コーヒーの香りに引き寄せられて

休職

８

俺はゲイでありストレートの男には手を出さない。なぜなら、結末は始まりから見えており、どう考えても幸せにはなれない。ゲイとストレートが恋を身を結ぶことは小説だけの話だと思っている。

ただ、今の俺には心の拠り所が欲しかったのかもしれない。相手がストレートであってもゲイであっても、自分が想いを寄せる相手が欲しかったのかもしれない。



社会人になる前から自分がゲイであることは気づいていた。しかし、ゲイであることを認めたくない一心で彼女を作りストレートであることを演じた学生生活だった。社会人になると仕事が忙しい傍らでゲイの友人も出来始め、ゲイの世界について知ることができた。その世界ではワークライフバランスを保ち、同性のパートナーと一緒に幸せ日々を過ごす人が多くいた。平日は定時で仕事を終え、パートナーの待つ自宅に帰ると温かい料理が並べられ、一緒にお酒を飲みながら夜を過ごし、休日は新幹線や飛行機に乗って国内を旅行するという、絵に描いたような人生を歩んでいる人を目の当たりにした。

一方で俺自身はというと、ワークライフバランスという言葉の通り、バランスを保った生活を送ることはできていなかった。平日は遅くまで残業をしているか、出張で日本全国の支社や工場を渡り歩き、ゲイの友人の誕生日会をすっぽかしてしまったこともあった。休日も出張の前泊で潰れてしまうこともあった。

そんな仕事優先の俺には今までパートナーなんていなかった。

俺自身、相手のことを好きになったことはあったが、結局仕事優先の日々に嫌気が差して、付き合う前に離れていってしまった。今振り返ると、今後の人生に見通しが持てなかったのだと思う。俺だってパートナーを探していたら、仕事最優先の人と付き合いたいとは思わない。



俺はどこで人生の歩き方を間違えてしまったのかな。