ティナさんがおすすめのクエストをいくつかチョイスしてくれる。
 その中には、3階層での討伐クエストもある。
 先日の冒険後、既にセレナと二人で3階層へ行きたい旨は伝えてあったので、ピックアップしておいてくれたのだろう。
「これなんてどうかしら?」
 リアが選んだのは痺れスライム討伐依頼だった。
 スライムというのは、身体の中心に核と呼ばれる人間でいうところの心臓がある。
 痺れスライムは、その核に痺れ、敵にスタンの効果を付与する特殊な力を持っている。
 依頼は、その核を5つ採取してくるように、ということだ。
「いいな。報酬もそう悪くないし」
「じゃあ、こちらを受領しますね。頑張ってきてください」
 そう言ってティナさんは笑顔を向けてくれるのだが。
「ティナさん、大丈夫ですか?」
 その笑顔と言い、先ほどの覇気のない挨拶と言い、何か違和感がある。というか、目の下にクマがあるし、疲れているのか?
「へ? 何がですか?」
「いえ、何か疲れているように見えるので」
「あ、あはは。バレちゃいましたか……」
 ティナさんの顔に困ったような笑みが浮かぶ。
「何かあるなら、相談に乗りますよ? ティナさんにはこれまで大変お世話になっていますし」
「ああ、いえ。そんな深刻な話じゃないんですよ? 実は、母が風邪をひいてしまって、その看病をしていただけで」
「お母様がご病気ですか。それは大変ですね」
「大丈夫なんですか、ここにいて」
「ああ、はい。今朝家を出る時にはだいぶ良くなってたと思いますし、そこまで心配する必要はないと思います。ただ、それで私が眠れてなくて。心配をかけてごめんなさい」
「平気ですよ。何かあれば言ってください。協力しますから」
「レインさん……。ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします」
 少し元気はないものの、笑顔を浮かべるティナさん。
 何かあれば頼ってくれるだろうし、今のところは大丈夫か。
 そう判断して、俺たちはギルドを後にした。

「そういえばセレナ。さっきは何で黙ってたんだ?」
 迷宮3階層を目指す道すがら、俺はセレナに尋ねた。
 先のティナさんとの会話のとき、珍しくセレナが黙っていたからだ。
「え? ああ、それは……」
 視線を泳がせるセレナを見て、リアが口を開く。
「迷惑かけた自分が、協力しますとか言っていいのかな、とか思ったんじゃないかしら?」
「ちょっと⁉」
 慌てるセレナの様子を見る限り、当たりらしい。
 というか、変なところで遠慮するよな、セレナって。
「セレナは反省して、今こうして一緒にいるんだろ? なら、変な遠慮なんてするな。仲間だろうが」
「レイン……」
 言って恥ずかしいが、ここで赤くなればまたセレナにからかわれる。俺は歩くスピードを速めた。
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