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36話「発覚」
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最近斑目に避けられている。ような気がする。会う約束を断られて3回目の時にそう思ったが、会わない代わりに電話は頻繁にしていたので、その時はさほど深刻には受け止めていなかった。
斑目が「忙しくて会えない」と言うならそうなのだろう。あいつは、意味もなく嘘を吐く奴じゃない。
「おかえり、灰人。今帰ったの?」
「ただいまです、緑さん……」
「どうしたの、随分疲れた声してるけど。仕事大変だった?」
「いえ……いや、それもあるのかもしれないですけど……緑さんに会えないのが寂しくて」
迷子の子犬みたいな声を上げる斑目。電話越しなのにどんな顔をしているのか分かるのは、あいつのすごいところだ。
だから俺も、それらしい言葉をかけることができる。あいつの求めているものに答えることができる。
「灰人に会いたいなぁ」
俺が言うと、しゅんとした声で
「会いたいです」
と斑目は言った。
違和感を覚えたのは、斑目が配信をしなくなった同時期に赤槻もまた配信をしなくなったと気がついてからだ。
そして違和感が的中したのは、赤槻からのとあるメッセージだった。
『リコリスって何のこと』
『緑、今どこにいるの』
『どうして何も言ってくれないの』
一瞬、時が止まった。それからじわじわと、紙に水が染みていくように俺の頭は文面を呑み込んでいった。
ああ、そうか。バレたのか。
バレるのも時間の問題だと思っていたが、ついに赤槻は「リコリス」のことを知ったのか。
体から力が抜け、立っているのも億劫な虚脱感に襲われる。しかし不思議と口元には笑みが浮かんでいた。安堵と落胆が混ざり合ったような複雑な気持ちだった。
恐らく事務所もこの件を認知しているはずだ。そうでなければ、事務所主導の配信活動をやめさせるわけがない。だけど声明を出していないということは、まだ公には出ていない情報なのだろう。
まだ事務所は俺のことを知らない。赤槻も斑目も、俺という存在を事務所に隠している。赤槻がそうするのはまだ分かるが、何故斑目が俺のことを隠そうとするのか分からなかった。
あいつは元々赤槻を守るために俺に接近してきたはずだ。リコリスが赤槻であると疑われないためにも、俺のことを正直に打ち明ける方が、あいつにもメリットがあるはずだ。
まさか、斑目は俺を守ろうとしているのだろうか。俺には何も言わずに、この問題を解決しようとしているのだろうか。赤槻を守るために秘密裏に俺に近づいたみたいに。
だとしたら馬鹿だ。そんなことをしたところであいつは何の得もしない。そもそも赤槻や俺のことを守る理由もない。結局は赤の他人の問題であり、全ては俺が解決しなければならない問題だった。
でも、あいつはそういう奴なんだ。
『彼方さんのお兄さんとしてではなく、緑さん自身のことを知りたいんです』
『困ったことがあったら連絡してください。僕で良ければ、いつでも相談に乗りますから』
『メリットなんて、なくたって良いんですよ。僕が緑さんの傍にいたいと思ったからそうする。それだけで良いじゃないですか』
あいつは自分にメリットがなくても、困っている人を見たら手を差し伸べるような奴だから。だから俺はあいつのことを好ましく思った。
でも、もうそろそろ終わりにするべきだ。これ以上あいつに迷惑をかけるわけにはいかない。
俺は斑目との約束を守れなかった。だけどそれで良かった。ようやく俺は自分の気持ちに区切りを付けることができる。
斑目が「忙しくて会えない」と言うならそうなのだろう。あいつは、意味もなく嘘を吐く奴じゃない。
「おかえり、灰人。今帰ったの?」
「ただいまです、緑さん……」
「どうしたの、随分疲れた声してるけど。仕事大変だった?」
「いえ……いや、それもあるのかもしれないですけど……緑さんに会えないのが寂しくて」
迷子の子犬みたいな声を上げる斑目。電話越しなのにどんな顔をしているのか分かるのは、あいつのすごいところだ。
だから俺も、それらしい言葉をかけることができる。あいつの求めているものに答えることができる。
「灰人に会いたいなぁ」
俺が言うと、しゅんとした声で
「会いたいです」
と斑目は言った。
違和感を覚えたのは、斑目が配信をしなくなった同時期に赤槻もまた配信をしなくなったと気がついてからだ。
そして違和感が的中したのは、赤槻からのとあるメッセージだった。
『リコリスって何のこと』
『緑、今どこにいるの』
『どうして何も言ってくれないの』
一瞬、時が止まった。それからじわじわと、紙に水が染みていくように俺の頭は文面を呑み込んでいった。
ああ、そうか。バレたのか。
バレるのも時間の問題だと思っていたが、ついに赤槻は「リコリス」のことを知ったのか。
体から力が抜け、立っているのも億劫な虚脱感に襲われる。しかし不思議と口元には笑みが浮かんでいた。安堵と落胆が混ざり合ったような複雑な気持ちだった。
恐らく事務所もこの件を認知しているはずだ。そうでなければ、事務所主導の配信活動をやめさせるわけがない。だけど声明を出していないということは、まだ公には出ていない情報なのだろう。
まだ事務所は俺のことを知らない。赤槻も斑目も、俺という存在を事務所に隠している。赤槻がそうするのはまだ分かるが、何故斑目が俺のことを隠そうとするのか分からなかった。
あいつは元々赤槻を守るために俺に接近してきたはずだ。リコリスが赤槻であると疑われないためにも、俺のことを正直に打ち明ける方が、あいつにもメリットがあるはずだ。
まさか、斑目は俺を守ろうとしているのだろうか。俺には何も言わずに、この問題を解決しようとしているのだろうか。赤槻を守るために秘密裏に俺に近づいたみたいに。
だとしたら馬鹿だ。そんなことをしたところであいつは何の得もしない。そもそも赤槻や俺のことを守る理由もない。結局は赤の他人の問題であり、全ては俺が解決しなければならない問題だった。
でも、あいつはそういう奴なんだ。
『彼方さんのお兄さんとしてではなく、緑さん自身のことを知りたいんです』
『困ったことがあったら連絡してください。僕で良ければ、いつでも相談に乗りますから』
『メリットなんて、なくたって良いんですよ。僕が緑さんの傍にいたいと思ったからそうする。それだけで良いじゃないですか』
あいつは自分にメリットがなくても、困っている人を見たら手を差し伸べるような奴だから。だから俺はあいつのことを好ましく思った。
でも、もうそろそろ終わりにするべきだ。これ以上あいつに迷惑をかけるわけにはいかない。
俺は斑目との約束を守れなかった。だけどそれで良かった。ようやく俺は自分の気持ちに区切りを付けることができる。
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