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第八話~side楓~
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「彼氏、ねぇ?」
ボスンと、自室のベッドにダイブした楓が、天井を見上げながら溜息と共に呟いた。
楓が所属しているグループは、クラスカースト上位のグループだ。そう言ったグループでは、大抵の場合彼氏=ステータスの一種である。それも、ただの彼氏ではダメで、イケメンであることが要求される。
……はぁ、くだらな。
いつもいつも繰り返される、グループ内での彼氏自慢の話を思い出して、楓はそう吐き捨てた。
楓は、自分の容姿が並よりも優れていることを自覚している。だから、そこそこの容姿の男だって、あのグループにいればこれまでそれなりに寄ってきた。
そんな楓が彼氏を作らない理由は、学校で使っている建前のように、女の方が好きだとか、男に興味が無い、なんてことではなかった。
楓は、今時珍しいピュアな女の子だった。そして、自覚する程度には独占欲の強い、メンヘラ女子でもあった。
そんな楓は、自分が人一倍彼氏という存在に憧れを抱いているという自負を持っていた。
いつか私を好きだと言ってくれる運命の人がやってくると、この歳になっても本気で信じているのだから。
つまるところ、楓が普段接しているような女子たちは、楓から言わせれば本当の恋などしていないのだ。
だって、内面よりも相手からどう見られるか。そして、そんなカッコいい彼氏持ってる私凄いだろ、という子供が玩具を自慢するような、しょうもない理由に基づく恋なのだから。
「はぁ。白馬の王子様が、私の心を攫って行ってくれればいいのに」
溜息と共に吐き出された理想が理想でしかないことなど、楓とてもちろん理解している。
だけれども、子供の頃に読んだ王子様とメイドの禁断の恋と言った、作り物の恋物語が忘れられず、周りのような安っぽい恋(仮)をする気など、楓にはサラサラなかった。
だけど、その一方で。楓は、周りが話すデートには、興味があった。
巷では男女が一緒に出掛ければ、もうそれはデートだというのだが、楓のような女の子が下手に男を誘っては、誤解を招いて後が面倒くさい。そういう事もあってこれまで機会が無かった。
しかし、このままデートの一つも経験が無いようでは、いつかあのグループの会話に付いて行けなくなる日が来る。女子にとって所属グループとは、学校という閉鎖空間で過ごすうえではなくてはならないものなのだ。
もしも追い出されたりしようものなら、迫害コース一直線。
楓はスマホを開いて、ネットを開く。そして、『彼氏 デート』と検索を掛けてみた。
「なにこれ、レンタル彼氏?」
検索結果のトップに出てきたのは、『株式会社レンタル彼氏』のホームページだった。気になって、楓はそこをクリックする。
開いたページにまず出てきたのは、それはそれはイケメンが揃った、男たちの顔写真だった。
「うわ、この人カッコいい……」
適当に流してみていたのだが、ある一人の男が目に止まった。楓は気になって、気が付いたら顔写真をクリックしていた。
「へぇ。瑠唯、ね」
飛んだ先のページに乗っている情報を見ていく。
「同い年なんだ……。え、デート回数0回?」
それを見て、楓の興味はますます惹かれていく。楓にとって、相手の初めてというのは、とても価値がある物なのだ。
「えっと……。一時間4000円かぁ。でも、ちょっと遊ぶだけなら、まぁなんとなるかな?」
楓は、何となくやっていたバイトや、親からのお年玉とお小遣いを溜めているので、貯金には余裕がある。
レンタル彼氏を雇って、デートを経験してみることくらいは可能だった。
……って、私は何を考えてるの? 本気?
いつの間にかやってみたい、という思考に流されかけていた楓だが、冷静な自分の言葉に我に返った。
……でも、デートを経験できるなら、この出費は悪くないんじゃ?
既に瑠唯が気になり始めていた楓の思考は、再び傾く。
……それに、このままだと本当に会話に付いて行けなくなるかもしれないし。
くだらないとは思うが、それと自分の居場所を失うのは、話が別だ。あの場所を失って、虐めの対象になることは避けたい。
……じゃあ、やっぱりやってみるべきだね!
これはあくまでも、デートの経験をする為。
楓は、自分自身に言い訳を重ねて、納得させる。
結局その後。
楓は会員登録を済ませると、今週の日曜に瑠唯とのデートを予約した。
……あぁ、楽しみだなぁ。
ふふっ、と笑みを漏らす楓は、気が早いのを承知でデート用の服を見繕うのだった――
ボスンと、自室のベッドにダイブした楓が、天井を見上げながら溜息と共に呟いた。
楓が所属しているグループは、クラスカースト上位のグループだ。そう言ったグループでは、大抵の場合彼氏=ステータスの一種である。それも、ただの彼氏ではダメで、イケメンであることが要求される。
……はぁ、くだらな。
いつもいつも繰り返される、グループ内での彼氏自慢の話を思い出して、楓はそう吐き捨てた。
楓は、自分の容姿が並よりも優れていることを自覚している。だから、そこそこの容姿の男だって、あのグループにいればこれまでそれなりに寄ってきた。
そんな楓が彼氏を作らない理由は、学校で使っている建前のように、女の方が好きだとか、男に興味が無い、なんてことではなかった。
楓は、今時珍しいピュアな女の子だった。そして、自覚する程度には独占欲の強い、メンヘラ女子でもあった。
そんな楓は、自分が人一倍彼氏という存在に憧れを抱いているという自負を持っていた。
いつか私を好きだと言ってくれる運命の人がやってくると、この歳になっても本気で信じているのだから。
つまるところ、楓が普段接しているような女子たちは、楓から言わせれば本当の恋などしていないのだ。
だって、内面よりも相手からどう見られるか。そして、そんなカッコいい彼氏持ってる私凄いだろ、という子供が玩具を自慢するような、しょうもない理由に基づく恋なのだから。
「はぁ。白馬の王子様が、私の心を攫って行ってくれればいいのに」
溜息と共に吐き出された理想が理想でしかないことなど、楓とてもちろん理解している。
だけれども、子供の頃に読んだ王子様とメイドの禁断の恋と言った、作り物の恋物語が忘れられず、周りのような安っぽい恋(仮)をする気など、楓にはサラサラなかった。
だけど、その一方で。楓は、周りが話すデートには、興味があった。
巷では男女が一緒に出掛ければ、もうそれはデートだというのだが、楓のような女の子が下手に男を誘っては、誤解を招いて後が面倒くさい。そういう事もあってこれまで機会が無かった。
しかし、このままデートの一つも経験が無いようでは、いつかあのグループの会話に付いて行けなくなる日が来る。女子にとって所属グループとは、学校という閉鎖空間で過ごすうえではなくてはならないものなのだ。
もしも追い出されたりしようものなら、迫害コース一直線。
楓はスマホを開いて、ネットを開く。そして、『彼氏 デート』と検索を掛けてみた。
「なにこれ、レンタル彼氏?」
検索結果のトップに出てきたのは、『株式会社レンタル彼氏』のホームページだった。気になって、楓はそこをクリックする。
開いたページにまず出てきたのは、それはそれはイケメンが揃った、男たちの顔写真だった。
「うわ、この人カッコいい……」
適当に流してみていたのだが、ある一人の男が目に止まった。楓は気になって、気が付いたら顔写真をクリックしていた。
「へぇ。瑠唯、ね」
飛んだ先のページに乗っている情報を見ていく。
「同い年なんだ……。え、デート回数0回?」
それを見て、楓の興味はますます惹かれていく。楓にとって、相手の初めてというのは、とても価値がある物なのだ。
「えっと……。一時間4000円かぁ。でも、ちょっと遊ぶだけなら、まぁなんとなるかな?」
楓は、何となくやっていたバイトや、親からのお年玉とお小遣いを溜めているので、貯金には余裕がある。
レンタル彼氏を雇って、デートを経験してみることくらいは可能だった。
……って、私は何を考えてるの? 本気?
いつの間にかやってみたい、という思考に流されかけていた楓だが、冷静な自分の言葉に我に返った。
……でも、デートを経験できるなら、この出費は悪くないんじゃ?
既に瑠唯が気になり始めていた楓の思考は、再び傾く。
……それに、このままだと本当に会話に付いて行けなくなるかもしれないし。
くだらないとは思うが、それと自分の居場所を失うのは、話が別だ。あの場所を失って、虐めの対象になることは避けたい。
……じゃあ、やっぱりやってみるべきだね!
これはあくまでも、デートの経験をする為。
楓は、自分自身に言い訳を重ねて、納得させる。
結局その後。
楓は会員登録を済ませると、今週の日曜に瑠唯とのデートを予約した。
……あぁ、楽しみだなぁ。
ふふっ、と笑みを漏らす楓は、気が早いのを承知でデート用の服を見繕うのだった――
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