白薔薇の聖女

紫暮りら

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23 もう少しだけ

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 フォルトは隣に座った聖女を見つめた。
 そして思う。
「自分が守りたい」と。
 乱暴な主面相ではなく、私が。

 下手に出てくる相手にここまで謙虚になれる人がいるだろうか。否。
 此方は薄々勘づいておられるのだろう。
 この世界の理屈と、聖騎士たちの関係を。

 今までの主たちはここはどこだとしきりに叫び、帰してくれと泣いた。もちろん、何も言わなかった人もいたが。
 彼らに目に等しく映っていたのは恐悸だった。未知を恐る者の目。
 そして何度も何度も朽ちていく姿をフォルトの中で見た。

 この人には、そうなって欲しくない。
 出来るならずっと自分がそばにいて……

「いただきます!」
 隣から聞こえた元気の良い声に我に返る。
「え~と、これはなんという食べ物ですか?」
 目を輝かせてそう尋ねてくる彼女に、むず痒い感情が湧き上がる。
「これはですね…」

「あっ、あのフォルト様!私もお話に参加してもよろしいでしょうか!!」
 興奮気味にそう言ってきたのは聖女様の──元サージェントの席の──向かいに座った少女。
(たしか……守護番号9番ニーネ、だったかな?)
 あまり表に出ることがないのでフォルトが見たものは記憶しているが合致しない。
「えぇ、もちろんです。大勢でいただく食事は、一人で食べる食事の数十倍美味しいですから。」
 そう言うと嬉しそうに「はいっ!」と笑った。
「わ、わたしも~」
 遠くでそんな声が上がる。
「あの、フォルトさん、わたしもニーネのよこにすわってもいいですかぁ?」
 双子の女の子の方が立っていた。
「はい、いいですよ。」
 そう言うとこちらも心底嬉しそうな表情で「ありがとうございます!!」という。

 それを見て、少し悲しくなった。
 自分が前にフォルトの体を使ってからどれくらいの時が経ったのだろうと。そしてその間、どうしてこれほどまでに聖騎士同士の間に溝ができてしまったのだろうかと思うと。
 自分が主面相であればと考えると悔しくて仕方がない。

「どうかしましたか?」
 我に返ると聖女様が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
 いけない、あと何秒、何分、何時間ここにいられるか分からない。いつ主面相が暴れ出すのか分からないのだから。
 せめて私がここに留まっていられる間だけは、この方にこの世界を楽しんでもらいたい。
「いいえ、なんでもありません!」
 さて、今度こそ食べましょうか。

 その時、聖女様のお腹が鳴り場はニーネのくすっという声が発端となり笑いに包まれる。
「わっ、笑わないでよニーネ、朝からりんごしか食べてなかったんだからぁ~!」
 そう照れる彼女はとても可愛らしく、食べたことの無いはずの料理を黙々と口に運んでいた。

 これがこの人の本当の姿なのかもしれない。
 それを横目に見ながら忘れないでおこうと誓い、スプーンを握った。
(もう少し、ここにいさせてください。フォルト。)
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